ほのかに伝える
週末の午後、駅前のカフェのガラス越しに手を振る人影が見えた。
「リンリンー! こっちこっち!」
いつも通りの大きな声。少し照れくさくなりながらも、私は小さく手を振り返した。
久しぶりに会うほのかは、変わらず元気そうだった。
カップを両手で包みながら、次々と話題を出してくる。
最近見た映画の話、クラスの出来事、部活の顧問が相変わらずだという愚痴。
私はうんうんと頷きながら、それが不思議と心地よく感じられた。
前みたいに会話のテンポに置いていかれる感じが、今日はあまりなかった。
「で、リンリンのほうは? 文化祭どうだった?」
ほのかがカップを置いて、私の顔をのぞきこんでくる。
その一言に、胸の奥が少しだけざわついた。
「……うん。いろいろあったけど、楽しかった」
そう言葉を選びながら答えると、ほのかは目を丸くした。
「いろいろ? あの“いろいろ”ってやつ? 三輪さんとか?」
さすが、察しが早い。
私は少しずつ、文化祭での出来事を話した。
三輪さんと話したこと。
ポスターが破れたときに、三人で協力して乗り越えたこと。
そして最後に、三輪さんが謝ってくれたこと。
ほのかは、途中で何度も表情を変えながら聞いてくれた。
怒ったり、笑ったり、少し泣きそうになったり。
その全部が本気で、まっすぐで、見ていて安心した。
「へぇ……あの三輪さんが、謝ったんだ」
「うん。でも、謝られたとき、私……何て言えばいいかわからなかった」
「リンリンが?」
私は頷いた。
「“間違っててもいいんじゃないかな”って、言っちゃったの。自分でもびっくりしたけど……そう思ったの」
ほのかは少し考えてから、柔らかく笑った。
「それ、すごく凛らしいと思うよ」
「らしい?」
「うん。たぶんさ、凛って“正しいこと”を頑張ってきたじゃん。でも、正しさより“つながり”を選んだってことでしょ? それって強いよ」
私はその言葉をゆっくり噛みしめた。
ヒトコと話した夜のことを思い出す。
「うまくいかなくても、間違っても、それでも“誰かと笑えた”なら、それがつながりなんだと思う」
そのときの言葉を、今なら自分の声で言える気がした。
「うん……たぶん、そうだと思う」
「たぶん、ね」
ほのかはいたずらっぽく笑う。
「“たぶん”って言えるのがいいと思うよ。正解を決めなくていいってことでしょ?」
その言い方が、なんだか温かかった。
気づけば、窓の外はオレンジ色から夜の青へと変わっていた。
帰り際、ほのかが私の肩を軽く叩いた。
「でもさ、リンリン。ヒトコと話すのもいいけど、また私とも話してよ」
「うん、もちろん」
自然に言えた。
その瞬間、胸の奥で小さなあたたかさが灯るのを感じた。




