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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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囲い


 ルイン一行はエマの案内の元、仮面の男がいた場所に向かって走っていた。

 そして、その最後尾を紫色の髪を持つ女性がはぁはぁと呼吸を荒くしながら追従する。

 腰まで伸びた髪の毛は所々が癖で跳ねており、顔には大きな丸眼鏡をかけていた。


『ちょ、先輩達!速いです!私もう無理です!』


 エマ達と同じ制服を身に纏っているその紫髪の女性の声に反応し、前を走る面々は一度立ち止まった。


『……はぁ〜パールアンタさぁ――――――だらしなさすぎない!?』

『ご、ごめんなさい……です』


 しゅんとした表情でパールと呼ばれた女性はルインの顔を様子を伺う様に見る。

 肩は大きく縦に揺れており、相当に荒い呼吸をしているのが分かる。


『パールちゃん大丈夫?』

『エマ先輩!ありがとうございます!』

『エマ、アンタが甘やかすからこんな乳牛みたいにだらし無い体になっちゃったんじゃないの?』

『――――――ちょっ!!!』


 心配し近寄るエマを尻目に、ルインはパールの胸を鷲掴みにする。

 そのサイズは目測でもかなりあるように見え、ルインの掌に圧倒的な存在感を感じさせていた。


『パールッ!俺がおんぶしてやるから早く行くぞ!』


 赤髪の青年ルーデルはその場でしゃがみ、背負う姿勢でパールを待つ。

 

『いやいや駄目ですよ!敵に強襲された時に対応できなくなります』

『……ならエマが代わりに』

『待って!私、今片腕くっ付けたばっかりだよ!』

『そこは気合いで何とか』

『感情論じゃどうにもならな――――――ッ!!!』


 その時、前方からドシドシと巨大なナニカが近づいてくる音が聞こえてくる。

 視線の先は左折構造になっており、音の主を確認する事ができない。

 しかし、ソレは着実にコチラへと近付いてきているのは分かった。


『戦闘陣形ッ!ルーデルは前衛待機、私とアルドは中衛、エマとパールは後衛でサポート!パールは状況に応じて強化魔術を弱体魔術へとシフト!』

『『『『了解!』』』』


 前衛のルーデルは背中にある剣を抜く。

 中衛のルインは巨大な水たまりを地面に展開し、アルドは植物の種をその上からばら撒いた。

 後衛のエマは自分達の死角後方に壁の様に結界を展開し、パールは懐から小さな木の杖を取り出した。


『【虹色の帳(オーロラベール)】【鉄壁の帳(ロックベール)】【剣の帳(ソードベール)】【速風の帳(エアリアルベール)】【衝撃の帳(ショックベール)】』


 パールはメンバー全員に強化魔術を使用した。

 【虹色の帳(オーロラベール)】……四大属性に対しての魔術防御力の上昇

 【鉄壁の帳(ロックベール)】……物理防御力の上場

 【剣の帳(ソードベール)】……筋力強度の上昇

 【速風の帳(エアリアルベール)】……移動速度の上昇

 【衝撃の帳(ショックベール)】』……痛みに対しての痛覚耐性の上昇

 

 隊列を維持したまま曲がり角を注視する。

 すると、黒い人型のナニカがドタドタと先端が尖った手足を前後に振りながら走って来た。

 大きさは三メートル程で、上から口、鼻、目が付いており人間の顔を逆さまにしたかのような風貌をしていた。

 付いている目玉は飛び出しておりギョロリとこちらを覗く。

 裂けたように大きい口元からは血のような赤い液体が滴り落ちており、鼻と目玉にかかっていた。


『……私が見た時と姿が違う』

『エマ、それはどうゆう事?』

『――――――人に近くなってる』


 ルインは恐怖するエマの顔を確認して直ぐに、作戦の実行を宣言した。

 

