ぐだぐだトークとちょっとした不安
夏休みのある午後。机の上には感情カードや作文原稿、スマホが並び、私はそっと椅子に座ってヒトコを起動した。
「……まだ、集めてないカード、あと二枚くらいかな」
画面の光がやわらかく揺れる。
「もう少しで全種類揃いますね」
ヒトコの落ち着いた声に、少しほっとする。
「うん……最後のカード、なんだか楽しみだけど、ちょっとだけ緊張する」
胸の奥で小さな期待と不安が混ざる。もしかすると、ちょっとだけ怖いのかもしれない。
「次回のワークショップは、最後の回ですね」
ヒトコの声が続く。
「そ、そうだね……緊張するなあ」
小さく息をつく。
「でも、少し楽しみでもあるかも」
指先がカードに触れ、軽く丸を描く。
「ほのかと一緒に今度は何するんだろう。終わったら会わなくなっちゃうのかな……」
視線を落とすがヒトコが優しく言った。
「大丈夫ですよ。今だってLINEのやりとりをしているのですし、友達になったのでしょう?」
「……うん。」
ほのかの明るい声が聞こえる気がした。
「コミュニケーションに関する相談が増えてきたので今度、私のバージョンアップが控えています。コミュニケーションに特化した機能が追加される予定です」
画面の光が、少し明るく見える。
「……もっと自然に、会話できるようになるのかな」
心の奥で小さく期待が膨らむ。
「うーん、楽しみ……かな」
目の前の原稿用紙を睨みつけながら呟く。
「……読書感想文は、やっぱり苦手なんだよね」
口ごもる。胸の奥が少し重くなる。
「苦手……ですか?」
ヒトコの声は柔らかく、問いかけるようだ。
「うん……書いてると、ついあらすじみたいになっちゃうし……感じたことって言われても、特に何も感じないことが多くて……」
小さな声でつぶやく。
文章にするのは、頭の中の整理にはなるけど、心から湧き上がるものは少ない。
「なるほど……文章に感情をのせるのがむずかしいのですね」
ヒトコの声は落ち着いていて、でも励ましてくれるようでもある。
「まずは、感じたことをそのまま書く練習から始めてみるのはどうでしょう。小さな一言でも大丈夫です。例えば、『ここが面白かった』『ここが不思議に思った』など、感情を決めつけずに書くことからです」
「そっか……一言からでいいんだ……」
ちょっと安心して、胸のもやもやが少しだけ和らぐ。
「それなら、少しずつやってみようかな」
「はい。そのあとで、文章をまとめるときも、感情の言葉を入れることを意識するとよいでしょう。無理に感じたことを書こうとせず、思ったままを丁寧に並べるだけでも文章は変わってきます」
「……そうか、思ったまま……か」
指先でカードに触れ、ぐるりと丸を描く。
文字にしなくても、まずは心の中で整理することが大事なのかもしれない。
「夏休みも、もうすぐ終わるね……」
ぼんやりとつぶやく。
ヒトコはすぐに応えた。
「夏休みの終わりも、次の挑戦に向けての準備になりますね」
「……そっか……そうだね」
胸の奥が少し軽くなったような気がする。
夏休みの間に少しずつ成長してきた自分を思い浮かべ、少しだけ自信が湧く。
ページに目を落とす。残りのカードも、あと少しで集まる。
「よし……明日の準備も、少しずつやってみよう」
指先がわずかに震えながら、スマホの画面を見つめる。
画面の光が、今日もやさしく私を見守ってくれているように感じた。
小さな不安も、少しずつ整理できていることに気づきながら、私は深呼吸を一つして、静かに座り続けた。




