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第一章 色褪せた日常

1 あらすじ(約300字)

いじめに苦しむ高校生、日下部樹(くさかべ いつき)は、幼馴染の橘莉緒奈(たちばな りおな)と共に、祖父の遺した古書から異世界アウリオンへ召喚される。そこで出会った胡散臭い行商人メルカトルに導かれ、商人としての道を歩み始める樹。ラッカ村での魔族騒動の解決、鉱山の町エルドラでの死闘と「星詠みの祭器」のかけらとの遭遇、そして時空の裂け目から現れる強大な存在たちとの戦いを経て、樹は自らの内に眠る「召喚」の力に目覚める。神々の伝令使マーキュリーを召喚し、エルドラの危機を救った樹と莉緒奈は、仲間たちとの絆を胸に、元の世界へ帰還。異世界での経験は、彼らを大きく成長させ、新たな物語の始まりを予感させるのだった。

2 登場人物紹介

日下部樹(くさかべ いつき):本作の主人公。いじめられっ子だったが、異世界アウリオンでの経験を通じて商人としての才能と召喚の力に目覚め、精神的に大きく成長する。

橘莉緒奈(たちばな りおな):樹の幼馴染。活発で正義感が強く、樹を常に気遣い支える。レイピアを手に戦う勇敢さも持つ。

メルカトル:樹と莉緒奈がアウリオンで最初に出会う行商人。胡散臭(うさんくさ)いが面倒見が良く、樹に商人としての心得を教える師匠的存在。元「狩人」で戦闘能力も高い。

フィン:エルドラの市場で樹たちに助けられた孤児の少年。樹たちに懐き、行動を共にする。

セレン:エルドラの地下に隠れ住む、古代の知識を持つ謎の女性。樹たちを助け、導く。

ルナリア:星詠みの巫女。世界の危機を察知し、樹たちに助けを求める。

マーキュリー:樹が召喚する神々の伝令使。ケーリュケイオン(カドゥケウス)の杖を持ち、調和と対話を促す。

紅蓮(ぐれん)魔狼(まろう)フェンリル:エルドラの空の裂け目から現れた強大な幻獣。人間に深い怒りを抱く。

キメラ:未来の世界から現れた禁断の生物兵器。

審判の神獣(しんじゅう):古代より目覚めし存在。人間を審判する。

古龍(こりゅう)星喰(ほしは)らいのヴォイドヴェルグ」:宇宙的な存在。世界の混沌を「遊戯」として楽しむ。

3 あらすじ(ネタバレなし)

平凡な高校生、日下部樹(くさかべ いつき)は、ある日突然、幼馴染の橘莉緒奈(たちばな りおな)と共に異世界アウリオンへと召喚されてしまう。元の世界への帰還の術も知らぬまま、二人は言葉も通じぬ森の中で途方に暮れる。そんな彼らの前に現れたのは、胡散臭(うさんくさ)い笑みを浮かべた行商人メルカトル。彼の導きにより、樹は商人としての道を歩み始めることを決意する。様々な出会いと試練が待ち受ける異世界で、樹と莉緒奈は生き抜き、成長していくことができるのか。そして、彼らを待ち受けるアウリオンの危機とは。二人の冒険が、今、始まる。

4 あらすじ(ネタバレあり)

いじめに苦しむ高校生、日下部樹(くさかべ いつき)は、幼馴染の橘莉緒奈(たちばな りおな)と共に、祖父の遺した古書を通じて異世界アウリオンへ召喚される。そこで出会った行商人メルカトルの下で商人見習いとして働き始めた樹は、持ち前の冷静な判断力と、元の世界の知識を活かして頭角を現し始める。孤児の少年フィンを仲間に加え、ラッカ村では魔族の召喚儀式を阻止し、村の英雄となる。

次なる目的地、鉱山の町エルドラでは、町の裏社会を牛耳る「黒蠍団(くろさそりだん)」や、謎の女性セレン、そして「星詠(ほしよ)みの祭器」のかけらと、この世界の危機に関わる重要な手がかりに遭遇する。エルドラの地下深く、「静寂(しじま)の寺院」の奥にある「虚無の回廊」で、樹は異形の存在「深淵(しんえん)(ぬし)」と対峙。絶体絶命の危機の中、月長石の首飾りと祭器のかけらの力、そして仲間たちの絆によって、樹は自らの内に眠る「召喚」の力に目覚め、聖獣を召喚して深淵の主を退ける。

