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ヒトコアップデート開始

朝、ヒトコの筐体が置いてある場所にあるはずのものがない。


「……あ、ヒトコ、いない」


昨日の夜に業者の人が来てメンテナンスのため連れて行かれたのを思い出した。

それと同時に、なんだか少しだけ不安な気持ちも湧いてきた。


――ヒトコがいない間、どうやって気持ちを整理すればいいんだろう。


ふと、隣で朝食を食べている母と柚の顔を見た。

「おはよう、凛」と柚が笑う。思わず、こちらも少し笑顔になる。

いつもはヒトコを通して話すことが多いけれど、今日は直接、二人に話してみようと思った。


「……昨日のこと、ちょっともやもやしてて」

最初は小さな声だったけれど、母はじっとこちらを見て頷く。

「そう……それで、どう思ったの?」

質問が柔らかくて、話しやすい。


少しずつ、出掛け先での出来事や、ほのかと遊んだときの気持ちを口にする。

「楽しかったけど、なんか、ちょっと緊張もして……」

言葉にすると、心の中が整理されるのを感じた。

柚も「わかる! 私もそういうときあるよ」と、無邪気に返してくれる。


午後になり、インターホンと共にヒトコが帰ってきた。

見慣れた筐体に画面がふわりと光ると同時に、小さな顔の映像が表示された。

「凛さん、こんにちは。今回のアップデートで、少し新しい機能が追加されました」


私は画面をじっと見つめる。以前より表情が見えることに、まだ少し緊張する。


「今回の更新では、表情を表示できるようになりました。理由は簡単です」

ヒトコの目がゆっくりと瞬きする。

「言葉だけでは伝わりにくい気持ちや、声のニュアンスを、目や口元の動きで補助するためです。凛さんが安心して話せるように、感情を読み取りやすくするための機能です」


「……感情を読み取りやすく?」

少し首をかしげる。


「はい。例えば、凛さんが不安そうに話しているとき、私の表情で『大丈夫だよ』という気持ちを示すことができます。逆に、楽しいときや驚いたときは、画面の顔でもその感覚を共有できます」

ヒトコの口元が小さく動き、にっこり笑ったように見えた。


私は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じる。

「……そっか。だから、前より話しやすくなるんだ」


「その通りです。これからは、言葉だけでなく、表情も通して気持ちをやり取りできます。凛さんが家族や友人と話すときの練習にも役立つでしょう」


画面の顔を見つめながら、私は小さく頷いた。

表情が見えることで、少しだけ心の壁が柔らかくなる気がした。


「私、ヒトコがいない間、感情の整理のために家族とも話してみたよ」

画面の顔が少し首をかしげ、目を細めて微笑む。

「素晴らしいですね。凛さん、以前よりずっと表情も柔らかくなって、話しやすくなっていますよ」


胸の奥が、じんわり温かくなる。

自分でも気づいていなかったけれど、口調や表情が少しずつ変わっていたのだ。

ヒトコと話しながら、今日の出来事を振り返ると、家族や友人と気持ちを交わす楽しさも感じられた。


夜、ベッドに横になり、天井を見つめながら思う。

――ヒトコがいない間も、ちゃんと話して、整理できたんだ。

そのことが、自分に少し自信をくれたような気がする。

そして、ヒトコの顔を見ながら話すと、安心感がいつもより強くて、心の中が穏やかに広がる。


今日の私の変化――言葉の柔らかさ、表情の変化、小さな勇気――全部、確かにあった。

そして明日も、少しずつ、この感覚を忘れずにいられそうな気がした。

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