別れを選ぶということ
それから私は、ヒトコがくれたものと、自分で見つけたものを、ひとつずつ確かめるように並べていった。
ノートに書いた感情の言葉。
うまく言えなくても、立ち止まって考えた時間。
勇気を出して声をかけた朝。
間違えたあとに、逃げずに向き合ったこと。
そのたびにヒトコは、「それは凛さん自身の選択ですね」と言ってくれた。
最初はその言葉の意味が、よくわからなかったけれど、今は少しだけわかる気がする。
――これは、私の足で歩いた道なんだ。
そう思えた夜、私は意を決して母に声をかけた。
リビングで、二人きりになるのを待ってから、深呼吸をひとつ。
「私、ヒトコと……お別れしようと思う」
言葉にした瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
母は驚いたように目を見開いて、それから少し間を置いて、静かにうなずいた。
「……そう」
それだけだったけれど、ちゃんと受け止めてくれたのがわかった。
「私ね、ヒトコがいなくなるかもって思ってから、色んな人と話したの」
言葉を選びながら、続ける。
「ヒトコからもらって、言われた通りやっただけだって思ってた。でも違った。ちゃんと自分で考えて、悩んで、努力して……少しずつ変わっていけてたんだって、気づいたの」
母は黙って聞いている。
私は視線を落としながら、でも止まらずに話した。
「友達もいる。困ったら助けてくれる人がいる。三輪さんも、高木さんも、ほのかも……それに、お母さんもこうやって話を聞いてくれる」
一度、息を吸う。
「だから……もう大丈夫だって、思えたの」
その瞬間、母の肩が小さく震えた。
「……凛……」
声がかすれて、母の目に涙が浮かぶ。
驚いて顔を上げると、母は泣きながら、でも笑っていた。
「凛、すごいね。本当に……本当によく頑張ったね」
涙をぬぐいながら、まっすぐに私を見る。
「お母さん、誇らしいよ」
胸の奥が熱くなって、私も泣きそうになる。
次の瞬間、気づいたら母に抱きしめられていた。
私も腕を回して、しばらくそのまま動かなかった。
やがて顔を上げると、目が合って、二人で少し照れたように笑った。
ヒトコとの別れは、きっと寂しい。
でも今は、怖くなかった。
私はもう、一人じゃない。
そして――私は、私の足で立っている。




