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グラウンドタートル


『って事でグラウンドタートル討伐が決定しました』


 テーブルで食事をしていた三人に事の経緯を説明する。


『無理です。グラウンドタートルは【S級】の中でも屈指の硬さをほこると言われています。かく言う私も半年前に挑戦してみたのですが傷一つ付けれませんでした』

『え? クレアって【B級】じゃなかったっけ?』

『今は【A級】上位と言ったところですね。【S級】に上がる為に色々と挑戦はしているのですが……壁はまだまだ高い感じですね』


 【A級】相当で『一個大隊の隊長を務められる』実力があるとされ、その上の【S級】は『天才』の領域であると言われている。

 たった三年で【B級】から【A級】に昇格しただけでも凄い事なのに、もう【S級】に届きそうなのは『才能』だけでなく、それを磨く『努力』を惜しまなかった証と言えるだろう。


『言うてデカくて硬い亀ってだけなんじゃろ? ちゃちゃっと仕留めて飯にしようなのじゃ』

『あ、あの。因みに私はまともな戦力にならないと思うんだけど大丈夫なの?』


 クロエはおそらく傍観に徹し、コレットは現状非戦闘員か……。

 ってか上空5000mからのスカイダイビング後から、コレットの喋り方がだいぶ砕けてきたな。

 まぁ、それだけ距離が近づいたって事か。


『そういやコレットって何か魔術が使えたりするのか?』

『一応は火と水属性の魔力を持ってるから、その属性の初級魔術なら少し使えるかな』

『えっ!? ガチ!?』


 自身が保有している魔力属性と合致しない魔術を使用する場合、その出力は半分程度に下がると言われている。

 故に、自身に適応しない属性の魔術を扱う際は、範囲を”自己”に限定し仕様する場合がほとんどである。

 つまりは、複数属性の魔力を持っている者は、それだけで戦術の幅が広がるという事だ。


『複数属性の魔力持ちってだけでも凄いのに、反発属性の組み合わせは超レアじゃん』

『ま、まぁ……料理の時に使う程度だけどね――ははは』


 コレットは目を反らしながら、串肉を一口食べる。


『どうせまともにコントロールできんのじゃろ?』


 ギクッとコレットは肩を震わせる。


『反発しあう属性の魔力が一つの体に納まってるだけでも幸運と言えるのじゃ。本来であれば、受精の段階でどちらかの属性が押し出されるのじゃが、たまに押し出されず混ざり合う場合があるのじゃ。じゃがその場合、基本的にはみな”死産”となる。運よく出産できても、反発しあう魔力をコントロールするのは並大抵の努力では無理じゃ』


 コレットは目線をテーブルに落とす。


『うん……そうなんだよね。少しでも魔術の出力を上げようとすると、もう片方の属性に打ち消されて上手くいかないんだ。貴重な複数魔力属性持ちなのに、簡単な魔術しか使えないポンコツ。私はただ、無駄に体が頑丈なのだけの役立たずなんだよ』

