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破れたポスターと三人の手

文化祭当日の朝。

教室には紙と絵の具の匂いが混じっていた。

壁一面に広がる大きなポスターは、クラス全員で描いたもの。テーマは「つながり」。

その中央に描かれた手と手を結ぶ線を、私は透明なテープで慎重に貼っていた。

その隣で、三輪さんは飾り付けの紙花を微調整。

高木さんは動線の確認と人の流れをチェックしている。

準備は順調だった。——その瞬間までは。


「ちょっと押さえてて!」

後ろから別の班の声がした。脚立の上で飾りを直していた男子が、バランスを崩したのだ。

次の瞬間、金属がぶつかる音とともに、脚立が傾く。

「危ない!」

その男子がとっさに壁に手をついた。

——ビリッ。


破れる音が教室中に響く。

静まり返る空気。視線が一点に集まる。

そこには、ポスターの中央に大きな裂け目が走っていた。


「うそ……」

三輪さんは絶望的な声を出す。

あんなにみんなで作ったのに。怒るでも泣くでもなく、ただ頭が真っ白になるが無我夢中で必死に頭を動かし一歩前に出て、裂け目をじっと見つめる。

「……テープ、ある」

カバンの中を探り、透明の補修テープを取り出す。

破れた線の流れを指でたどりながら、どの順番で貼れば自然に見えるか、静かに真剣に考える。


「高木さん、あの端、少しずらして!」

私の小さな声に反応して、高木さんがすぐ動く。

「了解。——みんな、ここの飾り少し外して!」

周囲のクラスメイトも自然と協力を始めた。


三輪さんは倒れた脚立を押さえながら、男子に声をかけていた。

「大丈夫!? ケガない? こっちは大丈夫だから!」

涙目の男子が何度も頭を下げる。

「ご、ごめん……ほんとごめん!」

「気にしないで。すぐ直すから!」

励ます様に、明るい声をかけている。


私は破れた部分をテープで繋ぎ、指でなぞって空気を抜いていく。

集中して、慎重に、元通りになるように。

高木がその上から紙花をひとつ貼り、「目立たない、ね」と言って笑う。


数分後、破れ目は跡形もなく——とはいかないが、ほとんど気づかないほどになっていた。

私は三輪さんと高木さんの顔を見て、ようやく息を吐いた。


「……奇跡的に、バレないね」三輪さんが言う。

「むしろ、味が出たかも」高木さんが肩をすくめる。

私は指先でテープの上をなぞりながら、小さく微笑んだ。

「これも、今日の“つながり”の一部だと思う」


そう言うと、胸の奥が少し温かくなった。

破れたポスターを見上げると、テープで補修した線が、まるで本当に手と手を結んでいるように見えた。


「……ほんと、あんたってさ」

三輪さんが呟くと、高木さんが笑いながら言った。

「はいはい、素直に“ありがとう”でしょ?」

「うるさい」

そう言いながらも、三輪さんの口元には自然と笑みが浮かんでいた。


3人の笑い声が、展示準備のざわめきの中に溶けていく。

破れたポスターは、少し不格好で、でもどこか優しい“つながり”を残したまま、教室の中央で静かに光っていた。

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