宝物みたいな好き
勢いで決まったほのかとの買い物。
楽しみなはずなのに、胸の奥がざわざわして落ち着かない。
「楽しく過ごせなかったらどうしよう…」
そんな不安をヒトコに話すと、優しい声でいくつかのアドバイスをくれた。
「話すことに困ったら、目に入ったものを一緒に見て感想を言ってみましょう」
「選ぶ時は、自分の気持ちをまず探してみましょう」
「疲れたら深呼吸して笑顔で相づちを」
全部スマホにメモして、当日を迎えた。
電車の中、何度もメモを読み返しながらほのかと待ち合わせ場所に向かう。
ーーー
待ち合わせ場所の駅前は、人の話し声や車の音が重なって、ざわざわしていた。
凛は約束の時間より少し早く着いて、ヒトコからもらったアドバイスのメモをスマホで何度も確認する。
「深呼吸をしてから声を出す」「最初は短く“こんにちは”でいい」――指先が少し汗ばむ。
「リンリン!」
名前を呼ばれて顔を上げると、ほのかが小走りで近づいてくる。
薄い色のワンピースが風に揺れて、茶色の髪もふわっと動いた。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
「…ううん、私も今来たとこ」
自分でも驚くくらい、声はちゃんと出ていた。
ほのかは笑顔のまま、「じゃあ行こっか」と歩き出す。
その横顔を見て、胸の奥にほんの少し“落ち着く”ような感覚が広がる。
――この気持ちも、あとでカードに書き足せるだろうか。
アクセサリー店につくとほのかは目を輝かせた
「ねえ、リンリン。これとこれ、どっちがいい?」
ほのかが両手に持って見せてきたのは、淡い水色のシュシュと、小さな花の刺繍が入ったハンカチ。
私はしばらく見比べて、「……こっち」と、水色のシュシュを指さす。
「やっぱり? 私もそう思ってた!」
ほのかは嬉しそうに笑って、もう一度棚を見回す。
私は小さなイヤリングを手に取り、「ほのかは、こっちと……これ、どっちがいい?」と差し出す。
ほのかは少し首を傾げてから、「うーん……こっち! リンリンっぽい」と即答。
ふたりのやりとりは、小さな秘密の遊びみたいに静かで楽しかった。
言葉より、選ぶ瞬間の目の動きや笑い声のほうが、気持ちを伝えてくれる。
「どっちがいい?」「どれが好き?」
ほのかは色々なものを私に見せては聞いてきた。
最初は言葉が出るのに少し時間がかかったけど、だんだん答えられるようになってきた。
不思議と、答えているうちに自分の「好き」がはっきりしていく。
最後に立ち寄った雑貨屋さんで、ほのかがキーホルダーを二つ手に取った。
「どっちがいい?」
少し考えて、片方を指差すと、ほのかがにっこり笑った。
「じゃあ、お揃いね」
二人でそれをつける瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。
またひとつ、宝物みたいな「好き」が増えた。




