表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/92

小さな誇らしさを胸に

家に帰ると、すぐにヒトコを起動した。

「今日のワークショップ……」と、少し声を低くして話し始める。胸の中には、まだ少しドキドキする気持ちが残っていた。


ヒトコの画面がやわらかく光る。

「どんなことがあったのですか?」


言葉にするのは難しい。だけど、今日自分が体験したことは、ちょっと特別だった。

「……先生に、褒められた。表情が明るくなったって……口調も、前より柔らかくなったって」


ヒトコは静かに頷き、声を落ち着けて言った。

「そのとき、どんな気持ちがしましたか?」


少し考えて、口を開く。

「うーん……なんだろう……ちょっと……胸の奥に、小さな光がぽっと灯ったみたいな……それから……耳の奥や首筋がじんわり熱くなって、心臓の鼓動がちょっと速くなるっていうか……」


「なるほど。まだその感情の名前が分からなかったのですね」


画面の向こうで、ヒトコがゆっくりと説明してくれる。

「その感情は、誇らしさと照れ、です。自分が頑張ったことを認められたときに感じる、温かく少し落ち着かない気持ちです」


胸の中で、ふわりと軽い光が広がったような気がする。画面の向こうのヒトコを見つめながら、手に持っていた感情カードをそっと取り出す。


黄色のふちどりのカードを見つめる。

――誇らしさ。

その隣に、少し赤みがかったカードが並ぶ。

――照れ。


今日の自分の気持ちが、このカードのどこかに収まっていると思うと、なんだか少し安心する。これで、今集められる感情カードは全部揃ったのだ。


「ヒトコ……全部集め終わったよ」

画面の向こうで、ヒトコが優しく光った。

「おめでとうございます。これで、感情を見つけ、名前をつける準備は整いましたね」


少しだけ胸を張り、私はそのままキッチンに向かう。母と柚が夕飯の準備をしている。少し勇気を出して、今日のことを話してみた。


「今日ね、ワークショップで……感情カード、全部集め終わったんだ」


柚は目を大きく見開き、手をぱっと合わせる。

「ええ!? すごい! 本当に全部?」


母もにっこり微笑み、私の肩に軽く手を置いた。

「全部集めたのね。よく頑張ったね、凛」


胸の奥がじんわり温かくなる。褒められると、やっぱり少し照れるけれど、それ以上に嬉しい気持ちが広がる。誇らしさと照れが一緒に胸に灯る感じだ。


「ありがとう……」小さく言うと、柚も母も笑顔で頷いてくれる。


夕飯のテーブルに座ると、みんなでにぎやかに話しながら食事をする。

「今日ね、ワークショップでちょっと面白いこともあったんだ」

「へぇ、どんなこと?」


少し言葉に詰まりながらも、今日の活動のことや、先生に褒められたことをゆっくり話す。母も柚も興味津々で聞いてくれる。話すうちに、胸の奥のもやもやや緊張はすっかり消えて、代わりに温かい光が残った。


夕飯が終わるころには、なんだか少し大人になった自分を感じる。感情カードは全部揃ったけれど、これからの日々でまた新しい気持ちが生まれるだろう。そのための小さな一歩を、今日、自分は踏み出せたのだ。


「明日も、少しずつ……頑張ろう」


そう呟きながら、私は食器を片付ける母と柚の背中を見つめた。胸の中に残った誇らしさと照れは、静かに、でも確かに私を前へ押してくれる光になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