距離感ゼロの君と、ちょっとずつの私
「では、周りの人と挨拶ができたら、二人一組になってください。
難しい人は、素直に手を挙げてね」
朝比奈先生の声が教室に響いた。
私は、先ほどまで話していた彼女と目が合った。
「一緒に組んでくれる?」
「大丈夫です。よろしくお願いします」
私が答えると、彼女はぱっと笑顔になった。
「よかったー!あ、私、向坂ほのかっていうの!よろしくね!」
胸につけた名札を指さしながら、元気に名乗る。
「私は、綾瀬凛です。よろしくお願いします」
私も同じように名札を指さして返す。
「リンちゃんね!よろしく!私のことは好きなように呼んでいいよー。あ、でもね、ママが呼ぶ『ほのちゃん』が一番お気に入り!『ほのちん』とか『ほのっち』とかも好きだな〜。とにかく好きに呼んで!」
「……向坂さんで、お願いします」
「えー、まぁいいか!とにかくよろしくね、リンリン!」
――近い。
いきなりすごい勢いで距離を詰めてくる彼女に、戸惑いを隠せない。
私の反応を気にも留めず、彼女は喋り続ける。
「私ね、去年のワークショップでちょっと失敗しちゃってさ。あそこの席の子たち、去年一緒だったんだけど……なんか話しすぎちゃって、『うざい〜』って言われたんだよね。でも私的には楽しくてさー、でも……」
向坂さんが目を向けた先を見ると、数人の子たちがこちらをちらり。
目が合うと、サッと視線を逸らされた。
なんだか、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……ってことがあったんだけどね。
でもパパは、『ほのちゃんがいると家が明るいな〜』って言ってくれるから、私、自分のこと嫌いじゃないの!」
気づけば話題はもう家での出来事に移っていた。
私が聞いているかどうかなんて関係ないみたい。
ただ、喋ること自体が楽しいんだろう。
そんなこんなで、ワークショップの工作が始まった。
説明書を読んでいると、隣から声がする。
「ここはこうするのかな?」
「こうかもー!」
彼女は説明書をろくに読まず、勢いで作業を進めようとする。
「待ってください。そこは……」
間違いに気づいた私は、慌てて彼女を止める。
けれど、向坂さんはどんどん先へ進んでしまう。
そのたびにやり直し。
間違えては作り直して、を繰り返すうちに、結局、形の歪な作品ができあがってしまった。
「なんとかできたねー!」
彼女は笑っていたけれど、私は――
説明書通りにいかなかったことに、もやもやが消えなかった。
そうして、今日のワークショップは終わった。
夏のまぶしい日差しの中。
太陽みたいに明るい彼女のことを思い出しながら、私は焼けるようなもやもやを胸に抱えていた。




