チャット
彼女……真帆との出会いは今ではそう珍しくもないであろうチャットを通じてのものだった。
当時から人と話す事が苦手で得意だった僕は、いつしかそのチャットの常連組の中でもそれなりに知名度もありそれなりに人気者にもなっていた。
その日もいつものように常連同士で他愛も無い会話をしていた。そこにご新規さんとして現れたのが彼女だった。
他の排他的な部屋とは違い、僕が毎日のように通うチャット部屋は新しく来た人でもみんなで快く向かい入れる色を常連同士で作っていた。
何時だったかなんて正確な時期はもう僕の記憶には無い、夏の終わりだったような気もするし、秋の始まりだったような気もする。
とにかくそんなチャット部屋に彼女は現れた。その事実だけは確実に僕の記憶の中に存在する。
そして彼女もチャットを気に入ったのか、週に何度も文字だけが全ての世界で顔を合わせるようになっていった。
思えば僕はこの時から既に彼女に恋をしていた。顔も声も知らない、本当に女性であるかすら知らなかったと言うのに。
常連同士となった僕と彼女は、他の常連と同じようにメールアドレスを交換して、チャット以外でもやり取りをし始めた。
そこで初めて彼女が僕の隣県に住んでいる事を知り、今は諸事情で僕と同じ県に住んでいる祖父母の元で暮らしている事を知った。
それから何度も何度もメールでのやり取りをし、夜は夜でチャット部屋へと行き常連同士ワイワイと会話に華を咲かせた。
この時からと言うか彼女に出会う前から僕はこのチャット部屋へと遊びに来る全ての人に隠し事をしていた。陽キャで少しだけHで色んな事に精通していると皆に認識されている僕が本当はただの陰キャなヲタクである。と言う事実を。
彼女にも事実は告げられないまま、陽キャな僕は、何のタイミングだったかは忘れてしまったが彼女と二人だけのオフ会をする事が決まった。
その日は何故か週末でも無い普通の平日の日だった。なぜ平日になったのか思い出せない。