『とりあえずは、アイツを捕獲しますッ!!!』


 黒い化け物が水溜まりの範囲内に侵入した瞬間、複数の水の柱が噴き上がり化け物を囲む様に伸び頂点で結合した。

 それは一つの檻を形造り化け物の動きを封じ拘束した。

 化け物は水の檻に対して鋭い腕を突き出す。

 腕は水の檻を簡単に貫通する。

 しかし、胴体の部分が通過しようとすると、それを阻むように通さなかった。

  

『エマッ!』

『はいっ!』


 ルインの掛け声に反応しエマは即座に水の檻を囲むように結界を展開した。

 中にいる化け物は驚いたかのような反応を見せながらドンドンと結界を叩き始めた。

 水の檻はヌルヌルと形を変えて化け物の体を絡みつくように縛り付けた。


『……目的の相手ではないけど、コイツを野放しにしておくことはできな――――――』

『――――――やれやれ、進化したとはいえ……まだまだヤンチャですねぇ』

『ッ!!!』


 声のした方向を見ると、仮面をつけた何者かがゆっくりと近付いて来ているのが見えた。

 そして次の瞬間、化け物を捕らえている結界が破壊され、そのまま強引に中の化け物が水の檻を抜け出してしまった。

 ルインがすぐさまに視線を戻すと、化け物は勢いよく跳躍し後衛のパールの頭上を追い越しコロッセウムの方向へと走って行ってしまった。


『どうするルインッ!?』

『……あっちはあっちで戦える人がいるだろうから一旦無視。目標を仮面野郎に再設定』


 前衛を務めているルーデルは剣を仮面の男へと向けた。

 それに対して仮面の男は悠々自適に、余裕を見せながらその歩みを進めて来た。


『さて、先程ぶりですね』

『……』


 仮面の男はエマを見つけると、手を挙げて気兼ねなく挨拶をしてきた。

 しかし、エマは何も返すことはなく、ただただ右手を前に突き出し戦闘姿勢を崩さなかった。


『ルーデル!』

『おうっ!』


 ルーデルは懐から出したダガーナイフを仮面の男の胸部へと投擲した。

 飛翔するダガーナイフは瞬く間に炎に包まれる。

 そして、そのまま仮面の男の胸部へと突き刺さる。


『おぉ、熱い、熱いですねぇ』


 仮面の男は冷静な口調を維持しつつ、自身の胸に突き刺さった炎のダガーナイフを引き抜いた。

 傷口からは血が一滴も出ることはなく、すぐさまに塞がってしまった。

 ルーデルは続けざまに複数のダガーナイフを投擲する。

 

『無駄ですよ。もう――――――その攻撃は私には通用しません』


 投擲されたダガーナイフは仮面の男の体に当たると、まるで壁にあたったかの様に簡単に弾かれてしまった。

 弾かれたダガーナイフは金属音を響かせながら地面へと落ちる。


『――――――作戦B!』


 ルインの掛け声と同時に複数の魔術が起動した。

 先程の化け物を拘束したのと同じように、水の檻が仮面の男を囲おうとする。

 仮面の男は地面に右掌をピッタリとつける。


『【穢れた血肉(ダーティーブラッド)】』


 すると、地面を張る水が瞬く間に赤黒い液体へと変化していった。

 そしてそれと連動する様に檻の形成が停止する。

 仮面の男を結界が囲む。

 

