小さな誇らしさを胸に
家に帰ると、すぐにヒトコを起動した。
「今日のワークショップ……」と、少し声を低くして話し始める。胸の中には、まだ少しドキドキする気持ちが残っていた。
ヒトコの画面がやわらかく光る。
「どんなことがあったのですか?」
言葉にするのは難しい。だけど、今日自分が体験したことは、ちょっと特別だった。
「……先生に、褒められた。表情が明るくなったって……口調も、前より柔らかくなったって」
ヒトコは静かに頷き、声を落ち着けて言った。
「そのとき、どんな気持ちがしましたか?」
少し考えて、口を開く。
「うーん……なんだろう……ちょっと……胸の奥に、小さな光がぽっと灯ったみたいな……それから……耳の奥や首筋がじんわり熱くなって、心臓の鼓動がちょっと速くなるっていうか……」
「なるほど。まだその感情の名前が分からなかったのですね」
画面の向こうで、ヒトコがゆっくりと説明してくれる。
「その感情は、誇らしさと照れ、です。自分が頑張ったことを認められたときに感じる、温かく少し落ち着かない気持ちです」
胸の中で、ふわりと軽い光が広がったような気がする。画面の向こうのヒトコを見つめながら、手に持っていた感情カードをそっと取り出す。
黄色のふちどりのカードを見つめる。
――誇らしさ。
その隣に、少し赤みがかったカードが並ぶ。
――照れ。
今日の自分の気持ちが、このカードのどこかに収まっていると思うと、なんだか少し安心する。これで、今集められる感情カードは全部揃ったのだ。
「ヒトコ……全部集め終わったよ」
画面の向こうで、ヒトコが優しく光った。
「おめでとうございます。これで、感情を見つけ、名前をつける準備は整いましたね」
少しだけ胸を張り、私はそのままキッチンに向かう。母と柚が夕飯の準備をしている。少し勇気を出して、今日のことを話してみた。
「今日ね、ワークショップで……感情カード、全部集め終わったんだ」
柚は目を大きく見開き、手をぱっと合わせる。
「ええ!? すごい! 本当に全部?」
母もにっこり微笑み、私の肩に軽く手を置いた。
「全部集めたのね。よく頑張ったね、凛」
胸の奥がじんわり温かくなる。褒められると、やっぱり少し照れるけれど、それ以上に嬉しい気持ちが広がる。誇らしさと照れが一緒に胸に灯る感じだ。
「ありがとう……」小さく言うと、柚も母も笑顔で頷いてくれる。
夕飯のテーブルに座ると、みんなでにぎやかに話しながら食事をする。
「今日ね、ワークショップでちょっと面白いこともあったんだ」
「へぇ、どんなこと?」
少し言葉に詰まりながらも、今日の活動のことや、先生に褒められたことをゆっくり話す。母も柚も興味津々で聞いてくれる。話すうちに、胸の奥のもやもやや緊張はすっかり消えて、代わりに温かい光が残った。
夕飯が終わるころには、なんだか少し大人になった自分を感じる。感情カードは全部揃ったけれど、これからの日々でまた新しい気持ちが生まれるだろう。そのための小さな一歩を、今日、自分は踏み出せたのだ。
「明日も、少しずつ……頑張ろう」
そう呟きながら、私は食器を片付ける母と柚の背中を見つめた。胸の中に残った誇らしさと照れは、静かに、でも確かに私を前へ押してくれる光になっていた。




