それぞれの反応
家に帰って、リビングのドアを開けた瞬間、少しだけ足が重くなった。
言わなきゃいけない。
でも、言葉にしたら本当に現実になってしまう気がして。
夕飯のあと、いつもの場所に集まる。
私はヒトコの筐体の前ではなく、ソファに座ったまま切り出した。
「……ヒトコのことなんだけど」
お母さんが、すぐにこちらを見る。
柚はテレビから目を離さないまま、「なにー?」と気のない返事。
「そろそろ、テストが終わるかもしれないって。
ヒトコと……お別れすることになるかも」
一瞬、空気が止まった。
「……大丈夫?」
お母さんの声は、静かだけど心配が滲んでいる。
私は少し背筋を伸ばして、笑おうとした。
「うん、大丈夫」
そう言ったけど、お母さんはわかっているみたいだった。
何も言わず、少しだけ困ったように、優しく微笑む。
全部見透かされている気がして、目を逸らした。
「えー!?」
今度は柚が勢いよく振り向く。
「ヒトコいなくなっちゃうの!?
やだー!ずっと一緒がいいー!」
ソファから立ち上がって、半分泣きそうな顔で駄々をこねる。
「柚、落ち着きなさい」
お母さんがやさしく、でもきっぱりと嗜める。
そのやり取りを、私は黙って眺めていた。
「でもね」
私は続ける。
「自分のペースで、終わりを決めていいって言われたの。
ちゃんと……気持ちの整理がつくまで」
「そう」
お母さんは小さく頷いた。
「それは良かったわね」
「え!?じゃあさ!」
柚がぱっと顔を明るくする。
「ずっと続けちゃおうよ!
終わり決めなきゃいいじゃん!」
その言葉に、一瞬心が揺れた。
できるなら、そうしたい。
ずっとこのまま、ヒトコがそばにいてくれたら。
でも。
「……ダメ」
自分でも驚くくらい、はっきりした声だった。
「ちゃんと向き合わないといけないから」
怖い。
寂しい。
それでも、逃げたままじゃいけない。
柚は少し口を尖らせてから、私を見る。
「……お姉ちゃん、えらいね」
お母さんも、静かに微笑んだ。
「凛が決めたことなら、応援するわ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
怖さは消えない。
でも、一人じゃない。
私は改めて思った。
この気持ちに、ちゃんと向き合おう。
ヒトコとの時間に、意味を持たせるために。