『おっし、ならコレットは盾役な』

『ねぇ、待って! そこは慰めるところでしょ!』


 コレットは持っていた串肉を俺の口目掛けてぶち込んだ。


『……え、嘘。これって関節キッス?』


 アランは目をウルウルさせながらコレットを見る。


『一応お父さんから自己防衛用の獣拳を教わってるんだよね……殴っていい?』

『――拳を痛めますよ? レディ』


 コレットはアランに腹パンした。

 そして、アランは机に突っ伏した。


『ま、まぁコントロールが難しいってだけで、訓練次第では出来るようになるだろきっと! そうだろクロエ?』

『そうじゃな。魔力が暴走し爆発して死ぬかもしれんが……なんとかなるじゃろ!』


 コレットは机に突っ伏した。


『って事でクレア、大丈夫そうだわ』

『何も大丈夫には見えませんが……』


 クレアは深くため息をつくと椅子から立ち上がった。


『分かりました。私も同行しましょう。貴方達だけで向かわせるのは心配すぎます』

『お前は俺の母親かよ』

『私はまだそんな歳じゃ――――――そんな歳ですね』


 クレア・スカーレット30歳は机に突っ伏した。



――――――


『ここが【エティスの森】か』


 ガリア帝国のやや北東に位置するこの森は危険性の高い生物が多く存在し、立ち入り禁止区域に指定されている。


『【B級】相当の冒険者の練習場として知られている場所です。かく言う私もここで修行していたので個人的にも思い入れがあります』

『で、そこにおっきい亀ちゃんが出て来て困っていると』


 コレットは街で買った大き目のバッグを背負いながら、辺りをキョロキョロと見まわす。


『そういやコレット、そのバッグって何のために買ったんだ?』

『これ? 貴重なアイテムとか食料があったら確保しておこうと思ってさ』

『結構抜け目ないな』

『まーね。私はこれでもハウスガーデンの獣人だからね。食べれそう、売れそうな物はちゃんと採っておかないと気が済まないんだよ』

『因みにこれも食えるのじゃ』


 クロエは、どう考えても毒キノコにしか見えないブツをコレットのバッグに入れた。


『ちょ、ちょとクロエちゃん! それマグダラダケっていう猛毒キノコだよ!』

『でも美味いぞ?』


 クロエはもしゃもしゃとマグダラダケを食べ始めた。


『クロエちゃん!?』

『大丈夫じゃ、ワシとアランなら毒耐性があるから食えるのじゃ』

『……いや食わないよ!?』


 闇属性の魔力持ちはデバフに対して強い耐性を持つ。

 と言っても、わざわざ毒キノコを食べる必要性はない。


 クロエが俺の顔にちょいちょいとマグダラダケを押し付けていると、森の奥から謎の重低音が響いて来た。


『……どうやらこの先グラウンドタートルがいるようですね』


 クレアは剣に手を置きつつ、警戒しながら奥へと進む。

 すると、綺麗な湖が俺達を出迎えてくれた。


『わぁ、綺麗! ちょっと飲んでみてもいい?』


 コレットは小走りに駆け出した。


『コレットさん! 迂闊に動くと危な――』


 その巨体は突如として姿を現した。

 湖の水を押しのけゆっくりと浮上してくるその様は、地殻変動と言ってもいいかもしれない。

 ダイヤモンドを連想させる角張った甲羅に、太く大きい足。

 如何なる攻撃をも通さないと言わんばかりの甲羅は圧倒的な存在感を放ち、【S級】の難しさを否応なく理解させてきた。


『こ、これ討伐出来るんですか?』

『少なくとも私の剣では傷一つ付けることが出来ませんでしたね』


 俺は静かにクロエを見る。

 クロエは相も変わらず毒キノコを食べており、『ワシからしたらこやつはただの餌じゃ、はよ食いたいからサッサと始末するのじゃ』と言っているかのような顔をしていた。


 【逸脱者】クラスになると【S級】レベルじゃ全く動じないって事か。

 正直、勝てるのか? って一瞬思っちゃったけど、『勝てて当然』にならなくちゃいけねぇよな。


『クレア、グラウンドタートルの弱点属性ってあるのか?』

『【土】と【水】の属性を持つと言われているので、おそらくは【風】が弱点です。因みに私は【火】なのでゴリゴリに不利です』


 なるほどね……


 あのー、この辺に風属性の魔力持ちの方はいらっしゃいますでしょうか?

 あ、いない? そうですかー。


 じゃあ、ゴリ押すしかねぇよなぁ!!!!


