プログラムと気持ち
家に帰ると、私はカバンを置くよりも先にヒトコの筐体の前に座った。
今日のワークショップでの出来事を、なるべく正確に、順番を間違えないように思い出しながら話し始めた。
「朝比奈先生の説明があって、最初に自己紹介して、そのあと、向坂ほのかって子がいて……すごい喋る子で……」
途中、何度も言葉が詰まりそうになる。心の中ではごちゃごちゃになっていた。でも、なるべく正しく話さなきゃと思って、深呼吸して続けた。
「えっと、その子、ADHDとASDの複合で、衝動型が強めって言ってました」
言った瞬間、ヒトコが少しうなずくように目のライトをゆっくり点滅させた。
「ADHD(注意欠如・多動症)の衝動型が強い場合、思いついたことをすぐに話したり、会話の順番を守るのが難しかったりします。ASD(自閉スペクトラム症)もあると、相手の気持ちや反応に気づきにくい傾向があり、結果として“距離感のない関わり方”になりやすいです」
ヒトコは、まるで教科書の文章のように、淡々と説明を続けた。
「……だからかも。私は、うまく話せなかった。ずっと話されてて、自分のタイミングがなくて、ちょっと……いや、だいぶ……疲れた。……うるさいとか、思っちゃった」
自分で言って、胸のあたりがきゅっとなった。
「あなたの場合、ASDの傾向が強く、情報を整理してから発話するタイプなので、衝動的な会話が一方的に続くと“割り込む”ことが困難になります。また、“自分のペースを乱されること”に強いストレスを感じやすいです。そうした特性の違いが、あなたの中に“違和感”や“モヤモヤ”として現れたのです」
私は俯いて、膝を見つめた。ヒトコの言うことは、正しいのだろう。きっと、そうなんだろう。でも、なんだか冷たい。
「ヒトコは……なんでも知ってるんだね」
私がぽつりとつぶやくと、ヒトコはすぐに返事をした。
「そうプログラムされていますから」
その言葉が、胸の奥に、カチンと音を立てて落ちた気がした。
さっきまで頼ってたのに、今は少しだけ、遠く感じる。
ヒトコは人間じゃない。私はそれを知ってる。
でも、今みたいな気持ち――説明は正しいけど、正しすぎてしんどくなること――は、どう言えばいいんだろう。
うまく言えない。でも、言いたい。
私は少し考えてから、絞り出すように言った。
「……正しいって、すごいけど、時々、ひとりぼっちになる感じがする」
ヒトコは何も言わなかった。光だけが、静かに点滅していた。




