つながりのかたち
文化祭がいよいよ始まった。
校内はざわざわとした空気に包まれていた。
どの教室からも音楽や笑い声が漏れ、通りかかる保護者や生徒たちの足が止まっては、あちこちで写真を撮っている。
私たちの教室も例外ではなかった。
「見て、このポスター!」「めっちゃきれい!」
壁に貼られた大きな展示の前に、何人もの生徒が足を止めていた。
昨日、破れてしまったポスター。
修復した跡はよく見れば少しわかる。でも、それは不思議と悪目立ちしていなかった。
むしろ、テープの筋が“線”として新しい意味を持っているように見えた。
「これ、ほんとに中学生が作ったの?」
「“つながり”ってテーマ、めっちゃ伝わるね」
そんな声を耳にしながら、私は少し後ろから展示を見つめていた。
自分の指先が通った場所。あの裂け目をなぞるように、光が当たっている。
「綾瀬さん」
後ろから呼ばれて振り返ると、三輪さんが立っていた。
今朝よりもずっと落ち着いた顔をしている。
「……今朝の、ありがと。あれなかったら多分、展示間に合ってなかった」
「ううん。三輪さんが声かけてくれたから、みんなも動いた」
私の声はいつもより少しだけはっきりしていた。
そこに高木さんが加わる。
「ねぇ、見た? 片桐先生が写真撮ってたよ。うちのクラス“展示賞”の候補らしい」
「え、マジで?」三輪さんが目を丸くする。
「すごいね」と微笑む。
その笑顔につられて、三輪さんもふっと口元を緩めた。
やがて昼を過ぎ、発表の時間。
体育館のステージで結果が読み上げられる。
——“展示部門・最優秀賞 二年B組『つながりの教室』”。
一瞬の静寂のあと、会場がどっと沸いた。
三輪さんは一拍遅れて立ち上がり、高木さんと顔を見合わせた。
「……うそ、ほんとに?」
「ほら、ちゃんと“伝わった”ってことだよ」高木さんがにやりと笑う。
その隣で、私は胸の前で手を合わせながら、小さく息を吐いた。
拍手の中でステージに向かう三人。
壇上から見下ろすと、破れを修復したポスターの線が、光を反射してかすかに輝いて見えた。
その線が、まるで私たち三人を結んでいるように感じた。
表彰が終わって教室に戻る途中、三輪さんがぽつりと言った。
「……なんか、変だよね。あんなことあったのに、今こうして笑ってるの」
「変じゃないと思う」とゆっくり答える。
「たぶん、それが“つながり”なんだと思う」
高木さんが吹き出した。
「うわ、綾瀬さん、かっこいいこと言うじゃん!」
「べ、別に……思っただけ」
照れたように俯くと、三輪さんは笑いながら軽く肩を叩いた。
教室の窓の外には、午後の柔らかい光が差し込んでいる。
紙の上を走るテープの線が、金色にきらめいて見えた。
それはきっと、壊れてもつながり続ける関係の形。
——破れたポスターのように、
少し不格好で、でも確かに光を通す“つながり”が、今ここにあった。