『クレアはあの亀の注意を引いてくれ、隙を見て俺が攻撃を叩きこむ』

『分かりました。危険だと判断したら速攻で離脱してくださいね』

『アラン! 私は何をしたらいい?』

『その辺でうろちょろしてろ』

『うろちょろ!?』


 俺とクレアはタイミングを合わせて動き出した。


『私とてこの三年間遊んでいた訳ではない』


 【エリアルブーツ】

 風属性の魔術がクレアの足を包み込む


【フレイムソード】

 火属性の魔術がクレアの剣に宿る


『たとえ斬れずとも、ダメージを与える方法はある。水属性の魔力持ちと言えども、容易く受けられるとは思わないでくださいね』


 剣に宿した【火】が足元の【風】を吸い上げ、大きく燃え上がり【炎】となった。

 クレアはそっぽを向き、ぼけぇーっとしているグラウンドタートルに剣先を向ける



『【ハイ・フレイムソード】』


 燃え盛る剣を勢いよく振ると、複数の赤い斬撃がグラウンドタートル目掛けて飛んで行った。


 金属を鉄剣で叩くかのような甲高い音が響く。

 しかし、いくつかの音は低くて鈍い音として返ってきた。


『グゴゴゴ……』


 グラウンドタートルは口をゆっくりと開け、地割れの様な音を立てながら攻撃が来た方向に向きを変える。

 よく見ると、いくつかの攻撃が届いたのか甲羅には傷が出来ており、その下の皮膚からは血が出ていた。

 しかし、すぐ様に甲羅は修復され皮膚は見えなくなった


 グラウンドタートルの周囲に無数の結晶の様な何かが浮かび上がる。

 そして、ゆらゆらと動く結晶は切っ先をクレアの方に向けると、静止した。


『アランさん、持って”一分”です』


 その掛け声を皮切りに、無数の結晶はクレア目掛けて発射された。


 クレアは襲い掛かる結晶をギリギリのところで躱し、剣で叩き落としていく。


『くっ、速い』


 叩き落とすことが出来ても、壊すことまでは出来ない。

 おそらくは、氷の結晶の中に微量な土を混ぜ込んで高度を高めているのでしょう。

 そして、落とした結晶は直ぐに体制を立て直し、死角から襲ってくる。

 これは想像以上にキツイ……でも


『前の私は三十秒までしか耐えられませんでした。ですが、”今”は一分持ちますよ』

『あぁ、助かったぜ! 準備は出来た』


 アランは【楔影】を木の先端に巻き付け、グイっと引っ張る。

 そして、その木の弾性を利用し、グラウンドタートルの頭上目掛けて跳んだ。


『甲羅が硬けりゃ首を狙えばいい。って思ったけどよ――その甲羅を”ぶち抜いて”こそ【最強】に近づけるってもんだよなぁ!』


 【楔影】を甲羅目掛けて飛ばし落下地点を固定。

 それと同時に、右拳を【血影】でコーティング。

 あとはいつものバフセットで身体を大幅に強化。


『 魔王流 四十二式 【(けっ)(しょう)()】』


 アランは【楔影】による勢いを殺す事なく、そのまま甲羅に拳を叩きつけた。

 

 カンッ


 拳の先にある甲羅に小さなヒビが入る。

 そして、そこを中心にパキパキと甲羅が崩れ落ちていく。


『やった!』


 その辺をうろちょろしていたコレットが歓喜の声を上げる。

 しかしその瞬間、崩れ落ちていた甲羅が消失し、すぐさま新しい甲羅が生えてきた。


『そ、そんな……これほどの攻撃でも完全な破壊にまで至らないのですか?』


 クレアは膝から崩れ落ちる。


『いや、種は植えた』

『……え?』


 アランはゆっくりとグラウンドタートルの背中を指差す。


『アイツの甲羅がすげぇ回復力があるってのは、さっきのクレアの攻撃で見えてたからな。本当は真っ二つにしてやりたかったけど、他の奴を巻き込みかねないから今はできないだろ?。だから……今回は“華”を咲かせる事にしたんだよ』


 グラウンドタートルの体から何やら赤い“結晶”の様な物が飛び出て来た。

 それは一発だけでなく複数回、体内から外皮を裂くように姿を見せた。

 それは数秒の間続き、そして――――――


 グラウンドタートルは、悲鳴を上げることも出来ずに絶命した。


 【血掌華】

 自身の血を対象に打ち込み内側に血晶を発生させ、内臓諸共ズダズタに引き裂く残虐極まりない魔術である。



『ほら、赤い血晶がちょっと花びらみたいだろ?』

『『趣味悪……』』


 クレアとコレットは俺の事を“うわ……”という少し蔑んだ目で見てくる。

 そしてその後ろで、一人敗北したクロエの姿があった。


『結構お気に入りじゃったのに……現代の価値観は難しいのじゃ』



 こうして『クソデカい亀の討伐』は無事に完了した。



【『……フフフ。やはりクロエ様は可愛いですねぇ……ふふっふっふふふ』】


 薄暗い部屋で、舐めるように鏡を見ながら銀髪の少女は不敵に笑う。

 


 

 


 

 









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