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真祖


『……え? 本当に討伐してきたのですか!?』


 受付嬢のルーナは、机に置かれた大量のダイヤモンドの甲羅を見て驚愕する。


『まぁ、【S級】って言っても硬いだけのやつだったし、複数人で行けば楽勝よ』

『グラウンドタートルは攻防と隙のない魔獣なのですが……』


 ルーナ嬢は「信じられない」と言った目でアランを見る。


『私も本当に驚きました。いくらなんでも強くなりすぎです。普通はたった三年間ではそこまでにはなりませんからね』

『クレア、率直な意見を聞かせてもらえるかしら? アラン君は【逸脱者】の領域に足を踏み入れてると思う? 騎士団でサーシャ様を直接見たことがある貴方なら肌感で分かるんじゃない?』


 クレアは目線を少し落とし、自らの記憶にある二人を比べる。


『そうね。アラン君はおそらくは【S級】上位ってところじゃないかしら』

『サーシャってやつなら、どんな感じでグラウンドタートルを倒してた予想できるか?』

『……おそらくは、一歩も動かずに“バラバラ”にしてたと思う』

『成程な』


 俺もやろうと思えば一歩も動かずに仕留められたかもしれないが……“バラバラ”には出来ないかもしれない。

 本来、闇属性の本領は【毒】【呪い】【隠密】等の魔術で発揮されるものだ。

 単純な瞬間火力だとおそらくは勝てないだろう。


 まぁ、『理屈』を『理不尽』で塗り潰してこその『最強』ではあるんだけどな。


『で、結局俺は【S級】ライセンスを取得できたって事でいいのか?』

『そうね。ガリア史上二人目の【S級】スタートを祝福するわ』


 そう言いいながら、金色に光り輝くネームプレートを差し出してきた。


『えらく準備が良いな。もしかして、俺が討伐できるって信じてくれてた?』

『いえ、十秒もあれば作れるので、今サクッと作りました』

『そ、そっか……』

『あ、それと。今後は様々なギルドや中央政府からの勧誘が、後を絶たないでしょうから気をつけてください』


 まぁ、そうなるよな。

 あんまり面倒ごとには付き合いたくはないけど、多分無理だよな~


『おっけ、ありがとう。あと、今日はもう遅いからギルドの申請は出直すことにするよ』


 時間はもう深夜零時を回っていた。


『分かりました。こちらで処理する書類等は進められるところまでやっておきますね』

『こんな時間まですげぇな。コレットなんかあっちのテーブルで爆睡してるってのに』


 コレットは鼻提灯を膨らませながら気持ちよさそうに寝ていた。

 因みにクロエは、コレットの尻尾を枕にしながら同じように寝ている。

 何も知らない者が見たらただの親子にしか見えないだろう。


『えぇ。ガリアの役人は二十四時間戦えないとお話になりませんからね』

『グラウンドタートルよりも先に討伐しなくちゃいけない敵が居る気がするが?』

『『怠惰ですかね』』


 クレアとルーナ嬢は社畜として完璧な回答を同時に答えた。


『……そっか』


――――――


 俺とクレアは寝てしまった二人を背負い、今夜泊る宿へと向かって夜道を歩く。


『もしコレットが重いようなら俺が持つから気軽に言ってくれ』

『もう、女性に対して失礼ですよアランさん』


 クレアはアランを窘めるように笑う。


『……アランさんは、エマさんが今どこで何をやっているのか気になりますか?』

『気にならないって言ったら嘘になるな。でも、別に聞きたいわけでもない。俺もエマも次の人生を歩き始めてるわけだしな』

『そうですか……』

『ところでさ』


 クレアの方を見る。

 銀色の鎧を着ているのは三年前から同じだ。

 しかし、以前まで着ていた鎧には帝国の紋様が刻まれていたが、今の鎧にはそれがない。


『クレアってもしかして帝国騎士団辞めた感じなん?』

『……えぇ。色々とありまして』

『その色々とは?』


 クレアは話すべきがどうか少し悩み、アランの方を向く。


『ウェイン隊長のご実家はかなりの力を持っています。それで、副隊長と数名の隊員が死亡した責任を押し付けられてしまって。きっと、私の態度が気に入らなかったのだと思います……』

