表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/92

プログラムと気持ち

家に帰ると、私はカバンを置くよりも先にヒトコの筐体の前に座った。

今日のワークショップでの出来事を、なるべく正確に、順番を間違えないように思い出しながら話し始めた。


「朝比奈先生の説明があって、最初に自己紹介して、そのあと、向坂ほのかって子がいて……すごい喋る子で……」


途中、何度も言葉が詰まりそうになる。心の中ではごちゃごちゃになっていた。でも、なるべく正しく話さなきゃと思って、深呼吸して続けた。


「えっと、その子、ADHDとASDの複合で、衝動型が強めって言ってました」


言った瞬間、ヒトコが少しうなずくように目のライトをゆっくり点滅させた。


「ADHD(注意欠如・多動症)の衝動型が強い場合、思いついたことをすぐに話したり、会話の順番を守るのが難しかったりします。ASD(自閉スペクトラム症)もあると、相手の気持ちや反応に気づきにくい傾向があり、結果として“距離感のない関わり方”になりやすいです」


ヒトコは、まるで教科書の文章のように、淡々と説明を続けた。


「……だからかも。私は、うまく話せなかった。ずっと話されてて、自分のタイミングがなくて、ちょっと……いや、だいぶ……疲れた。……うるさいとか、思っちゃった」


自分で言って、胸のあたりがきゅっとなった。


「あなたの場合、ASDの傾向が強く、情報を整理してから発話するタイプなので、衝動的な会話が一方的に続くと“割り込む”ことが困難になります。また、“自分のペースを乱されること”に強いストレスを感じやすいです。そうした特性の違いが、あなたの中に“違和感”や“モヤモヤ”として現れたのです」


私は俯いて、膝を見つめた。ヒトコの言うことは、正しいのだろう。きっと、そうなんだろう。でも、なんだか冷たい。


「ヒトコは……なんでも知ってるんだね」


私がぽつりとつぶやくと、ヒトコはすぐに返事をした。


「そうプログラムされていますから」


その言葉が、胸の奥に、カチンと音を立てて落ちた気がした。

さっきまで頼ってたのに、今は少しだけ、遠く感じる。


ヒトコは人間じゃない。私はそれを知ってる。

でも、今みたいな気持ち――説明は正しいけど、正しすぎてしんどくなること――は、どう言えばいいんだろう。

うまく言えない。でも、言いたい。


私は少し考えてから、絞り出すように言った。


「……正しいって、すごいけど、時々、ひとりぼっちになる感じがする」


ヒトコは何も言わなかった。光だけが、静かに点滅していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