しかし、その影響でエルドラの空には時空の裂け目が広がり、「紅蓮(ぐれん)魔狼(まろう)フェンリル」をはじめとする異次元の強大な存在たちが降臨し、エルドラは壊滅的な被害を受ける。樹は再び召喚の力を使い、神々の伝令使マーキュリーを召喚。マーキュリーの導きとエルドラの民の協力によって、幻獣たちの侵攻を食い止め、世界の調和を取り戻す。

戦いの後、樹と莉緒奈はマーキュリーの力によって元の世界へと帰還する。異世界での記憶と左腕の傷跡、そして月長石の首飾りを残して。アウリオンの仲間たちとの別れを惜しみつつも、二人は異世界での経験を糧に、現実世界で新たな一歩を踏み出すことを誓うのだった。


ありふれた土曜日の午後。日下部 樹(くさかべ いつき)の部屋には、西日が低い角度から差し込み、勉強机の上に広げられた教科書のページを暖かく照らしていた。窓の外からは、近所の公園で遊ぶ子供たちの歓声(かんせい)が、風に乗って微かに聞こえてくる。それは、どこにでもあるような、穏やかで平凡な週末の音だった。しかし、樹の心は少しも穏やかではなかった。学校では、いじめっ子たちに金品を(たか)られ、内心では屈辱に震えながらも、暴力で対抗する勇気もなく、ただ彼らの機嫌を損ねないように「友達」のふりを続けている。そんな自分が、樹は何よりも嫌いだった。この息苦しい日常から逃れ、どこか遠い異世界へ行ってしまいたい。人生をリセットして、臆病な自分とは違う、新しい自分に変わりたい ─── そう心の底から願っていた。

先週も、そうだ。クラスのリーダー格である武田に「おい、樹。悪いんだけどさ、ちょっと貸してくんねえか。今月の俺のスマホゲームのガチャ、マジで渋くてさ。あと一万あれば、確定でSSR出るんだよな」と、教室の隅で肩を組まれ、低い声で囁かれた。樹は、母が食費にと渡してくれた生活費の一部を、震える手で武田に差し出した。それは、家族の温かい食事を犠牲にして得た、屈辱の証だった。武田は「サンキュ、樹。やっぱお前、話わかるわー。これでSSRゲットしたら、お前にも自慢してやるよ」と、人の気も知らないで笑っていた。その笑顔が、樹の心臓を冷たく抉る。断れば何をされるか分からない。あの、一度だけ抵抗しようとした時に受けた、腹への鈍い痛みと、嘲笑う周囲の目が、今も鮮明に蘇る。

樹の家は、いわゆる核家族。優しく少し心配性な母と、口数は少ないが頼りになる父、そして生意気盛りの妹。リビングからは、母が夕食の準備をする音と、テレビのバラエティ番組の陽気な効果音が混ざり合って、生活の匂いを漂わせていた。そのありふれた日常の音が、今の樹にはひどく空虚に響いた。誰も、樹の心の叫びには気づかない。いや、気づかないふりをしているのかもしれない。

「イツキ、夕飯までまだ時間あるけど、おやつ食べる」階下から母の声が届く。

「んー、今はいいや。ありがとう。ちょっと考え事してるから。お腹も、そんなに空いてないし」

本当は、武田に渡した金のことや、また明日から始まる憂鬱な学校のことを考えると、何も喉を通らなかった。

樹は、読みかけの歴史小説から顔を上げた。物語の主人公が、絶体絶命の窮地を知略で切り抜ける場面。そんな時、決まって彼の胸は高鳴り、まるで自分がその場にいるかのような錯覚に陥る。現実は、受験勉強と部活動、そして見えない檻のような人間関係に追われる、ごく普通の高校二年生なのだが。もし自分に、この主人公のような勇気と知恵があったなら ─── 。いや、そんなものは、自分にはない。あるのは、このどうしようもない現実だけだ。

