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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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双封箱


 化け物の体から黒い液体がポタポタと落ちていく。

 液体は足元で小さな水溜りを作ると、段々と広がり始めた。


『あのまま放っておくと、コロッセウムの人間は皆――――――死ぬのじゃ』

『私行ってくるよッ!』

『ヤバくなったら直ぐに離脱するのじゃぞ?……ワシは大々的には動けんからな』

『分かったッ!』


 そう言うと、コレットは観客席から入り口付近まで大きく跳躍した。


『わ、私も行きます!』

『駄目じゃ。お主は魔力欠乏症になったばかり、魔力が回復していても、肉体はまだ本調子ではなかろう?』

『で、でも……』


 ドラコは観客席の背もたれを手で掴みながら、動き出そうとする体を必死に抑えていた。

 背もたれはギリギリと音を立てながら歪んでいく。


『……そうじゃのう。直接戦うのではなく、サポートする程度なら良いぞ』

『サポートですか?』

『そうじゃ。あやつが出している黒い液体があるじゃろ?あれが広がるのを何とか囲いを使って防ぐのじゃ』

『な、なるほど……。やってみます!』


 少し自信が無さげな表情ではあったが、最後の返事には確かな力強さがあった。


――――――――――――――――――


『はぁァァァァァ――――――ッ!』


 コレットは黒い化け物の頭上に着地するような軌道で飛び蹴りをかます。

 足からは炎が噴き出ており、遠くから見ると小さな隕石が落下しているように見えた。


『……何だ、お前?』


 黒い化け物は腕を盾にするように構える。

 衝突。

 コレットの燃え盛る飛び蹴りが化け物の腕をとらえた。

 バキバキと骨が砕けるような音を響かせながら、化け物の腕がぐちゃりと粉砕される。


『……強いな、お前』


 そう静かに呟くと、化け物は開いている方の手でコレットの右足首を掴んだ。


『セイヤァ!』


 コレットは体を強引に捻りながら、左足で化け物の首元を狙った。

 骨と肉が裂けるような音を鳴らしながら、化け物の首は【>】の字を描くようにへし折れた。

 化け物は口から黒い血を噴き出す。

 コレットは地面に着地しながら、眼前の化け物を見る。


『……あれ!?』


 確かな手応えを感じ、終わったと思ったその時、コレットは異変に気がついた。

 首が完全にへし折れているのにも関わらず、化け物の顔には余裕そうな表情があったのだ。


『――――――【穢れた血肉(ダーティーブラッド)】』


 化け物の足元に広がる黒い液体がブクブクと動き始める。

 そして次の瞬間、複数の赤黒い棘が飛び出してきた。

 赤黒い棘はコレットの全身を狙うように襲いかかる。


『うわっ!!!』


 コレットはバックステップを繰り返し、間一髪の所でこれを躱した。

 化け物はへし折れた首を手で強引に押し戻す。

 ゴリゴリと不愉快な音を立てながら、元の位置へと矯正された。


『……貴方、誰?』

『私の事か?』

『そう。人間じゃないよね?』

『いいや、私こそが――――――人間だ』


 そう言うと、黒い化け物は黒い液体の中に腕を突っ込む。

 すると、手には細長い一本の剣が握られていた。

 色は赤黒く、ギザギザとした両刃には同じく赤黒い液体が伝っていた。


(さっきの技なんかもそうだけど、コイツ……イザベラちゃんとアランが使う魔術に少し似てる気がする……)


 すると、上の方から龍人の少女が降ってきた。


『ドラコちゃん!?』

『コレットさん!あの黒い液体が危ないってクロエさんが言ってまして!私はそのサポートに来ました!』

『体調は大丈夫そう!?』

『無理はしないので大丈夫ですっ!とりあえずは、アイツを中央の戦闘広場まで運びましょう!』


 赤黒い剣を持った化け物はケタケタと笑いながら走り出し、距離を詰めてきた。

 

『遅いよッ!!!』


 コレットは足を高い位置へと持っていき、赤黒い剣を蹴り飛ばそうと試みる。

 しかし、間接の無い腕が鞭のように撓りながら不規則な軌道の剣戟を作り出しコレットに迷いを生んだ。

 そして、その迷いは僅かな隙を作り出した。

 

『――――――迷ったね』


 赤黒い剣はコレットの左腕の付け根辺りを切裂いた。

 

『……くっ』


 鋭い痛みが腕を走る。

 コレットは寸での所で攻撃から防御へと姿勢を切り替え、致命傷を避けた。

 それは頭で考えたというよりかは、本能的なものだった。


『コレットさんッ!!!』

『……大丈夫。それよりもドラコちゃんは準備してて――――――私がコイツを闘技場の中央に連れて行くから』


 化け物はニヤリと笑みを浮かべる。

 

