第18話:『繋ぐ戦術(スモールベースボール)』と『勝利(ゲームセット)』
「よし。――コボルドのリーダー(宿題)を片付けに行くぞ」
俺の宣言を受け、俺たちは訓練場から再びあの森へと足を運んでいた。
「……(ごくり)」
「……(ふぅー)」
隣を歩くルナリアとガルムの息遣いが聞こえる。
訓練場での特訓で、二人は確かな『手応え』を掴んだ。緊張の中にも、以前の撤退時にはなかった自信が、その背中から滲み出ている。
だが、一人だけ違う空気を纏っている奴がいた。リゼッタだ。
「(どうしよう……ルナリアちゃんもガルムさんも、すごく強くなったのに……私だけ、さっきの特訓中、何も変われてない……)」
彼女の心の声が、俺の『視点』に『エラー率(不安)』の数値上昇として表示される。
確かに、さっきの特訓はルナリアとガルムがメインだった。だが、俺たちの『新しい戦術』には、リゼッタの『特性』が不可欠だ。
俺は、敵と遭遇する前に全員の足を止めた。ミーナが「なんや、休憩か?」と不機嫌そうに俺を見る。
「作戦会議だ」
俺は全員の顔を見渡して言った。
「さっきの特訓で、ルナリアの『緩急』と、ガルムの『芯』は完成した。だが、あのリーダーを倒すには、まだ『鍵』が足りない」
俺は、俯きがちなリゼッタに向き直った。
「リゼッタ、お前が『1番』だ」
「え!? わたしが……!?」
リゼッタが素っ頓狂な声を上げる。
「無理です! また私、エラーして……!」
「させるか」
俺はリゼッタの言葉を遮る。
「お前が、以前練習した『仕事』で『出塁(かく乱)』する。ルナリアが、さっき掴んだ『緩急』で『繋ぎ(アシスト)』、ガルムが、同じく掴んだ『芯』で『還す(クリーンナップ)』」
俺は、困惑する三人と、腕を組んで黙って聞いているミーナに告げた。
「これが、俺たちの『戦術』だ!」
森の奥地。開けた場所に、奴らはいた。
高速疾走コボルド部隊。そして、その奥に鎮座するリーダー格。
「……おるな。前回より『守備』を固めとる」
ミーナの『千里眼』が、敵の警戒を捉える。
士気、地形、全てが敵に味方している。ここは完全な「ビジター」の戦場だ。
「オーダー(作戦)通り行くぞ!」
俺は叫んだ。
「リゼッタ、行け! お前の『仕事』は『倒す』ことじゃない、『当てる(バント)』ことだけだ!」
「は、はいっ!」
俺はバフの全てを、リゼッタの『スピード』と『恐怖心の抑制』に全振りする。
敵がリゼッタの突撃を警戒し、陣形を組む。
「(倒す、じゃない……! 慎吾さんの言った通り、『当てる』だけ……!)」
リゼッタは、敵リーダーが放った牽制の投擲に対し、突撃するのではなく、短剣で『当てるだけ(バント)』で完璧にいなした。
「(なに!?)」
敵リーダーの『視点』が、予想外の動きをしたリゼッタに一瞬だけ集中する。
「(エラー娘が……エラーじゃない動きを!?)」
敵が「エラー」で転ぶはずのリゼッタを待っていたため、反応がコンマ数秒遅れる。
リゼッタは、その隙を見逃さなかった。
持ち前の『足』で、敵の守備陣形(懐)の死角へと切り込む。
「(『出塁』、成功だ!)」
「(チッ……! まずはあの厄介な『足』からだ!)」
敵リーダーが、陣形を乱したリゼッタを排除しようとターゲットを変更した。
「ルナリア!」
俺の指示が飛ぶ。
「特訓の成果を見せろ! 『緩急』だ!」
「はい!」
ルナリアが、訓練場でのガルムとの『読み合い』を思い出す。
(『0』も『100』も、私が『使う』!)
完璧に『詠唱』を隠し、まずは「3割(遅い球)」の魔力弾を放つ。
「(速い球か!?……いや、遅い!?)」
敵リーダーは、リゼッタへの意識と、ルナリアの完璧な『詠唱』によって、完全に『読み(タイミング)』を外される。
慌てて回避したその体勢は、大きく崩れていた。
「(よし、『繋いだ(アシストした)』!)」
リゼッタがかく乱し、ルナリアが体勢を崩した。
完璧な『お膳立て(チャンスメイク)』だ。
敵リーダーの体勢が崩れ、無防備な『隙(あまい球)』ができた。
「ガルム!」
俺は、この瞬間を待っていたかのように構えていた男に、最後の指示を出す。
「訓練場の、**さっきのあの『音』**を思い出せ! 『芯』だ!」
「おうよ!」
ガルムが獰猛に笑う。
「(待ってたぜ! さっき『的』を粉砕した、この『芯』の感触を!)」
ガルムは『大振り(フルスイング)』ではない。
さっきの特訓で掴んだ、力を凝縮させる『ミート』の『型』で、斧を振り抜いた。
カキィィィン!!
訓練場に響き渡った、あの重く、澄んだ金属音が、再び森に響き渡った。
斧は、敵リーダーが咄嗟に構えた防御(武器)を『芯』で完璧に捉え、その武器ごとリーダーを粉砕した。
「「「…………」」」
リーダーを失ったコボルド部隊は、統率を失い、蜘蛛の子を散らすように撤退していく。
静寂が戻った森で、メンバーたちが呆然と立ち尽くしていた。
「(わたし……エラーしなかった……? 『1番』の仕事、できた……?)」
短剣を握りしめたまま、リゼッタが震えている。
「(さっきの特訓が……通じました、慎吾さん!)」
ルナリアが、興奮した様子で俺を振り返る。
「(さっきの時より、完璧な『芯』だった……! これが、『繋ぐ』ってことか!)」
ガルムが、自分の斧の『芯』を見つめ、満足そうに呟いた。
そっぽを向いていたミーナが、ふん、と鼻を鳴らす。
「……ようやく、『二流』の『型』になっただけや」
その声が、いつもより少しだけ機嫌が良く聞こえたのは、俺の気のせいではないだろう。
俺は、リゼッタ(1番)、ルナリア(2番)、ガルム(3番)という『新しい攻撃』の『型』が完成したことを確信し、汗を拭った。
「よし。『宿題』完了だ。ギルドに帰るぞ」