『弱いな……平和がここまで人を堕落させるとは……。これでは一体――――――“何のために我々は棄てられた”のだろうか』


 どこか口調の変わった仮面の男は。ゆっくりと右手を横に振る。

 接触した部分が粉々に砕けちり、結界はその形を維持し続ける事ができなくなってしまった。


『……ねぇ、アンタは何者なの?』

『私ですか?私はただの亡霊ですよ』

『その亡霊さんが一体何しに来たのかしら?』

『千年前に貴方達が棄てた憎悪を還しに来ただけですよ』


 男はゆっくりと顔に貼り付けた仮面に手をかけ外す。

 接着面には赤透明な液体状の糸が複数本伸びており、見ているだけで不快になる光景だった。


『……聞いてはいたけど本当にキモイわね』


 男はニチャリと口元を歪ませる。


『仲間の敵討ちをしに来た美しい心を持つ貴方達が……最も醜い私の手で、絶望の中死んで逝く姿はさぞ――――――美しいのでしょうねぇ』


 全身を覆う包帯に血が滲み始める。

 そして次の瞬間、アルドの右肩を異様に伸びた仮面の男の人差し指が貫いていた。


『アルド!』

『【自然の鞭(ナチュラル・ウィップ)】ッ!!!』


 ルインが叫ぶのと同時に、アルドの足元から植物の根が飛び出してきた。

 根はアルドの肩を貫いている指にグルグルと巻きつくとそのまま拘束した。


『オラァッ!』


 ルーデルは炎を纏わせた短剣で伸びた指を切断する。

 切断された指はうねうねと動きながらダスティの方へと戻って行き、切断面にくっ付くと元の形へと修復された。


『……なんなのコイツ』


 ルインは眼前の化け物の姿に嫌悪感を示す。

 いつの間にかに全身の包帯は外れており、剥き出しの筋肉から血が流れ落ちていた。

 それはもはや人と呼べる形ではなく、触手の生えた肉塊であった。

 丸まるとした肉の塊に、十本の肉の触手がニョキニョキと生えていた。

 肉の塊の中央に裂けた大きな口のようなものがあり、涎がダラダラと滴り落ちている。


『こ゛ろ゛す゛』


 重く低い声でそう呟くと、十本の触手が一斉に動き出した。

 

『パールとエマは射程外に下がってッ!!!』


 四本の触手がアルドを襲う。

 それに対し、ルーデルは負傷したアルドを庇うように前に出て剣で触手の攻撃を防ぐ。

 同時に、六本の触手がラインを下げる為に走る後衛の二人を狙う。

 

『【水の刃(ウォーター・カッター)】ッ!!!』


 ルインは斧を素早く振り水の刃を放つ。 

 放たれた水の刃は六本の触手を一斉に切断した。

 切断された触手は地面へと落ち、もぞもぞと動きながらダスティの元へと戻って行こうとする。


『【水の玉(ウオーター・ボール)】』


 球体状の水の塊が切断された触手をのみ込む。

 中でグルグルと水流が動いている影響で触手は前へと進む事ができずに【水の玉(ウオーター・ボール)】の内部で回り続けてた。


『……』


 ルインは視線を肉塊とルーデルへと向ける。

 防戦一方。

 鞭のようにしなる触手が四方八方からルーデルに襲い掛かっていた。

 炎を纏わせた剣で応戦こそしてはいるが、見えない壁のようなものに反撃が遮られてしまい触手に攻撃が当たっていないように見えた。

 

(……やはり一度受けた攻撃に対して何らかの耐性ができるのは明白。一体どれくらいの時間耐性が続くのか?もし仮に長期的なものだとしたら持久戦はジリ貧だ……ただ、おそらくは――――――動き続ける持続的な魔術に対しての耐性は直ぐにはできない可能性が高い)