『聞こえているぞ?』

『聞かせたんだよ』

『……?』


 コレットの体から蒸気が噴き出し始めた。

 頬がほんのりと赤く染まり、犬耳と尻尾の毛が逆立つ。

 

『――――――ぶっ殺す』


 刹那、コレットの姿が消えた。

 化け物は咄嗟に赤黒い棘を自身の周囲へと展開させた。

 乱雑に生えた棘は触れるだけで手が裂けてしまいそうなほど鋭く見えた。


『……速いな。目で追えな――――――』


 化け物の頭に強い衝撃が加わった。

 首がぐるりぐるりと二回転する。

 千切れそうな程細く締まった首に、更にもう一度衝撃が加わる。

 ブチリ

 肉が裂ける音を聞かせながら、化け物の首はボトリと地面へと転げ落ちた。


『……』

 

 凄まじく速い動きで接近したコレットは慣性の力に乗りながら空中で逆さまになり、化け物の首にラリアットをおみまいしていた。

 そして、一度地面へと着地し再度締まった首元へ拳を突き刺した。

 その間2秒。

 ギリギリ目視で捉えられる数秒ではあったが、化け物はその姿を視認する事ができなかった。


 コレットは化け物の頭を足で踏み付け、潰した。

 潰れた頭部は嚙み潰したトマトのように弾け、その場に赤黒い水溜まりを作った。

 冷たい眼差しでコレットはそれを見降ろす。 


『……どうせこれでも死なないんでしょ?』

『当然だ』


 残された化け物の胴体に大きな口が現れ、静かに答えた。 

 そして、潰れ弾けた頭部の肉片がスライムのように集まり始める。

 ぐちゃりぐちゃりと音を立てて頭部を再形成する。


『……本当になんなの』

 

 コレットの困惑を嘲笑うかのように、化け物の体は一人でに立ち上がり、落ちた自身の頭を拾い上げた。

 そして、ぐちゃりと肉を押しつぶすかの様な不快な音を鳴らしながら接着し始めた。


『――――――中々に良い攻撃だったぞ』

『まだまだ本気出してないけど?』

『それは面白い』


 化け物の全身から赤黒い鋭く短めの刃がヌルヌルと生え始めた。

 赤黒い刃は血を求めているかのように光沢を帯びており、頭部から爪先に至るまでびっしりと並んでいた。


『イガグリみたいだね。子供とかが凄く好きそう』

『ほざくな女』

 

 化け物は少し癇に障ったのか、若干や不機嫌な雰囲気を感じさせた。


『人間みたいに怒れるんだね』

『言ったはずだ、私こそが人間であると』

『じゃあさ――――――』


 コレットは自身の左腕に氷で出来た小手を生成した。

 全体的に鏡のような艶々とした光沢を帯びており、かなりの厚さがあるように見えた。

 

『貴方――――――名前はなんて言うの?』

『……名前?』


 一瞬、化け物に隙が生まれた。

 唐突な問いに対し、明確な答えを持ち合わせていなかった為か、目の前の事よりも疑問を優先してしまった。

 

『【氷鉄拳】ッ!』


 コレットの氷の小手を纏った左拳が化け物に対し突き出される。

 突起した赤黒い刃は先端から壊れていき、その左拳は化け物の腹部を正確に捉えた。

 全体重を乗せた重い一撃は、化け物を闘技場の中へと吹き飛ばした。


『……油断した』


 化け物は殴られた際の衝撃を、空中でクルクルと後転しながら殺す。

 そして、勢いが弱まったのを確認し、化け物はピタリと地面へと着地した。


『ドラコちゃん!!!』

『はいっ!』


 既に配置についていたドラコは両手を勢いよく地面へと付けた。


『【土竜壁(ガイアス・ウォール)】』


 魔術の発動と共に、闘技場を囲むよう円形状に土の壁が盛り上がっていく。

 戦闘エリアと観客席を隔てるように積み上がった土壁は、一切の揺れを感じさせなかった。


『……邪魔だな』


 化け物はずちゃずちゃと音を鳴らしながら壁に向かって走り出した。

 自身が通った後には、足跡サイズの赤黒い液体溜まりが出来ていた。

 化け物は腕を鈍器のような形状へと変化さえ、土壁に向かって振り下ろした。


『駄目だよッ!』


 化け物の進行方向先にある土壁の一部がドアのようにパカリと開いた。

 すると、『待っていました』と言わんばかりにコレットは炎を纏った右拳を化け物の体へと突き出した。

 直撃。

 コレットの右拳は化け物の右腹部を抉りながら削り取った。

 抉れた右腹部からは赤黒い液体がドクドクと流れ出す。


『……ぐっ』


 化け物は地面に膝を着きながら、苦悶の表情でコレットの事を見上げる。


『観念しなさい』

『……投降すれば、助けてくれるのか?』

『そうだね。ここが法治国家である以上、貴方の罪は法が裁く事になるだろうし』


 化け物は口角を上げながら、不気味に笑った。


『……分かった。投降する』

 