『成程な。間接的に俺も加害者みたいなもんだな。俺とエマと仲良くならなきゃ無事でいられただろうしな』

『いえ! そんな事はありません! 私は私の意志でお二人と仲良くなりたいと思って行動していたわけですから』


 まぁ、クレアならきっとそう言うだろうと予想は出来ていた。

 であれば、俺に出来る事は一つ。


『なら俺のギルドに入ってくれないか?』

『……え!?』


 クレアはびっくりしたのか大きく目を開く。


『どうせ今無職だろ? ならいいじゃん』

『む、無職ではないです!』

『でも冒険者だと職歴は付かないだろ?』

『う、うぅ……。確かに、何らかの組織に属していない冒険者は無職として扱われますが……私を入れるとウェイン隊長、しいてはアーデンハルト家に目を付けられてしまいます』


 なるほどな。

 クレア程の腕を持つ騎士を欲しがるギルドは沢山あるだろう。

 にも関わらず無所属なのは裏で何らかの工作が行われているとみて間違いないだろう。


『別にいいよ』

『……え?』


 俺は夜闇に浮かぶ月を見る。


『俺はさ、もう二度と何も失いたくないからって理由で、この三年間滅茶苦茶頑張って来たんだよね。もう二度と失わないように、もう二度と奪われないようにってさ。俺の為に戦ってくれてたクレアをここで見捨てたらさ、俺は自身の「良心」を失っちまいそうなんだよな』


 俺はクレアに右手を伸ばす。


『クレアは俺が“また”何かを失う姿を見たかったりする?』

『……ずるいです』

『相手の退路を断つのは戦術の基本だろ?』


 クレアはゆっくりと俺の右手を掴む。

 その手は硬く、そして震えていた。


『不束者ですがよろしくお願いします』


 クレアの顔は涙でぐちゃぐちゃなっていた。

 しかし、月光で照らされている彼女の顔は不思議と、いつもより美しく見えたような気がした。




『やれやれ、こんな夜中に若い男女が何をしているのでしょうか?』


 二人の前に、白いドレスを来た銀髪の少女が立っていた。


『……誰だお前』


 見た目はただの少女のように見えるが、ルビーの様に美しいその赤い瞳からはただならぬ気配を感じた。


『申し遅れました。わたくしの名前はイザベラと申します。かつて吸血鬼の真祖をやっていた者です』

『……は? 何を言って―――』


 その刹那、銀髪の少女の姿が消えた。


 そして、次の瞬間

 銀髪の少女の手がアランの首元数センチまで迫っていた。

 その指の爪は血の様に赤く、ナイフよりも鋭い光を放っていた。


『クロエ様を渡しなさい』

『嫌だね』


 アランは首元を【血影】でコーティングし、銀髪の少女の攻撃を防いで見せた。


『――それは“わたくしの”黒血魔術!?』

『なんだ知ってるのか?』


 すると、背負っていたクロエが振動で目を覚ました。


『なんじゃ騒がしいのう。ワシは眠いのじゃ』

『ク、クロエ様!』


 銀髪の少女はクロエの顔を見るや否や、あわあわと動揺し始めた。


『……クロエ、なんかお前のファンガールっぽい子が挨拶しに来てるぞ』

『ん? ワシのファンガールじゃと?』


 クロエは目を擦りながら、イザベラを名乗る銀髪の少女をマジマジと見る。


『……誰じゃお前』


 イザベラは両手を地面に付け、ガクッと肩を落とす。


『そうですよね……こんなチンチクリンな見た目に成っては気が付きまんわよね』

『イザベラって名前らしいけど心当たりない?』


 クロエは顎に手を当て考える。


『……あぁ!? あの時の真祖か!』


 イザベラはクロエの言葉を聞くや否や、水を得た魚のように生気を取り戻し涙を流し始めた。


『やはり覚えてくれていたのですね!』

『そうじゃな。ってかおぬしは二千年前に喰って殺したはずじゃが』

『喰って殺した!?』

『そうじゃ』


 イザベラはゆっくりと立ち上がり、クロエの前まで歩いて来た。

 その様はとても美しく、上流階級の様な気品さを感じさせた。


『えぇ。二千年前にわたくしは、確かにクロエ様に“魔術”を食べられました。ですが、食べられたのはあくまで“黒血魔術”が大半を占めており、“真祖”としての【権能】は若干は残っていたのですよ』

