プロローグ
「ーーあの人何してんの?」
「あんまり見んなって、もうー」
·····あぁ、俺の人生ホントにくそみたいだったな。
俺は今チンピラに絡まれ、某駅の改札近くにある噴水の水に浸っているフリーター32歳だ。
いや訂正する、デブフリーター32歳だ。
30歳までは実家で自宅警備員隊長を務めていたはずなんだが、
いつの間にか家を出されて今は姉夫婦の家で居候をしてる。
いや訂正する、姉夫婦の家からも今日追い出された。
実家にいる時は朝から夜までネット配信者のLIVEを見てはスパチャを送り、配信者のアンチを叩く。
もちろんスパチャは俺の金ではなく親のクレジットカードで。
得意なことはとにかく寝ることと仕事を探す振りをすることだ。
でもこんな俺でも考える時があった。
高校も仕事もロクに行かないでFA〇ZAの会員になって毎日テッシュを浪費する奴なんか生きてる意味ないだろうなってな。
そんな感情が自分をずっと覆って、
何回も自殺しようともした、
まぁ全部未遂に終わったけど。
それから家族は俺を施設に入れるとか入れないとか色々話してたけど、まだこの子は頑張れるかもしれないとか言って結局実家でまたニートしてた。
姉の家に行ってからは姉の夫がゴミを見るような目で毎日こっちをみたり姉に「燃えるゴミと一緒に出した方がいい」など、話のネタにされている。
そんなのは別にいい、
そんなのは言われ慣れてきた。
けどアイツはしっかり俺の妹と浮気してやがった。
流石の俺でもこれは良くないと思った。
だから姉に言ってやったら、このありさま。
姉はこんな30年間アスリートのニートなんかの言葉を信じるはずもなく、こんなことを言う俺と姉の関係は悪くなり追い出された。
「·····まじで終わってるなおれ」
これからどうしたら。
やり直したい。けど、
金も何も無い。帰る場所もない。
噴水から起き上がろうとすると体の至る所から痛みが走った。
「いってぇ…どんだけ殴るんだよ…」
ボロボロの体を起こし、水の滴る音をさせながら立ち上がる。
まぁダメ元だけどババアの家に行くか。ていうかそこしか行くところがない。
俺は1回追い出されてる身だがこんな状態の俺を見たらワンチャン一日でも入れてもらえる可能性はある。
そう思いながら駅の改札へ入る。
もう時刻は夜の11時半前
この駅自体どの時間帯でも人が多いとは言えないのだが夜になると一層人数が減る。
改札に入ると周りの視線が自分に集まっていることに気づいた。
(見せもんじゃねぇぞ…)
確かに今の俺はずぶ濡れで顔も腫れ上がっているからさぞ面白いだろう、
もしかしたら写真を取られて黒いアイコンにバツがあるアプリに投稿され、「人生が終わったであろう人間がおったww」とか書かれるかもな。
別にいいさ。そんなことをされようが俺はババアの家に入る事が叶ったらそのままババアの家に一生また引きこもろうと考えている。
だから多少ネットでいじられようが現実で後ろ指を刺されようがもう別にいいとまで思っている。
周りの反応は少し変わった。
俺の事を変人の目で見ていた奴らは直ぐに視線を戻して一方向を見つめるようになった。
線路の方を見ている。
というか線路の近くにできている人集りを見つめている。
ん?
なんかあったのか。
まぁどうせ酔っぱらいが喧嘩してるとかだろうけど、こんな時間から喧嘩なんて元気なこった。
いや違うな。
喧嘩だったら怒声とかが聞こえるはずなんだが、
少し気になるな。
俺は人集りの少し人がはけた所に立った。
なんだこれ、どういう状況?
男の子なのか、いや間違えた。髪が短いから男子だ思ったがあれは女の子だな、見た目的に4歳くらいか?
その女の子が線路で泣いている。
え、
やばくないか。
これ電車くるよな。
このままにしてたらこの子死ぬぞ、
なんで誰も助けに行かないんだよ。
周りのやつは様々で
スマホいじっている奴だったり、
だれかと電話してる奴だったり、
ただ呆然と立ち尽くす奴だったりと、
誰も助けようとする素振りをする奴はいない。
助けようとして自分がリスクをおうのが怖いのだろうか。自分が助かればいいとでも思っているのかこのクズどもが…。
「迷惑事なんて関わらない。」などと考えているに違いない。
でも俺もそういう人間の一人なのかもしれない。
この15年間俺はそうやって生きてきた。俺だって心の中では「誰かがなんとかする」と思ってる。
実際そういう奴らの方がこの日本という閉鎖的な国では生きていける可能性が高い。
良い言葉でいえば迷惑事の回避能力が高いと言えるだろう。
悪く言えば思考停止で、無責任。
そうだ、俺はいつも無責任なんだ。
だから今日だって俺は無責任を通すはずなんだ。
でもなぜが気づいたら走っていた。
今の時刻は11時31分。次にくる電車は32分。もうあと1分しかない。
なんで走ってるんだ俺。
別に助けなくたっていいだろ、なんで面倒事にいつも自分から首を突っ込むんだよ。
こうやっていつも失敗する。
分かってるはずだろ。
俺は無責任なんだって。
誰も俺になんか期待してない。
だから見ず知らずの女の子を助けるのなんて意味が無い。
電車のアナウンスが鳴り響く。
視界の端に電車が来ているのがわかる。
それでも俺の足は止まらない。
もう意味がわからない。
そのままその足は線路に立った。
全身の痛みを感じながらも、
少女を抱き脇腹を両手で抑えながら慎重にホームへ持ち上げる。
少女は理解してホームにしがみつく。
そして登った。
良かった、この子は助かる…。
俺もホームにしがみつく。
違う。
俺は倒れてた。
線路に横たわる形になった。
そりゃそうだろう、15年間ほど家にしかいなかった奴が急に全力で走りだしたんだ。最近やっとの事で仕事を見つけて少しづつ外に出ていたとはいえ、
体が悲鳴をあげてたんだろう。
体が酷くだるい。
手足が麻痺してる。
水浸しになったし多分風邪でもにいていたのだろう。
電車の警笛の音が静かな夜に鳴り響く。
左の目が電車の光で照らされて何も見えなくなるのがわかる。
俺は多分ここで死ぬ。
最後の最後になんでこんなことたんだろうな。
いつもの俺なら絶対やらなかった。
でも後悔は無いかもしれない。
多分助けなかったとしても俺はこのままどこかでポックリ死んでたと思う。
ならもう1回くらい自分を信じてみたいと思った、我ながらこんな臭いセリフを吐いて死ぬとはまぁ思わなかったがこれもこれでアリかもな。
まぁでも、
「意味の無い人生だっ…」
その瞬間10月11日、午後11時32分。俺は死んだ。
初めて投稿を開始しました。
不定期の投稿になりますがよろしくお願いします。