 そう言うと化け物は、拘束してくれと言わんばかりに両手をコレットの方へと差し出した。


『……』


 コレットは手首に巻いてある白い包帯をスルスルと外すと、化け物の両手首を拘束するべく近づいた。

 その距離1メートル。

 得物の攻撃範囲内へとコレットが近づいたその瞬間、化け物の手首から赤黒い剣が飛び出してきた。

 飛び出した赤黒い剣は、コレットの心臓部を狙い澄ましたかのように襲う。

 しかし、コレットはこの奇襲を予測していた。


『クロエちゃんとの特訓のおかげかな――――――止まって見えるよ』


 突き出された赤黒い剣は中腹部からポッキリと折れる。

 視線をやや下に移すと、蹴り上げられたコレットの右足があった。

 それに対して、化け物はニヤリと笑みを見せると、蹴り上げられたコレットの右足首をガッチリと掴んだ。


『――――――掴まえた』


 化け物は自身の右手に力を入れる。


『まず――――――』

 

 何かが砕ける音が聞こえた。

 コレットの右足首があらぬ方向を向く。


『……くっ』

『コレットさんッ!!!』


 化け物の足元にある地面から鋭利な岩が生え出てきた。

 岩は化け物の腕を切断しながら隆起し、切断面からは赤黒い液体が噴き出る。

 コレットはそのチャンスを逃す事なく、一時距離を空けた。

 

 コレットは自身の右足首を見る。

 化け物に掴まれた位置にはうっ血跡があり、鈍い痛みが走る。


 (……これじゃあ、さっきみたいな速度はもう出せない。それに……なんか少し動きが速くなってる)


 化け物の体をよく観察する。

 すると、先ほどまでよりも、腕と足が細くなっているように見えた。

 そして心なしか、表情からは余裕を感じられた。


『……どうしたの?攻めてこないの?』

 

 化け物もまたコレットを観察しているのか、その場から動かない。

 しかし、数秒も経たないうちに口を開いた。


『――――――お前から学ぶ事はもう無さそうだ』


 刹那、化け物の姿が消えた。

 しかし、コレットの目にはかろうじて化け物の動きの軌道が見えていた。


『ココっ!』

 

 コレットは自身の背後を振り向きながら、燃え盛る右拳を突き出した。

 しかし、突き出した拳は目に見えない何か壁のような物に阻まれ、化け物の体にダメージを与えることが出来なかった。

 化け物は静かに告げる。


『その攻撃はもう――――――効かない』


 化け物はコレットの右手首を掴みながら、強引に体を引き寄せる。

 そして、裂けた口を更に大きく開く。

 コレットは左腕を後ろへと引き殴る姿勢をとるが、その顔には恐怖と諦めの感情があった。


『――――――頂きます』

『コレットさん!!!』


 ドラコが大きな声をあげ走り出す。

 しかし、それよりも早く化け物はコレットの頭を口の中へと入れ、パクりと閉じた。

 そして、味わうようにモグモグと咀嚼する。


『……何だ?』

 

 化け物は何か違和感を覚え、口の中にあるモノを吐き出する。

 すると、そこにはぐちゃぐちゃになった自身の右腕があった。

 視線をコレットがいた位置へと移すと、そこには誰も居なかった。

 不思議に思い視線を上げると、そこにはコレットを抱えながらこちらを見ている一人の男と、少女がいた。

 

『……あ、貴方は?』

 

 コレットは何が起きたのか良く分かっていない様子で、自身をお姫様抱っこしている男へと問いかける。


『ご機嫌よう。私の名前はグリムと申します』


 右半分が黒、左半分が白色のスーツを身に纏う紳士スタイルの男は、スーツとは真逆の白黒カラーリングの髪を揺らしながら、優しい笑みをコレットへと向けた。

 しかし、その傍にいる金髪の少女はバツが悪そうな表情であらぬ方向を見ていた。

 

『ア、アリスちゃん!!!』


 ドラコは急ぎ金髪の少女へと近づく。

 

