第12話:扇の要(キャッチャー)の『千里眼(アナライズ)』
「次のクエスト(練習試合)に帯同してもらう」
俺の宣言通り、俺たちはミーナを連れて、ギルド指定の討伐クエスト……ゴブリンシャーマンが率いる小隊の討伐に来ていた。
メンバーは俺、リゼッタ、ルナリア、ガルム、そして『仮契約』のミーナだ。
ミーナは、ダンジョンの入り口で腕を組み、不 機嫌そうに周囲を眺めている。
「……ふぅん。ここが『テスト』の場所いうわけか。ほんで、あんたらが『エラーだらけの仲間』はん、と」
ミーナの『千里眼』が、ルナリアとガルムを値踏みするように走る。
「……なるほどな。こっちは魔力だけはあるけど、制御がガバガバの『魔法使い(ピッチャー)』。そっちは腕力だけはあるけど、隙だらけの『大振り戦士』か」
「なっ……!」
「んだと、テメェ!」
ルナリアとガルムが、即座に色をなす。
「(うわっ、こいつ、さっそく『ヤジ(デバフ)』を飛ばしてやがる……!)」
俺は慌てて間に入った。
「やめろ、ミーナ! お前の『エラー』はそこだと言ったはずだ。……いいか、お前は『扇の要』だ。仲間の力を引き出し、守りを固めろ」
「……へぇ。この魔法使いの何をどう引き出すっちゅうねん」
「それはお前の『眼』で判断しろ。……行くぞ!」
ダンジョンの奥。
ゴブリンシャーマンと、その護衛が数体、陣を組んでいた。
「リゼッタ、前衛! ガルムは中衛! ルナリア、後衛から魔法を撃ちこめ!」
「は、はいっ!」
「おう!」
「いきますっ!」
リゼッタが盾を構え、ガルムが斧を担ぐ。
ルナリアが大きく魔力を溜め、詠唱を開始した。
(よし、いつもの形だ。まずはルナリアの一撃で……)
その瞬間だった。
「――遅いわ、三流!」
ミーナの鋭い声が響いた。
「なっ!?」
ルナリアの詠唱が、一瞬乱れる。
「あんた(魔法使い)、そんなクソデカい詠唱の『予備動作』してたら、とっくに『先読み』されとるわ! 案の定、敵が飛び出しとるやないの!」
ミーナが指さした先。
ゴブリンナイトの一体が、ルナリアの魔力溜め(予備動作)を見て、こちらへ突進を開始していた。
「ひぃっ!?」
「(しまった! 完全に『読まれて』た!)」
俺の『視点』でも、ルナリアの詠唱(予備動作)が長すぎた『エラー』が見えた。
「ガルム、援護!」
「ちぃっ!」
ガルムが強引に斧を振りかぶるが、突進してきたゴブリンナイトの槍に弾かれる。
「(パワー(振り)は互角でも、タイミングが合ってない!)」
「きゃあっ!?」
リゼッタが盾で受けきれず、弾き飛ばされた。
(マズイ、守備が崩壊する!)
「――全員、三流やな」
冷たい声が響いた。
ミーナが、動揺する仲間たち(エラーだらけの選手)と、敵のゴブリンシャーマンを、その『千里眼』で交互に見比べていた。
「……監督もや。仲間の特性も理解ってへん。二流どころか三流や」
「……何だと?」
「けど」
ミーナは、ふぅ、と溜息を一つついた。
「……『エラー』を修正すのが、うち(守護戦士)の役目やろ」
ミーナは、動かない。だが、その声(指示)が、全員の耳に届いた。
「そこの『魔法使い(ピッチャー)』! あんたの魔力は『小出し』にするもんやない、『全力集中』型や! 小細工はいらん! 詠唱は最短! 最大火力で、あのデカブツ(シャーマン)の頭に叩き込め!」
「え、ええっ!?」
ルナリアが戸惑う。
「ええからはよやれ(指示に従え)! 魔法が逸れても、うち(わたし)が受け止めたるわ!」
(……いや、どうやって!?)
俺がツッコむ間もなかった。
「そこの『大振り(スラッガー)』! お前は『当てる』な! 『叩き割れ』! あのナイト(敵)の槍ごと叩き斬れ! 狙うは『懐』や!」
「へっ……! 面白え!」
ガルムがニヤリと笑う。
「エラー娘! あんたは『エラー』してええ! 転んでもええから、あのシャーマンの足元に滑り込め! 邪魔さえすりゃええ!」
「わ、私に……できるでしょうか……!」
「できるかやない! やるんや! あんたの『エラー』は、監督が拾う!」
「……っ!」
リゼッタが、俺を見た。
そうだ、それが俺の役割だ。
「行け、リゼッタ! お前のエラー(失敗)は、俺の『視点』で全部『修正』する!」
「――はいっ!」
ミーナの『千里眼(指示)』が、チーム全体に行き渡った。
それは、もう『ヤジ(デバフ)』ではなかった。
味方のエラー(弱点)を前提とした、最もエラー(リスク)の少ない、完璧な『指示』だった。
「おおおおおっ!」
ガルムが踏み込み、ナイトの槍ごと斧を振り抜く。
「いけえええええ!」
ルナリアが詠唱を捨て、魔力の奔流をシャーマンに放つ。
「いやあああああっ!」
リゼッタが(案の-定)派手に転びながらも、シャーマンの足元にしがみつく。
シャーマンの魔法が(リゼッタのせいで)逸れ、ガルムの斧がナイトを砕き、ルナリアの魔法が直撃した。
「……決着、やな」
砂埃が晴れると、ミーナが静かに立っていた。
「(……すげえ)」
俺は、初めて『エラー』をしなかった『扇の要』の背中を見て、息をのんだ。
「……ま、及第点やね。エラーだらけで、見てるほうが恥ずかしかったわ」
ミーナは、そっぽを向きながら言った。
「(……また顔が赤いぞ、この子)」
「ああ。良い指示、ナイス『修正』だ。ミーナ」
俺がそう言うと、ミーナは「ふん、二流が」と呟いて、ダンジョンの出口へさっさと歩き出した。
最強で最悪の女房役が、正式に加入した瞬間だった。




