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揺れる影の向こうで

最近、三輪さんが変だ。

それに気づいたのは、ほんの些細なことからだった。


いつもなら私が高木さんと話していると、必ずといっていいほど睨んできたり、舌打ちをしたり、わざと聞こえるように嫌味を言ったりしていたのに――今は、何もしてこない。廊下ですれ違っても、視線が私を射抜くことはなく、ただ、どこか遠くを見ているような表情のままだった。


朝の教室でも、昼休みの教室でも、三輪さんは机に頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を見ていることが増えた。まるで、そこには誰もいないみたいに。


「……どうしたんだろう」

心の中でつぶやく。けれど答えは出ない。


私は、あの日のことを思い出す。先生に呼び出されたあと、三輪さんの様子が変わったと高木さんが教えてくれた。詳しいことは聞けなかったけれど、あの呼び出しがきっかけなのだろう。そこから、三輪さんは「怒る」よりも「沈む」ことが多くなった。


怒っている三輪さんは怖かった。でも、沈んでいる三輪さんは――もっと、怖い。


睨まれていれば「あぁ、嫌われてるんだ」と理解できる。何を考えているのかがわからない今の三輪さんは、距離感をつかめなくて不安になる。


放課後、教室に残ってノートを整理していたとき、ふと視線を感じて顔を上げた。

窓際の席に三輪さんが座っていた。誰もいない教室で、カーテンの隙間から入る光に照らされて、机の上に影を落としている。


その姿は、私が知っている「いつも強気で、何でも言い返してくる三輪さん」とは全然違って見えた。どこか儚げで、少しだけ孤独に見えた。


「……」

声をかけようとした。けれど、喉が詰まったみたいに声が出ない。


何を考えているのだろう。

何があったのだろう。


知りたい気持ちは確かにある。でも、もし声をかけてまた怒らせてしまったら――そう思うと足がすくんでしまう。


私はペンを握りしめ、ノートに意味のない線を描いた。そうでもしなければ、心のざわつきをごまかせなかった。


三輪さんは、相変わらず窓の外を見つめている。遠くにいるようで、近くにいる。近くにいるのに、届かない。


「……怖い」

小さく、心の奥で呟いた。


私はまた俯き、ノートに視線を戻すしかできなかった。

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