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三輪の胸に隠したもの

朝から落ち着かなかった。

黒板に映る朝日も、窓から吹き込む風も、何もかもがざらついて見える。

昨日のことがずっと頭から離れない。


優しく声をかけてくれるだけで、心臓が跳ねて、どうしようもなく舞い上がってしまって。先生と話してる時は楽しかった。

なのに


「綾瀬はクラスで浮いてないか?」


あいつの名前が出た。それだけで胸の中でドス黒い感情が渦を巻いてしまう。

特別扱い扱いされてるあいつ。

あいつの存在が、私の中の何かを乱す。


ーーー


そして、今朝。

空とあいつが親しげに言葉を交わすのを見てしまった。

気づけば私は、声を荒げていた。


「なんでそいつと話してんの、空!」


空の名前を呼ぶ時でさえ、睨みつけている自分に気づく。

教室がざわつき、クラスの視線が一斉にこちらに集まった。

焦りと羞恥で顔が熱くなるのに、止まらない。


「ほんっと空気読めないんだけど!」

綾瀬を指さして、言葉が刃物みたいに飛び出す。

自分でも、何をしているんだろうと頭の片隅で思いながら。


ーーー


そして職員室。

片桐先生に呼び出され、3人並んで立たされた。


「大声で喧嘩してただろ。いったい何があったんだ?」


先生の声はいつものように落ち着いている。

けれど私の心臓はバクバクして、全身が汗ばんでいた。


やばい、やばい、バレたら……


「もしかして綾瀬がなにかしたのか?」

先生がそう言った瞬間、胸がズキンと痛んだ。

――本当は逆だ。いじめているのは私。

でも、その言葉を自分の口から出せるわけがない。


「い、いや……」

空が慌てて否定してくれた。

それにまた胸がチクリと痛む。

なんで私、こんなことをさせてるんだろう。


「綾瀬、どうなんだ?」

先生の視線が綾瀬に向く。

その目が優しいからこそ、余計に恐ろしかった。


そして綾瀬は――。

「私は、なんで三輪さんにいじめられるのか知りたくて……」


「はあっ!?」

思わず彼女の口を塞いでしまった。

頭が真っ白になって、とっさに笑いで誤魔化す。


「冗談やめてよー! ほんとに喧嘩しただけだし! ねっ!」


声が裏返り、笑顔が引きつっているのが自分でもわかる。

でも先生はじっと私を見つめていて、視線が怖かった。

「本当に大丈夫か?」

そう言われた瞬間、心臓が跳ねて、足がすくみそうになった。


「ほんとに喧嘩しただけです! もう仲直りしました!」

そう言って、無理やり2人の腕をつかんで職員室を飛び出した。


ーーー


廊下を歩きながら、呼吸が乱れる。

怒りと不安でいっぱいで、頭の中が整理できなかった。


「ほんっと最悪! なんであんなこと言うの!? 空気読めないにもほどがある!」

綾瀬に向かって言葉をぶつける。

止めようとしてくれる空にも、八つ当たりみたいにきつく言ってしまった。


「……ごめんね」

空が小さな声で謝る。

「発達障害のこと、私も聞いたから。今朝のことも、そのせいで説明しようとしたのかなって……。事前に打ち合わせしとけばよかったね」


発達障害……?

聞き慣れないその言葉が耳に残る。

でも今はそれどころじゃなかった。


綾瀬も「ごめん」と小さくつぶやく。

その真剣な目を見て、また胸がざわついた。


「片桐先生に嫌われたかもしれないじゃん!」


思わず口を押さえる。言うはずじゃなかった言葉が口を突いて出てしまった。

顔が火照っていくのがわかる。


そして、追い打ちのように。

「もしかして……片桐先生のこと、好きなの?」


心臓が爆発しそうだった。

視界がぐらりと揺れる。

全身が熱くて、同時に背中に冷たい汗が伝う。


なんで……あんたに……気づかれるのよ


「そんなんじゃないし!」

必死に否定する。

でも声は弱々しく、誰の耳にも本当には聞こえなかったと思う。


綾瀬は追及しなかった。

ただまっすぐに、静かな目で私を見ていた。

その視線が怖くて、逃げ出すしかなかった。


走り出す足が止まらない。

心の奥で叫んでいる。


――知られたくなかった。

――でも、本当は。


その「好き」という感情を否定しきれない自分に、一番怯えていた。

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