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あったかい場所

リビングの机の上、ぐしゃぐしゃに線で埋められたページを前に、私はまだぼんやりと座っていた。

ヒトコのやわらかな声が少しだけ部屋に残っているように感じる。


そのとき、台所から母の声がした。

「……さっき、聞いてたよ。凛、私にも話してくれない?」


軽く頷き、私は母の隣に腰を下ろした。


「今日、ワークショップで……ちょっと嫌なことがあったんだ」


小さな声でそう言うと、母はすぐに優しい目で私を見つめ、手を軽く握ってくれた。


少し戸惑いながら、今日の出来事――苦手な事をわがままだと言われた事、胸の中がざわざわして収まらなかったこと――を、ゆっくり言葉にした。


途中から一緒に話を聞いていた柚の顔がみるみる赤くなり、声が大きくなる。


「えー!? それひどいじゃん! 許せない! 誰に言ったの? 先生には?」


母はすぐに静かに柚の肩に手を置き、落ち着かせるように言った。


「柚、まずは落ち着いて。凛が話したかっただけなのよ。怒るのはあとでね」


「でも、お姉ちゃんがそんな思いしてるなんて……!」


柚はまだ少し怒り気味だが、母の声に少しずつ落ち着きを取り戻す。私は淡々と、それでも安心できるような母の声に耳を傾けた。


「今日は本当に大変だったね。でも、ちゃんと話してくれたのね。それだけで私は嬉しい」


母の言葉は温かく、胸の奥にすっと届いた。柚も小さく頷き、私の隣に座り直す。


「……ありがとう、二人とも」


その後少しみんなで話してから部屋に戻った。自分の部屋のドアを閉めて、ベッドに横になる。すると、スマホのバイブ音がかすかに響いた。


画面を開くと、ほのかからのLINEが届いている。


『今日ひどかったねー、大丈夫?』


少しだけ微笑み、指先で返信する。


「話して落ち着いたから大丈夫」


送信ボタンを押すと、胸の奥の重さが少しずつ溶けていくようだった。


ベッドに体を沈め、目を閉じる。ヒトコとの会話、母の優しい言葉、そして柚の無邪気さ。すべてが今の私を少しずつ軽くしてくれる。


小さな安堵を胸に、私は眠りについた。外の世界の出来事も、心の中のざわつきも、今は少しだけ遠くにある。

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