ちゃんと、最初から
ヒトコのことを、ほのかにメッセージで伝えたのは夕方だった。
言葉を選んで、何度も消して、やっと送った短い文章。
送信したあと、胸の奥が落ち着かなくて、スマホを何度も見返してしまう。
しばらくして返ってきたのは、たった一言。
「会おう」
それだけで、全部を察してくれた気がして、少し泣きそうになった。
急に決まった約束。
待ち合わせ場所に向かいながら、何を話せばいいのか分からなくなっていた。
不安も、寂しさも、ヒトコへの気持ちも、うまく言葉にできる自信がなかった。
私を見つけるなり、ほのかは勢いよく駆け寄ってくる。
「リンリン大丈夫!?つらいよね!」
そのまま続けて、
「私もさー!大事にしてたぬいぐるみ捨てられた時、めっちゃ悲しかったもん!」
……ぬいぐるみ。
ちょっとズレてる。
でも、必死に寄り添おうとしてくれているのが分かって、思わず笑ってしまった。
「それとは、ちょっと違うかも」
「だよね!?」
ほのかはすぐに頷いて、今度は真剣な顔で考え始める。
「あ!じゃあインコが逃げた時!?……あ、でも私インコ飼ってないや!」
うーん、と悩むほのか。
その様子がおかしくて、二人で顔を見合わせて笑った。
「もう、無理に例えなくていいよ」
「えへへ。なんかね、伝えたかったの!」
笑い合ううちに、胸の奥の固さが少しだけほどけていく。
ほのかは、急に真面目な声になる。
「メッセージって難しいよね。
だから会って話した方がいいって思ったんだ」
「私、ほんとになんでも聞くよ。
リンリン、何でも言っていいから」
その言葉に背中を押されて、私はゆっくり話し始めた。
「……私ね、ほのかと友達になれて、すごく嬉しい」
ほのかは黙って頷いている。
「でも、それってヒトコのおかげだと思ってて」
喉が少し詰まる。
「ヒトコがいなかったら、
私、人と話すの怖かったし、
ほのかとも、こんなふうに仲良くなれなかったと思う」
言い切ったつもりだった。
でも、ほのかは不思議そうに首をかしげた。
「んー……それは違うと思うな」
思いがけない言葉に、顔を上げる。
「私さ、ヒトコと友達になったんじゃなくて、
リンリンと友達になったんだけど?」
「え……」
「だって最初からだよ?」
ほのかは指を折りながら言う。
「話すのゆっくりだけど、ちゃんと聞いてくれたし、
私がいっぱい喋っても嫌な顔しなかったし、
変なところで真面目で、変なところで素直でさ」
「そういうリンリンがいたから、
私、話したいって思ったんだよ」
頭の中が、少し追いつかない。
「ヒトコはさ」
ほのかは、少し考えてから続けた。
「きっかけだったんじゃない?
自転車でいう補助輪とか、近道とか、そんな感じ」
「でも、漕いでたのはリンリンでしょ?」
その言葉が、胸にまっすぐ落ちてくる。
「リンリンは、もともと優しかったし、
人の話ちゃんと聞けるし、
それに逃げずに考えるところもある」
「ヒトコがいたから早く気づけただけで、
リンリンの良さは最初からあったんだと思うよ」
気づいたら、視界が少し滲んでいた。
ヒトコは道を照らしてくれた。
進みやすくしてくれた。
でも、歩いたのは私自身だった。
「……私、ずっと借り物だと思ってた」
「借り物じゃないよ」
即答だった。
「リンリンの足で、ちゃんと歩いてた」
その一言で、胸の奥が温かくなる。
ヒトコがいなくなる不安は、まだ消えない。
でも、私の中に残るものが何なのか、少し分かった気がした。
私は、最初から空っぽじゃなかった。
ヒトコは、早道を教えてくれただけだった。
そう思えたことが、何よりの救いだった。




