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むかつく自分

「……むかつく。まじむかつく……」


ポテトの入った紙袋をぐしゃっと握りしめながら、私はまた同じ言葉をこぼした。

目の前の空は、ストローでジュースをかき混ぜながら「はいはい」と気の抜けた返事をする。

ファーストフード店のざわめきの中、私の声だけが少し浮いて聞こえた。


「もう十分でしょ。莉央の“むかつく”聞き飽きたよー」


その軽い言葉に、思わず空を睨みつける。

「なんか空、最近言うようになったよね」

「だって綾瀬さんと話しててさ、変わりたいって思っちゃったんだもん」

ストローをくるくる回しながら、空はにやっと笑った。


「そのおかげで、ほら、莉央とも前より仲良くなったと思ってるよ」


私はむすっと口をとがらせて、視線をそらした。

わかってる。空の言うことが間違ってないのは。

でも、なんかむかつく。


「さっきの“むかつく”だって、綾瀬さんに助けてもらったこと言ってるんでしょ?」

空がそう言ってきて、私は一瞬言葉に詰まった。

「何がいやなの?」


……何が、いやなのか。

自分でも、ちゃんとは言えない。

ただ胸の奥がもやもやして、うまく呼吸ができないような気がした。


「だって……前はもっと、ロボットみたいで、周りのことなんか見えてないみたいだったのに……」


思わず早口になっていた。

「なのに、庇ってもらうなんて。庇われたこともカッコ悪いし、いじめてたこともカッコ悪いし、最悪」


空はストローから口を離し、少しだけ笑った。

「はいはい。自分にムカついてるのね」


図星を突かれて、私は頬を膨らませた。

その仕草を見て、空はますますおかしそうに笑う。


「もういい加減、ちゃんと綾瀬さんと話したら?」

「わかってる! わかってるってば!」

思わず声を荒げて、視線を落とした。

「……明日、文化祭が終わったらちゃんと話すから」


「うん! がんばれ!」

空がまっすぐな笑顔を向けてくる。

なんか、ずるい。そういう笑い方ができるの。


「……ほんと言うようになったよね」

「私は今の自分、好きだよ? 莉央は?」


少し考えて、私は曖昧に答えた。

「嫌いじゃないけど……」


空がにっこりと笑って言った。

「そういう莉央の“嘘つけないとこ”、好きだよ」


「うるさい!」

反射的に言い返して、ポテトを一つ投げるふりをした。

空は肩をすくめて笑いながら、それをひょいっとかわす。


窓の外では夕焼けがにじんで、通りを行く人たちの影を長く伸ばしていた。

それをぼんやり見ながら、胸の奥に小さな痛みが残る。


“助けてくれるおかげで順調です”

あの時、凛が言った言葉が頭の中で何度もリフレインする。

あの子の手の温かさも。


むかつく。

でも、たぶん――嬉しかった。


あの瞬間、どうして涙が出そうになったのか、わからない。

ただ、自分の中で何かが少し変わった気がした。


きっと、ちゃんと話さなきゃいけない。

謝るとか、言い訳するとかじゃなくて、

あの時感じた気持ちを、そのまま伝えたい。


「……空」

「ん?」

「私、明日ちゃんと話すね」

「うん。知ってる。莉央ならできるよ」


その言葉が、少しだけあたたかくて、

でもどこか胸がきゅっとなった。


紙コップの底に残った氷がカランと鳴る。

その音が、私の決意みたいに小さく響いた。

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