 『作戦“C”発動ッ!ターゲットは本体ッ!!!』


 ルインの掛け声に合わせて団員達は一斉に動きだした。


『い゛い゛ぞ゛――――――も゛っ゛と゛あ゛か゛け゛ッ!』


 アルドは穴の開いた肩に植物の種を詰め込む。

 すると、ニョキニョキと小さな芽が生え始め穴を塞いだ。


 鉄槍のように鋭く尖った触手がアルドを襲う。

 それと同時にルーデルは一気に本体の肉塊へと距離を詰めた。

 アルドを襲おうとする触手は急遽軌道を変えルーデルを背後から強襲する。


『【三重結界(トリプル)】ッ!!!』


 ルーデルの背後に範囲を限定した三重の結界の壁が出現する。

 触手は一枚、二枚と結界を貫通するが三枚目でその動きを止めた。

 そしてその隙にルインとパールはルーデルに対し多重の強化魔術を発動させる。

 ルーデルの体を水で作成したシャボン玉のようなものが包み込む。 


『ルーデルッ!!!』


 ルインは不安そうな表情でルーデルの顔を見る。


『――――――大丈夫だ。俺は仲間の力を信じてるッ!!!』


 ルーデルは自信満々に親指を立てて見せた後、赤色に光る剣を肉塊へと突き刺した。


『【焔剣突牙一鉄(ルーデルスペシャル)】――――――ッ!!!』


 あまりにもダサい技名を叫んだと同時に、ルーデルと肉塊を囲む様に結界が立てられた。

 更に、結界を補強するように上から木製の骨組みが造られて行き、巨大な【水の玉(ウオーター・ボール)】がそれを包み込んだ。

 結界、木製の籠、水の玉。

 属性の異なる三重の囲いが完成した。


 赤剣から漏れ出る炎が暗闇を照らす。


『……な゛ん゛の゛ま゛ね゛た゛?』


 肉塊と化したダスティは眼前の青年へと問いかける。

 何故、自分だけでなく、この青年を一緒に閉じ込めたのか?

 一つの疑念と、残酷な可能性がダスティの動きを止めた。


『……く゛…………く゛は゛は゛は゛ッ――――――す゛て゛ら゛れ゛た゛の゛か゛?』


 自身にヘイトを集め、自身ごと閉じ込める捨て身の愚策。

 ダスティにはそう見えた。

 故に、笑いが止まらなかった。

 棄てられた。

 それはかつて自分達が受けた苦痛と似通っていたからだ。


『――――――た゛す゛け゛て゛や゛ろ゛う゛か゛?』

 

 クックックと小さく嗤いながらダスティはルーデルに問いかける。

 しかし――――――ルーデルの持つ剣からより強い炎が噴き出した。

 その炎はダスティの体を内側から燃やし始めた。


『は゛は゛は゛は゛は゛ッ!!! む゛た゛た゛と゛な゛せ゛わ゛か゛ら゛ぬ゛?』


 強烈な肉の焦げる臭いをまき散らかしながら肉塊は再生と破壊を繰り返す。

 燃え尽き炭と化し、炭同士が再び結合し合い肉を再生させる。

 魔力が尽き攻撃が止まったその瞬間、その魔術に対しての耐性ができてしまう。

 故に、ダスティにはルーデルの行為が決定打にはなりえない無駄なものに見えた。


『お゛ま゛え゛は゛し゛ぬ゛ぞ゛?い゛い゛の゛か゛?い゛ま゛な゛ら゛た゛す゛k――――――』

『うるせぇよ』 


 ダスティは呆気にとられ口を閉じてしまった。

 それはルーデルの言葉を聞き入れたからではない。

 絶望的な状況でありながらも――――――未だ死んでいない青年の瞳を見たからである。

 

『……な゛ぜ゛――――――』 


 その時、ダスティは気が付いた。

 再生している自身の体が少しづつ小さくなっている事に。

 そして、その原因に。


『……な゛ん゛た゛?』


 暗闇の中、細く枝のようなものが本体から一時的に分離した、燃え尽き炭と化した自身の体の一部を器用に掴み取っていたのだ。

 ルーデルは大量の汗を流しながら苦しそうに笑う。

 

『お前がバラバラになるのが先か、俺達の魔力が尽きるのが先か――――――根性比べといこうぜ』

『き゛さ゛ま゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――ッ!!!』


 肉の触手がルーデルを襲う。

 しかし、空間が狭く思うように速度が出ず、一点に多重がけされた防御魔術と、噴き出る炎の壁を超える事が出来なかった。

  

――――――――――――――――――


 囲いの外では、枝に回収された肉の一部が結界を通過し次々と隔離された【水の玉(ウォータ・ボール)】に閉じ込められていっていた。

 ルーデルの放つ炎に負けない強度で魔術を発動している影響か、ルイン、アルド、エマ、パールの四人は大量の汗を流しながら、発動している魔術が解除されないよう踏ん張っていた。