『そうゆうことじゃったか。全部喰ったと思っておったが、中半端に残してしまっていたか。その子供の見た目もその時の弊害といったところか』


 クロエはイザベラの手をゆっくりととる。

 

『おぬしが望むのなら残りも全部喰らうがどうする?』

『――いえ、もう大丈夫です。クロエ様のおかげで吸血衝動は抑制され、日の当たる場所にも行けるようになりましたので』


 クロエは『そうか』と一言呟くと、少し安心したような表情を見せた。


『して、何故(なにゆえ)おぬしはアランを攻撃したのじゃ?』

『そうだそうだ!』


 ここぞとばかりに野次を飛ばす。


『……わたくしは、クロエ様にはこれ以上ないほどの感謝を感じております。故に、残りの生をクロエ様の為に全て使いたいと考えております』


 イザベラは俺の事をギロリ睨む。


『つまりは、そこの人間のオスが邪魔なのです』

『こやつはワシの弟子じゃ。ワシはこやつに、世界最強にしてやると約束したのじゃ。だから邪魔をされては困るのう』

『な、なんと卑劣な! おい人間! 貴様は一体クロエ様をどんなネタで脅したのですか!』


 イザベラは一瞬にして距離を詰めると、俺の服を掴み引っ張った。

 その顔は怒りに満ちており、そして何故か「はぁはぁ」と息を荒げていた。


『いや別に脅してないが』

『そんな訳ないでしょう! クロエ様は傍若無人の圧倒的な自由人。奪う事はあっても、誰かにモノを教えるなど考えられません! 早く教えなさい! どうすればクロエ様にお願い事が出来るようになるのですか!!!!』


 ……なるほどね。


『まぁ、落ち着けよイザベラ』

『あなたに気安く名前を呼ばれる筋合いはありませんが?』


 イザベラは額に血管を浮き出す程にブチギレている。

 そのまま腹を貫かれてもおかしくないだろう。


『そっか、そりゃ残念だ。弟子の俺とも仲良くしてくれたら、クロエと同じ屋根の下で共同生活を送りながら、ワンチャンお風呂だって一緒に入れたかもしれないのにな。本当に残念だ』

『アラン様、今後もわたくしと仲良くしていただけると嬉しいですわ』


 イザベラは目にも止まらぬ速さでアランの手をとり握手をしていた。


『なんじゃイザベラ、おぬしもギルドに入りたかったのか?』

『はい!』


 イザベラはにっこりとした笑顔をこちらに向けて来た。


『アラン様。……よろしいですよね?』


 その笑顔には有無を言わせぬ圧を感じる。


『クレアとコレットの意見も聞かないとなんとも言えないわ――ってかクレアとコレットは何処に行った!?』

『あぁ。戦闘の邪魔でしたので最初の攻撃の際、わたくしの城へと転移させてしまいしたわ』

『……ちゃんと生きてる?』

『心配いりませんよ。クロエ様のご友人に怪我をさせるなど絶対にあってはなりませんからね』


 吸血鬼の真祖とは言っても、一般常識はちゃんとあるみたいだな。


『おーけー。じゃ、ギルド【絶対無敵天上天下唯我独尊世界最強魔王軍】への加入を許可するよ』

『……なんですの、その死ぬほどダサい名前は』

『クロエが名付けた最強すぎるギルド名だぞ』

『素晴らしすぎますわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 こうして、クレイジーサイコレズの真祖が仲間になった。


 






















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