ノートに残す言葉
放課後、家に帰ると柚が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん! 今日、学校どうだった?」
柚の目はキラキラしている。私は一瞬、答えを迷ったけれど――思い出すと自然と口角が緩んでしまう。
「……なんにもない」
柚は「嘘だー」と声をあげた。
「絶対いいことあった!だってお姉ちゃん笑ってたもん。最近、お姉ちゃん変わってきたから、表情でわかっちゃうもん」
私は返事をしなかったけれど、その言葉が心にじんわり広がる。
ーーー
夕食が終わると、私はいつものようにヒトコの前の席に座った。
机の上には開いたノートとペン。
今日のことを思い出しながら、少しずつ書き留めていく。
画面に映るヒトコの顔が、こちらを見てやわらかく微笑んだ。
「凛さん、今日は学校でどんなことがありましたか?」
「……高木さんと、ちょっと話した」
言葉にすると、胸の奥が少しくすぐったい。
「そうなのですね。それは大きな一歩です」
「……うん」
ノートのページに、「高木さん 早めに教室に来てくれた」「柔らかくなったって言ってくれた」と書く。
書きながら、その瞬間の表情や声がよみがえる。
自然と笑ってしまった自分のことも。
「笑えたんです」私は小さくつぶやいた。
ヒトコはうなずくように目を細める。
「記録しておくことで、凛さんの中に温かさが残りますよ」
「……忘れたくないから」
ノートにペンを走らせる。
そして最後に小さな文字で書き加えた。
――「私、ロボットじゃない」
書き終えると、手のひらが少し熱くなる。
隣で柚がじっと覗き込んで「お姉ちゃん、なんかすごいこと書いた?」と聞く。
私はノートを閉じながら、少しだけ照れて答えた。
「……秘密」
けれど、その秘密は、私の中で確かに光っていた。