ふと、机の隅に置かれた一枚の写真立てに目が留まる。少し色褪せた写真には、幼馴染の橘 莉緒奈(たちばな りおな)と、今は亡き祖父が、満面の笑みで写っていた。祖父の書斎で、何かの古い本を三人で囲んでいる。あの頃は、祖父が語る突拍子もない「異世界」の話を、目を輝かせて聞いていたものだ。莉緒奈は、その頃から天真爛漫で、考えるより先に行動するような活発な少女だった。引っ込み思案で臆病な自分とは正反対。だからこそ、二人はいつも一緒にいたのかもしれない。莉緒奈といる時だけは、いじめっ子たちも樹に手出しをせず、仲の良い「友達」を演じる。莉緒奈も、そんな彼らの態度に薄々気づいてはいたが、樹が何も言わない以上、彼女もあえて口を挟むことはなかった。それが、樹にとって救いであり、同時に新たな劣等感の種でもあった。莉緒奈の強さが、自分の弱さを際立たせるようで、時折、胸が苦しくなる。まさか、祖父の「異世界」の話が、こんなにも強く自分の心を捉え、現実逃避の拠り所となるとは、この時は知る由もなかった。

部屋の空気が、ふと重くなったような気がした。窓の外の子供たちの声が遠のき、代わりに、古い柱時計の秒針の音だけが、やけに大きく響く。言いようのない焦燥感が、樹の胸をざわつかせた。それは、嵐の前の静けさにも似た、不穏な予感だった。まるで、何かが変わろうとしている、そんな予感が。いや、変わってくれなければ困る。このままでは、自分は本当に駄目になってしまう。

「はぁ……」

樹は、深く長い溜息をついた。机に突っ伏し、両手で頭を抱える。

「もう、嫌だ。こんな毎日。どこか、誰も俺を知らない場所へ行きたい。全部リセットして、一からやり直したい。強くなりたい。誰にも馬鹿にされない、自分に……」

その時だった。何気なく顔を上げた樹の視界の隅に、本棚の奥、祖父の遺品の中でも特に古びた木箱が映った。それは、普段は気にも留めない、埃をかぶった何の変哲もない箱。しかし、今の樹には、なぜかその箱が妙に気になった。まるで、箱が樹を呼んでいるかのように。



5 キャラクター詳細設定

日下部樹(くさかべ いつき)

外見:物語開始時は気弱そうな普通の高校生。異世界での経験を経て、目つきが鋭くなり、顔つきも精悍になる。

性格:元々は内向的で臆病だったが、正義感が強く、仲間思い。異世界では冷静な判断力と分析力を発揮し、商人としての才能を開花させる。困難な状況でこそ力を発揮するタイプ。召喚の力に目覚めてからは、世界の調和を願う強い意志を持つようになる。

能力:商人としての目利き、交渉術。レーザーポインターや音爆弾など、元の世界の道具を機転を利かせて使う。物語後半で「召喚」の力に目覚め、聖獣や神マーキュリーを召喚する。月長石の首飾りが力の源の一つ。

背景:現実世界ではいじめに苦しみ、異世界への逃避願望を抱いていた。祖父が異世界研究をしていた。

橘莉緒奈(たちばな りおな)

