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話せる時を待ちながら

私は、少しずつ胸の奥に溜まっていた緊張を解きながら、高木さんに声をかける勇気を持てるようになっていた。けれど、心の中にはまだ一つの不安が残っていた。

――自分と話すことで、高木さんが困っているんじゃないか。


そう思うと、嬉しい気持ちの裏で小さな罪悪感のようなものが芽生えてしまう。ある日の昼休み、思い切ってその不安を言葉にした。


「……あの……高木さん。私と話して……大丈夫?」


小さな声だった。けれど、真剣な問いかけがそこにはあった。

高木さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに少し困ったように笑った。


「んー……正直に言うと、あんまり大丈夫じゃないかな」


その言葉に、私の胸はきゅっと縮んだ。やっぱり――そう思った。けれど、高木さんは続けた。


「でもね、ちゃんと莉央にも説明してあるんだ。綾瀬さんと話したいって。だから、説得するまで待っててもらえる?」


「……三輪さんに?」

「うん、莉央って、ちょっと気を使うとこあるでしょ。あの子がいる時は、私もあんまり余裕し莉央も納得はしてないからさ。でも、いない時なら大丈夫だから」


高木さんの声は正直で、それでいて優しかった。無理に明るく取り繕うのではなく、本音を見せてもらえたことが、嬉しかった。


「……じゃあ……三輪さんがいない時に、話す……?」

「そうしよ。無理に隠したりしなくていいし、綾瀬さんも安心できるでしょ」


そう言って笑った高木さんの表情に、少し肩の力が抜けた。


それからの毎日はほんの少しずつ変わっていった。

三輪さんが一緒のときは、黙って机に視線を落とした。けれど、ふとした瞬間に三輪さんが席を外すと、高木さんは目を合わせてくれる。


「今日の授業、難しくなかった?」

「……ちょっと……でも、高木さんはすごい」

「えー、そうかな。私も苦戦してるんだよ」


そんな小さな会話が、点と点を結ぶみたいに増えていった。短い時間でも、高木さんがこちらを向いてくれることが、何よりの励みだった。


そして、放課後。三輪さんが先に帰った日、高木さんは少し笑いながら私に話しかけた。


「ねえ、少しずつだけど……話せるようになってきたね」

「……うん。ありがとう」


返事は短かったけれど、胸の奥は温かく満たされていた。


ヒトコに相談して一歩踏み出し、不安を正直に言葉にしてみたら、相手の本音を聞けた。

それは、私にとって「話す」ことの意味を少し変えてくれる出来事だった。


――自分が迷惑になるかもしれない。

そう考えてしまうと、踏み出す足は止まりそうになる。けれど、相手も正直な気持ちを見せてくれると、その間に小さな橋が架かる。


私はその橋を渡りながら、ゆっくりと、でも確かに前に進んでいた。

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