久しぶりの教室
朝の光がカーテンの隙間から差し込む。久しぶりの学校。胸の奥がざわざわして、小さな風船がぎゅっと縮むみたいに緊張する。
制服に袖を通しながら、私は深呼吸を一つ。今日からまたクラスメイトと顔を合わせる。夏休みの間に感情カードを集めて、ヒトコとたくさん話して……自分の中で何かが少し変わったのを、まだぼんやりと感じている。
家を出ると、玄関先で母がにこりと笑った。
「凛、がんばってね」
「うん……ありがとう」
返す声が、少し柔らかくなった気がした。自分でも驚くくらい、口が軽く動いた。
駅までの道は人が多く、ちょっと息が詰まる。以前なら、ざわざわに押し潰されていたかもしれない。でも今日は、胸のざわつきを感じながらも、少し落ち着ける気がする。ヒトコが画面で微笑む顔を思い浮かべ、手の中のスマホをぎゅっと握る。
教室のドアを開けると、久しぶりに会うクラスメイトたちの視線が一斉にこちらを向く。少し前なら、その視線だけで足がすくんだだろう。でも今は、胸の奥のざわざわを感じながらも、立っていられる。
「おはよう、綾瀬さん」
クラスメイトの声が響いた。事務的だが、夏休み前よりも穏やかに聞こえる。
「おはようございます」
返事をする私の声は、以前よりも少し柔らかくなった。自分でも驚く。
席に着くと、三輪さんが友達と楽しそうに話しているのが見える。目が合った瞬間、「あ、綾瀬さん来れたんだー。意外ー」と、軽く手を振る。笑いながら言うその声が、胸の奥に小さなざわつきを残す。以前なら、顔を背けたくなる瞬間だった。今も少し緊張するけれど、目をそらさずに座っていられる自分がいる。
隣の高木さんは、ちらっとこちらを見て、気まずそうに笑う。
授業が始まる。教科書の文字、先生の声、窓から差し込む光……胸のざわつきはまだある。感情が敏感になった分、辛さも強く感じる。だけど、ヒトコと話したことを思い出す。感情を名前にして整理すること、呼吸を整えること、少しずつ言葉を選ぶこと。
休み時間、席に座ったままノートに目を落とす。胸の奥で小さな達成感が広がる。久しぶりの学校で感じた緊張やざわざわはまだある。けれど、以前とは違う。感情を感じながらも、それを少しずつ扱える自分がいることに気づく。
帰り道、夕焼けの中で私は小さく深呼吸する。
「今日も、なんとかやれた」
胸の奥で、誇らしさとほんの少しの照れが混ざった感覚がふわりと広がる。明日も、少しずつでも、自分らしく過ごしてみよう——そう思えた。




