うるさくて、まぶしくて、でも——
ワークショップが始まった。
朝比奈先生の落ち着いた声が会場に響く中、私はぼんやりと、参加を決めたときのことを思い出していた。
あの日、私はリビングのヒトコの前に座っていた。
「ワークショップがあると聞きました……でも、知らない人いっぱいいるのも怖くて、でも先生がいいって言うなら、たぶん悪いものじゃないと思うけど、うまくできるかわかんないし、なんか、変なこと言っちゃいそうで、それで、やっぱやめた方がいいのかなって思ったりもしてて……」
自分でも、なにを言ってるのかわからなくなって、思わず口を閉じた。
ヒトコはいつものように静かに光を灯していた。すぐには答えず、私の気持ちをそのまま受け止めてくれている気がした。
その時だった。
「お姉ちゃん、話し方のお勉強するの?」
柚が、明るい声で声をかけてきた。
私はハッとして、喧嘩した時、自分で言った言葉を思い出す。
「ちゃんと勉強する」って、あの時はとっさに言ったけど――
「……頑張ってみようかな」
小さく、そうつぶやいた。
「うん!お姉ちゃん、絶対うまくいくよ!」
柚は、何も迷いなく笑った。「大丈夫、ちゃんと話せるって思うし、応援してるからね!」
不安は、まだ全部なくなったわけじゃない。
でも、ヒトコの沈黙と、柚の言葉が、私の中で確かに何かを支えてくれた。
だから私は今、ここにいる。
知らない場所、知らない人。教室の隅に一人で座るだけで、呼吸の仕方を忘れそうになる。
周りの子たちは、初対面でもすぐに喋り始めて、笑っていた。私には真似できない。何を話していいか分からないし、そもそも、声を出すのがこわい。
朝比奈先生が私を見つけて、軽くうなずく。その仕草だけで、ほんの少しだけ心が落ち着いた。
「隣、座ってもいい?」
声がして、私は顔を上げた。
――その子は、明るい茶色の髪を二つに結んでいて、目が合った瞬間、にこっと笑った。
「私ね、ここ来るの二回目なんだ! 去年も来たんだけど、工作がめっちゃ楽しくて、あとね、クッキー作ったの、でもそれは違うクラスで、そっちは申し込めなかったから今年はこっちで!」
言葉の洪水。まぶしいくらい。
私は何も返せなかった。ただ、見て、うなずくのが精いっぱい。
けど、その子は気にした様子もなく、勝手にどんどん話してくる。
「私さ、ADHDとASDって診断されてるんだよね〜。それで衝動性が強くてすぐしゃべっちゃうの。止めようと思っても、止まらないんだよー。でも、止めたら苦しくなっちゃうから、止めないことにしてる。うるさかったら言ってね、でも、できるか分かんないけど、努力はするつもり!」
笑顔で、真っすぐ。ちょっと怖いくらいに、正直だった。
私は、頭の中がごちゃごちゃになった。
その子の存在自体が、大きすぎて、明るすぎて、正直なところ——「苦手」って思ってしまった。
でも、その後すぐに、心の中でもう一つ、声がした。
……でも、私はこの子みたいになれたら、少し楽だったのかもしれない。
何も言えない私を、その子は責めなかった。
「話、聞いてくれるの、嬉しいよ」と言って、にこにこしていた。
ほんのちょっとだけ——この空間に、自分の居場所があるような気がした。