『どうしてここに!?』

『……別に。たまたま通りかかっただけ』

『そうなんですね!あ、コレットさんを助けてくれてありがとうございました』


 ドラコは頭を下げる。


『い、いいわよ別に!そう言えば……あの黒髪の子は?』

『ベノミサスちゃんなら無事ですよ!』

『……そっか』


 金髪の少女はどこか嬉しそうな表情を見せる。


『……やれやれ、やはり殺りそこねてましたか』

『あ、貴方はあの時の』

『どうも、お嬢さん』


 ドラコは一瞬狼狽えたかの表情を見せた後、直ぐにニッコリとした笑顔を見せた。

 そして、右親指を立てながらそれを逆さまにひっくり返し紳士の前へと突き出す。


『貴方はアランさんがぶっ殺すそうなので、コレットさんを助けてくれたお礼は先に言っておきますね^^――――――死ね』

『……全く。これだから竜種は嫌いなんです』


 ヤレヤレといった表情を見せながら、男はコレットをゆっくりと地面へと降ろす。


『まぁ、とりあえずそのことは一旦置いておいて。とりあえずは――――――あの化け物を何とかしましょうか』


 静かに此方の様子を伺う化け物へと視線を向ける。

 傍らにいた金髪の少女は懐から短銃を取り出し、化け物へと構えた。


『かかってこい――――――旧人類ども』


 化け物は両腕を左右に大きく開きながら、ニヤリと笑った。


――――――――――――――――――


 アイスヘイル・コロッセウム上空

 

『……今のは何だったんでしょうね?』


 フィーヤは上空から降り注がれた青紫色の何かを一瞬にして凍らせて破壊した。

 

『これだけの攻撃を継続しつつ、大規模魔術を同士発動とは……呆れた魔女だな』


 青肌の青年は、全方位から射出されている氷の槍を持っていた青剣で捌いていた。

 絶え間なく襲い掛かる氷の槍が邪魔で、完全に固められ動けずにいた。

 しかし、エクスには焦りの表情は見られない。


『随分と頑張りますね』

『俺の目的はお前の時間稼ぎだからな。こうして遊んでくれているのは寧ろ都合が良い』

『……そうですか』


 (あっちの黒龍は彼に任せているので大丈夫でしょう。街中を荒らしまわっている黒い化け物に関しては、何者かが狩り周っているようで、その反応は少しづつ減っていっているから何とかなると思う……しかし、本当にこれで終わりなのかしら?) 


 フィーヤは一抹の不安を感じながらも、周囲を見渡す。

 すると、黒く大きな体躯を持つ化け物がコロッセウムに向かって走って来ているのが見えた。


『……何アイツ?』


 フィーヤは氷の杖を振り上げる。

 しかしその瞬間、後方から強い魔力反応が現れ、フィーヤの意識は強引にそちらへと引き込まれた。


『……あら、簡単に抜けられたのね』


 エクスの周囲に展開していた氷魔術は全て溶かされ破壊されていた。

 周囲には青い炎が展開されており、魔術士の直観が『コレはただの火魔術でない』と訴えかけてきた。


『悪いが余計な事をされては困る』

『そんなにあのデカいやつが大切なのかしら?』

『知らん。俺はただ――――――自らの仕事を遂行するだけだ』


 エクスは胴鎧の内側に手を突っ込むと、何やら四角い箱を取り出した。

 四角い箱はバラバラとパズルのように分解し周囲へと展開された。


『……これは』


 フィーヤは何か嫌な気配を感じ取り、警戒を強めた。

 

『――――――【双封箱(そうふうばこ)】』


 展開された箱片はエクスとフィーヤを囲む様にそれぞれが線と線で繋ぎ合い始めた。

 そして、線と線の間を埋めるように黒い壁が出現し、箱の内と外とが完全に隔たれた。

 外の景色は一切見えず、気配も感じない。

 そして、箱の内部は真っ暗闇で何も見えなかった。


 フィーヤは杖の先に氷の礫を作り出し、内壁に対してぶつける。

 しかし、傷一つ付かなかった。


『残念だが、ここから10分は絶対に出られないぞ』


 エクスは青い火の玉を一つ作成し、箱内部を灯した。

 そして、ゆっくりとした動作で座り込んだ。


『……』


 フィーヤは、かなり強力な氷の剣を作り出し壁を叩いた。

 しかし、先程と同じようにダメージは一切入っていないようだった


『……へぇ、これヤバイやつじゃん』

『神話の時代に作られたものだからな。対象を二人指定して、10分の間閉じ込めておける魔道具だ。たったそれだけの機能しかないのだが、それ故に強力でもある』


 (……どうする?一応、破壊しようと思えばできそうだけど――――――いや、彼らの目的がハッキリするまで下手に魔力は使えないわね)


『……まぁ、いいでしょう』


 二人は睨み合いながら、暫しの時間を過ごす事にした。


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