ふたりの場合 木崎×花穂編 第2話
職場近くの公園の、キレイに整備されたすみれの花壇の横のベンチで、お昼時に男二人が話す内容ではないだろうけれど、女の子にそう思われていたなんて考えるとちょっとショックだった。
だから、それを木崎にも味合わせてやりたくて、俺は話を振った。
「さっき、女の子達が話してた、衝撃のうわさを聞かせてやろうか?」
公園内の喫茶店のオープンテラスで女の子同士で楽しそうに昼食をとる、長谷川ちゃんの姿をぼんやり眺める隣のヘンタイの木崎が煩わしそうに、こちらを向いた。
「なんと、俺達は出来てるらしい」
「……。なにそれ?面白い冗談だな」
そう言うと手にしていたサンドイッチを頬張るとまたオープンテラスの方を向いてしまう。
「え、それだけ?」
「そりゃそうだ、根も葉もない、噂だろ?」
コイツ的には嫌がるネタだと思って、反応を楽しみにしてたのにちょっとがっかりだ。
お前はそれでいいかもしれんが、こっちの身にもなってくれよ。
社内で調達するほど、飢えてはいないのだけれど、俺は彼女が最近居ないから、冗談でもそんな噂立てられたら困るんだよ。
「あ~あ、どーして長谷川ちゃん、経理部なんだろー。総務に来てたら、俺が手取り足取り、……、冗談だよ」
思わず心の声を口をだしてしまったら、木崎の殺気立った視線を感じて言葉尻を濁す。
そして、誤魔化すように話題を変えてやる。
「それにしても、長谷川ちゃんのことは周りに黙っているのか?」
「ああ、他人に余計な詮索されたら、たまらないからな」
確かに、社内恋愛は付き合うにしろ、別れるにしろ、いろいろ厄介な事が付きまとう。
黙っているのが一番の得策だ。
「そうそう、もう手は出したのか?」
「……お前、真昼間から何言ってんだ?脳みそ腐ってるのか?」
思い切り顔をしかめて心底嫌そうな声を出す。
「腐ってないけど、お前の事だし」
このストーカー的な行動からして大体は予想はつくけど。
「……、まだ」
しぶしぶ予想通りの答えをくれる、木崎。
「だろうなぁ。折角、誤解も解けて付き合えたんだ、さっさと手を出しちゃうに、一票」
「お前と、一緒にするな」
「またまたー、男なら、あんだけ可愛いんだもん。手を出したくなるってのが普通だろ?」
あまりいじってないダークブラウンの髪。抱きしめたらすっぽり納まってしまいそうな小さめの身体。痩せすぎてもない肉感の彼女。
今だって、木漏れ日の下ですら輝いているように見えるのに。
俺だったら、速攻で手を出してるね。
「……。手を出したら、手放せなくなりそうで、コワイ」
木崎がしばらく考えてから、ボソリと呟いたヘンタイ発言を俺は聞き逃さなかった。
「さすが俺が見込んだだけの、ヘンタイだ」
ヘンタイを否定しないで黙るなんて、コイツ自分でも自覚あるのか?
それにしても
「彼女の昼食姿ををこっそり見つめるヘンタイ、ヘンタイの横の俺。こんなにキレイに整備された花壇の横での出来事とは思えないわ」
「文句あるなら邪魔だから、どこかへ行け。飯は総務の女の子と行けばいいだろ?」
なんて言われたけど、そうは行きますか。
久しぶりの楽しい出来事。しっかり見届けさせていただきますよ?