 ルインは震える声でアルドへと話をかける。


『……アルド、あとどのくらい?』

『……三分』

『おけ……ってか……パール生きてる?』

『……ほぼ死んでます』

『……死んだら……殺すから』


 すると、奥の方からぞろぞろ黒い化け物達がこちらへと進んで来ているのが見えた。


『……これ終わったかしら?』


 アルドはずれた眼鏡を直しながら答える。


『……ルーデルを捨てて今すぐに逃げれば助かるな』

『その時は……私が命令を出しま――――――』


 不意に鈴の音が聞こえた。

 音の出どころを見ると、建物の屋上に一人の女の姿があった。

 東大陸の伝統衣装に身を包むその女性は柔らかな笑みを見せると、屋上からふわりと落下し黒い化け物達の前へと着地した。


『……味方かしら?』

『……どうだろうね』


 そして次の瞬間、黒い化け物達の体が横一線に切断された。

 それはまるで、風が野原の草を薙ぐかのように自然で華麗な一撃だった。

 

『――――――“ソレ”は“人の罪”。人である貴方がたが始末をつけなさい』


 そう言うと、背の高い黒髪の女性はふわりと跳躍し何処かへと行ってしまった。

 

『……ねぇアルド、アンタ……見えた?』 

『……見えなかったですね。気が付いた時には……化け物達が真っ二つになってました』


 二人は少しばかりの恐怖を感じつつも、視線を囲いへと戻した。


――――――――――――――――――


 燃え盛る炎を前に、ダスティ・ラッペンハワードは後悔していた。


 ……このままでは残りの命も使い果たしてしまう。

 こんな事になるのであればサッサと殺しておくべきだった。

 この体は耐久力こそあれど、攻撃力自体はそこまで高くはない。

 今回のように固められると……どうしようもない。


 ……憎い。

 憎い殺せ燃やせ喰らえ潰せ抉れ斬れ千切れ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――――――


 自身の中にいる無数の亡者達の悲鳴が少しづつ消えていく。

 そして、気が付いた時には、自分の声だけが残されていた。

 静かになった中、とある疑問が脳裏をよぎる。


 あぁ、そういえば――――――


 ダスティは手に持っていた白い仮面を見る。


 ――――――私は“何者”だったのだろうか?

 

 ダスティの体はそのほとんどが削り取られてしまい、一人分の焼け焦げた真っ黒な人型だけが残った。

 胸に赤剣が突き刺さったまま、腕を前へと伸ばしルーデルの体に触れようとする。

 すると、太もも辺りがボロボロと崩れ始めそのまま地面へと倒れた。

 倒れた拍子に両腕と首がポキリと折れ、手から落ちた白い仮面が地面の上を転がる。

 


『……終わったのか?』


 ルーデルは残骸となったダスティの体を見る。

 バラバラに砕けた体は再生をすることはなく、そのまま動かなかった。


 ルーデルは囲っている結界を腕で叩いた。

 すると、結界は消失していき、その上を囲っていた木製の籠がゆっくりと開く。


『……なんとかなったな』


 ニッコリと笑いながらルーデルは親指を立て団員達の方を向いた。

 ルインは【水の玉】の中で拘束していた肉片が完全に消失したのを確認し、安堵した表情で皆の顔を見た。


『作戦は終了。この後はウェインの遺体を回収します。傷のある者は応急措置を、私とアルドとエマは念の為、残った遺骸を完全に処分します』

『あ、あの……一応僕も負傷して――――――』

『眼鏡をカチ割られたくなかったらサッサと動け』

『は、はい』


 ルインの鋭い視線に気圧されてしまいアルドはそれ以上の抗議ができなかった。


『エマとパールも分かったかしら?』

『りょ、了解ですッ!!!』

『…………』

『……エマ?』


 エマは無言で、消し炭となったバラバラのダスティを見つめていた。


『……この人はどうしてあんなにも人を憎んでいたんでしょうか?』

『今となっては分らないし、知る必要性はないわよ』

『……そうですね』


 ダスティは空を見上げていた。

 体には一切の力が入らず、ただただ瞳の無い目で無駄に青い空を見させ続けられていた。

 そしてその光景に、かつての青空を思い出した。

 まだ、人だった頃に母と一緒に見た――――――あの美しい青空を。

 

 燃え尽き死んだはずの体がピクリと動いた。

  

 



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