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夏のホラー参加作品

復讐は神がする〜とあるサレ妻が聞いた噂話〜

作者: 地野千塩

 伯爵夫人アビー・オールストンはため息をついた。


 今は伯爵家の美しい庭でアフタヌーンティーを飲んでいたが、全く楽しくない。夏の虫の音もやけに耳につき、白い雲まで憎くなってきた。今のアビーと違ってあまりにも呑気過ぎて。


 アビーは孤独だった。三ヶ月前に結婚したばかりの新妻だが、些細な喧嘩がきっかけで関係は冷え切り、夫には愛人がいた。名前はカミラという娼婦だった。


 カミラは田舎者の冴えない女だったが、マムという恋愛カウンセラーにコンサルして貰い、魔性の女として数々の男をたぶらかし、夫も陥落。今はカミラに盲目となり、何でも貢いでいた。もちろん、伯爵家に帰って来ない。


 マムという女は事件に巻き込まれ死んだが、何も嬉しくない。


「奥様、ゴシップ誌を全部買ってきましたわ」

「ありがとう、ジェーン」


 そこへメイドがやってきた。アビーが頼んでいた仕事も素早く終わらせ去っていく。優秀なメイドだ。アビーも信頼していた。特にこんなゴシップ誌など買いに行けない。伯爵夫人として人目が気になるから、いつもメイドに頼んでいた。


 アビーは子供の頃から優等生。髪型もドレスも地味だ。実際、顔立ちも地味。そのせいか他人目を気にし、ゴシップ誌を買うのも恥ずかしい。本当はゲスい記事が満載のゴシップ誌を楽しみにしていた。特に同じ貴族界隈のスキャンダルは蜜の味だ。見た目は優等生のアビーだったが、心はそうでもない。孤独の今はゴシップ誌が慰めでもあった。


「え、あの公爵夫人のフローラ・アガターって愛人を呪っているの?」


 ワクワクしながらゴシップ誌のページをめくると、公爵夫人フローラ・アガターの噂が掲載されていた。フローラもサレ妻だ。アビーと違い派手な顔立ちで、今は殺人事件を解決した噂の渦中の人物。あのマムという女の事件を解決したのもフローラだったが。


 今は新しい事件を調べているらしい。しかも被害者は自殺とされているそうだが、フローラは絶対他殺と言い張っているそう。


 しかも不倫相手が事件の被害者とか、アビーはだんだん笑えなくなってきた。


「その上、夫の元愛人たちが次々と不幸になってるの? フローラには呪詛してる噂もある?」


 アビーは科学を信じてる。最近は新しく自動車や列車の技術が開発されると聞き胸がワクワクしていた。馬車はそのうち廃れるだろうと期待していたが。


「呪詛は気になるわね……」


 もしカミラを呪えたら?


 そんな悪い考えも浮かび、慌てて紅茶を飲み込む。


「しかしフローラは気になるわ。同じサレ妻だし……」


 フローラに会いに行こうと決めた。もしかしたら愛人を呪い殺す方法を知っているかもしれない。


 そんなアビーの思惑は外れた。フローラにの家を訪ねたら、今は殺人事件調査に忙しく、ほとんど家にいないらしい。メイド頭に教えて貰った。


「そう、メイドさん、ありがとうね」


 ガッカリしたが、それで良いのかも。呪いなんてしても自分に返ってくるかもしれない。いくら被害を受けても相手を呪ってはいけない。むしろ祝福しようと聖典に書いてあった事も思い出す。アビーはその足で教会に行き、懺悔室へ。「愛人が憎く呪い殺そうと思った」と罪を告白した。


 懺悔室は仕切りがあるので神父の顔は見えない。教会のベルの音もガンガン響き、居心地が良い場所では無いが。


「あなたの罪の告白を聞きました」

「ええ。ありがとう。きっとフローラ夫人が愛人を呪い殺していたなんて、単なる噂よね」


 神父は聖典を開いているようで、紙が擦れる音もした。


「復讐は神がします。結婚制度も神が創造したものです。結婚を汚す罪も神が放置しません」


 初老の神父だったが、その声はやけにハッキリしたものだった。


「本当?」


 アビーは別にさほど信仰心はないが。


「ええ。放っておきましょう。あなたは毎日楽しく過ごしていましょう。あなたが恨み心を持っていたら神様が悲しみますよ。復讐は神様がします」

「そう……」


 単に励ましているだけかもしれない。本当に神が復讐するかは不明だが、今は心は落ち着いていた。ため息も出なかった。


「そうね。久々に趣味の刺繍でもやってみましょうかしら」

「賛成です!」

「神父さん、話を聞いてくれてありがとう」


 懺悔室から出たアビーは夫やカミラの事は忘れ、趣味を楽しんだ。刺繍だけでなく、演劇を鑑賞したり、子供の頃に習っていたピアノも再開した。


 夫の事を思い出すと辛いが、自分の気持ちぐらいは何とかしたい。絶望感でいっぱいになっても、好きな事も沢山見つけたかった。もう他人の目も気にしなくても良いかもしれない。カミラの事もすっかり忘れていた。思い出したとしても、許す気持ちすら芽生えていた。


 こうして月日が流れた。季節は冬に向かっていたある日。


 久々にゴシップ誌を読んでいたら、息を飲んだ。


「え、カミラ死んじゃったの!?」


 あの愛人のカミラの訃報があった。貢がせていた男の一人がストーカーとなり、カミラを包丁で刺したという。病院に運ばれたが、助からなかったそう。


 アビーの顔は真っ青だった。背中もゾクゾクとしてきた。


「まさか復讐は神様がした……?」


 訃報の詳細を読むと、カミラが死ぬ直前に悔い改めたとは書いてあったが……。その場に神父も駆けつけたらしい。


「ま、まさか……」


 フローラの件も神が復讐したのだろうか。分からない。その後、神父に会いに行くと、不倫した男女はことごとく不幸になっていると聞いた。本当かもしれない。

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