外見:明るく活発な美少女。長い髪が特徴。

性格:天真爛漫で行動的。正義感が強く、困っている人を見ると放っておけない。樹にとっては太陽のような存在。時に感情的になることもあるが、基本的には明るく前向き。

能力:運動神経が良く、レイピアを使った剣術を得意とする。持ち前のコミュニケーション能力で情報収集や交渉を助ける。

背景:樹の幼馴染で、彼のことを誰よりも理解し、心配している。

メルカトル

外見:薄汚れたローブをまとった小柄な中年男性。日に焼けた顔に深い皺が刻まれ、抜け目のない小さな目をしている。

性格:胡散臭(うさんくさ)く、金にがめつい面もあるが、義理人情に厚く、面倒見が良い。樹と莉緒奈の師匠として、商人としての心得や異世界で生きる術を教える。

能力:長年の経験に裏打ちされた商才と交渉術。元「狩人」であり、「蜂の巣」という特注の魔道具(針を飛ばす武器)を使いこなし、高い戦闘能力を持つ。

背景:詳細は不明だが、アウリオン大陸の地理や諸事情に精通している。

フィン

外見:薄汚れた服を着た小柄な少年。物語が進むにつれて、樹たちのおかげで身なりも整っていく。

性格:最初は怯えていたが、本来は素直で心優しい少年。樹や莉緒奈に懐き、彼らを兄や姉のように慕う。

能力:市場での情報収集や荷物運びなど、自分にできることを一生懸命こなす。

背景:エルドラで両親を亡くした孤児。市場で樹たちに助けられ、行動を共にするようになる。

セレン

外見:年齢不詳の美しい女性。常に冷静で無表情だが、瞳の奥には深い知性と憂いを秘めている。

性格:冷静沈着でミステリアス。多くを語らないが、樹たちを陰ながら助け、重要な情報やアイテムを提供する。

能力:古代の知識や魔法に精通している。薬草の調合や治療も行う。

背景:エルドラの地下に隠れ住み、世界の危機を監視している。ルナリアとも繋がりがある。

ルナリア

外見:神々しいまでの美しさを持つ星詠みの巫女。

性格:慈愛に満ち、世界の調和を願う。

能力:星の運行を読み、未来を予知する。強力な魔力を持つ。

背景:世界の危機を察知し、樹たちに助けを求める。虚無の回廊で「深淵の主」に囚われていた。

6 舞台、団体等詳細設定

アウリオン:樹たちが召喚された異世界。魔法や魔物が存在するファンタジー世界。様々な種族が暮らし、独自の文化や歴史を持つ。

セリアの町:樹たちが最初に着いた宿場町。比較的活気があり、様々な人々や物資が集まる。

(ふくろう)のねぐら亭:セリアの町にある宿屋。主人は元冒険者のバルガス。

ラッカ村:良質な毛皮が採れることで知られる狩猟民族の村。魔族の召喚儀式に狙われる。

エルドラの町:鉱山の町。新しい鉱石「紅蓮鋼(ぐれんこう)」が発見され、利権を巡って複数の勢力が対立している無法地帯。

エルドラ鉱山ギルド:町の創設者でもある保守的な勢力。

黒鉄(くろがね)商会:金に物を言わせる新興勢力。

黒蠍団(くろさそりだん):エルドラの裏社会を牛耳る凶悪な犯罪組織。

赤き爪:特に凶暴な盗賊団。

星詠みの森:星の動きを読み未来を占う賢者が住むと伝えられる森。

黒牙(くろが)の峠:エルドラへ向かう道中の難所。山賊が頻繁に出没する。

(なげ)きの谷:エルドラ近郊の危険地帯。

静寂(しじま)の寺院:エルドラの地下にある古代遺跡。奥に「虚無の回廊」が広がる。

虚無の回廊:異次元へと繋がる通路。ルナリアが囚われていた場所。「深淵の主」の巣窟と化していた。

星渡りの古道:古代の民が築いた、天上の星々と地上を結ぶ禁断の通路。

7 物語のテーマ詳細設定

成長と自己変革:いじめられっ子だった主人公が、異世界での過酷な経験や仲間との出会いを通じて、内面の弱さを克服し、勇気と自信、そして他者を思いやる心を身につけていく。困難な状況に立ち向かう中で、自分自身の新たな可能性や才能(商人としての才覚、召喚の力)に目覚め、精神的に大きく成長する物語。

絆と仲間:孤独だった主人公が、莉緒奈、メルカトル、フィンといった仲間たちとの出会いを通じて、信頼や友情の温かさを知る。仲間と共に困難を乗り越えることで、絆はより深まり、それが主人公の力の源泉となる。個人の力だけでなく、仲間と協力することの重要性を描く。

異文化理解と共存:元の世界とは全く異なる価値観や文化を持つ異世界で、主人公たちが戸惑いながらも適応し、現地の人々と交流していく。異なる背景を持つ者同士が、互いを理解し、尊重し合うことの大切さ、そして共存の可能性を探る。

世界の危機と調和:異世界アウリオンが直面する危機(魔族の侵攻、時空の歪み、異次元からの脅威)を通じて、世界のバランスや調和の重要性を問いかける。主人公が持つ「召喚」の力は、単なる破壊力ではなく、異なる存在同士を繋ぎ、調和をもたらすための力として描かれる。

現実と非現実の境界:主人公が体験する異世界での出来事と、元の現実世界との対比。異世界での経験が、主人公の現実世界での生き方や価値観にどのような影響を与えるのか。夢と現実、あるいは異なる次元の繋がりといった要素も示唆される。

人間の愚かさと可能性:物語の中で描かれる人間の争いや欲望は、人間の愚かさや業の深さを映し出す。しかし同時に、絶望的な状況の中でも希望を失わず、手を取り合って未来を切り開こうとする人間の強さや可能性も描かれる。

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