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文化祭準備の午後

放課後の教室には、紙のざらりとした音と、マジックのインクの匂いが漂っていた。

文化祭のポスターを描くために、三輪さんと私は机を並べて作業をしていた。


「こっち、色塗っておいてくれる?」

「うん」


淡々としたやり取り。だけど、もうそれが当たり前のように口をついて出る。

私はポスターの大きな文字を塗りつぶしながら、ちらりと三輪さんを見た。


真剣に線を引く横顔。けれど、その眉間にはほんの少しだけ険しさが残っているように見えた。


「……疲れてる?」

思わず口から出た言葉に、自分で驚く。前なら絶対に言えなかった一言。


三輪さんはペンを止めて、私の方を見た。

一瞬、返事はない。けれど、深くため息をついたあとで――


「まあ、ね。やること多すぎ。みんな適当に丸投げしてくるし。……なんか、不公平」


苛立ち混じりの声。それでも、その奥に小さな弱さの影が見えた気がした。

私は言葉を探しながら、ペンを握り直す。


「……私も、ちゃんとやるよ。任せっぱなしにしないから」


静かな返事をすると、三輪さんはほんのわずか、目を伏せて「ふん」と鼻を鳴らした。

それが否定ではなく、どこか照れ隠しのように思えて、私は少しだけ胸があたたかくなる。


作業の音がまた教室に戻る。

色を塗る手を動かしながら、私は心の中で思った。


――少しずつでも、近づけているのかもしれない。


「できたー!」

高木さんが色ペンを放り出して、完成したポスターを掲げた。

教室に響く声に、私は思わず笑ってしまう。


「思ったより派手になったね」

「派手すぎ? でも文化祭っぽいでしょ!」


高木さんは無邪気に胸を張る。

その横で三輪さんは腕を組んで、じっとポスターを眺めていた。


「……悪くない。文字はちょっと雑だけど、まあ許容範囲」


一瞬、また辛口の言葉かと思った。けれど声の調子はとげとげしくなくて、むしろ少し照れているようにも聞こえた。


「えっ、褒めた?」

高木さんが身を乗り出す。

「えっ、今の褒め言葉だったよね? 莉央に褒められるなんて超レア!」


「ち、ちがっ……! そういうんじゃない!」

慌てて視線を逸らす三輪さん。


私はそのやり取りに小さく笑いそうになるのを必死でこらえた。

だけど――確かに見えた。三輪さんの表情に、苛立ちだけじゃない柔らかさが混じった瞬間を。


「ふふ……」

つい漏れた笑い声に、三輪さんが私をにらむ。

でもその目は、前みたいに刺すようなものではなく、どこか拗ねたような色をしていた。


その小さな変化が、心の奥をじんわりあたためた。

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