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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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天の鎖


 落下してきている青紫色の雨を注視すると、その一つ一つが細長い槍の形状をもっていることが分かった。

 速度こそ速くはないが、広範囲に降り注がれている以上、建物とその中で隠れている者達の安全は保障できなそうだ。

   

『おいおい、罪のない一般人も巻き込むつもりか?』

『罪のない人間などいませんよ』

『横暴だなッ!!!』


 アランは左手に血で作成した剣を生成する。

 そして、それを目の前にいるザフキエルに向かって突き刺す。


『やれやれ』


 ザフキエルは突き出された血剣を左手で掴もうとする。

 その瞬間、血剣の形状が細長く変化し掴むよりも速く先端が伸び出した。


『――――――残念』


 しかし、ザフキエルはまるでその動きを予想していたかのように余裕を見せながら体を反らし躱してみせた。

 その動きには焦りの様な感情はなく、確信に満ちた自信があった。


『……なんかやってるな?』

『えぇ、やっていますとも』


 アランは一度距離を取るべく後方へと跳躍する。

 それに対し、ザフキエルは追う素振りなどは見せず悠々自適にこちらを見下ろしていた。


『それよりも……よろしいのですか?』


 ザフキエルは人差し指を空へと向ける。


『あぁ、問題ない。自国民に対しての攻撃が行われている以上は――――――アイツが何もしない訳ないだろうし』


 その言葉を待っていたかのように、空を降下する青紫色の雨が一斉に凍り出した。

 そして、次の瞬間には粉々に砕け散り、美しくも儚げな幻想的な景色を演出した。

 空を見上げながら、ザフキエルは少し不愉快そうな表情を見せる。


『……やはり、逸脱者は危険ですねぇ』

『余所見は厳禁だぜッ!!!』


 アランは自身の影に腕を突っ込み複数本の【黒の短剣】を取り出す。

 そしてそれを勢いよく投擲し始める。

 投擲された【黒の短剣】はそれぞれが別々の回転軌道でザフキエルを狙う。

 しかし――――――


『良い試みではありますが、やはり――――――無駄ですよ』


 突如、風の防壁がザフキエルと黒龍を囲む様に出現し投擲された【黒の短剣】はその勢いを失う。

 ザフキエルは両の翼を使いそれらを簡単に弾く。


『……一対二は卑怯じゃない?』

『まぁ、問題ないでしょう。今からそちらも二人になるようですし』

『……ん?』


 その言葉と同時に、突如としてアランの頭上に魔術陣が現れる。

 そして、その中から美しい黒髪の少女が落ちてきた。


『ベノミサスっ!?』


 アランは落ちてくるベノミサスは丁寧に受け止める。


『え、何があった!?』

『……アラン、それが――――――』


 その時、何か強い気配を感じたのかベノミサスはバッと顔を上げその方向を見る。

 

『……お母さん?』

『えっ!?お母さん!?』


 アランはつられるようにベノミサスの視線の先を見る。

 そこには今しがた斬りかかった黒龍の姿があった。


(確か竜状態のベノミサスの体表って黒と緑を混ぜたような色だったよな……確かによく見ると似てるような気がしてきた)


『母親の事は覚えてるのか?』

『……覚えてない。でも――――――本能が【そうだ】っ言ってる』

『ならあの黒龍はベノミサスの母親だな』


 アランは一切の疑いなく即答する。


『ベノミサス、取り返しにいくぞ』

『うんっ!』


 ベノミサスの体を荒々しい風の渦が取り囲む。

 そしてそれは段々と大きくなっていき、黒く大きな影を映し出す。

 

『――――――本気モード』


 二本の大きな黒い角と黒緑色の皮膚と翼。

 四本の腕を大きく開きながら、ベノミサスは咆哮をあげた。


『母親の方は頼んだぞ。俺はあのクソ天使をボコす』

『わかった』


 そう言うと、アランは目にも止まらぬ速さでザフキエルに接近する。

 そして、ザフキエルの顔を手でガッチリと掴み、黒龍から引き剥がすよう強引に移動させ、そのまま古城へと叩きつけた。


『――――――遊ぼうぜ天使さんよぉ』

『乱暴ですねぇ』


 ザフキエルはアランの腕を掴もうと右手を前に出す。

 しかし、アランはそれを左手で弾きそのまま右足でザフキエルを踏みつけ押し込んだ。


 踏みつけた足元から眩い光が放出される。

 光は質量を持っているかのようにアランを押し除ける。

 アランは一度様子を見るべく古城の外壁から降り距離を取る。

 パラパラと外壁が崩れる中、ザフキエルはゆっくりと歩き出てきて地面へと着差する。


『まさか黒龍の子供が生きていたとは驚きですねぇ』

『今は仲良くやってるよ』

『逸脱者と同様に竜も均衡を崩す要因――――――これは始末するしかありませんね』


 おもむろに一指し指を立てベノミサスの方向へと向ける。


『【第三の天罰ザ・サード・パニッシュメント】』


 ザフキエルの指先に青紫色の小さな球体が生成される。

 アランは咄嗟に射線上へ飛び出す。


『邪魔ですよ……今は貴方よりもあちらの失敗作を処分したいんですよね』

『なんだ?中途半端な仕事してたって上司にバレるのが怖かったりするのか?』


 ピクッとザフキエルの肩が跳ねる。

 そして、少しバツが悪そうな表情を見せながら動揺したかのようにザフキエルは翼を上下に動かす。


『隙ありッ』


 ザフキエルの翼に向かって【黒の大剣】を振り下ろす。

 しかし、翼に攻撃が当たる瞬間、何か目に見えない壁のような物に遮られ、難なくと弾かれてしまう。


『無駄ですよ』


 ザフキエルがそう言うと、指先に生成された青紫色の球体はその姿を瞬時に鎖へと変化させアランの体を拘束した。

 ギチギチと音を立てながらアランの体に鎖が食い込んでいく。


『終わりです』


 ザフキエルはローブに付いた土埃を手で払いながら余裕を見せる。


『……ところでさ、アンタら天使の目的って何なの?』

『急に何を言い出すかと思えば……命乞いの言葉も知らないほどの無知だったとは――――――なんと嘆かわしい事か』


 アランの体は鎖で完全に拘束されている。

 しかし、アランの表情には焦りといった感情はなくどこか飄々としていた。

 

『今際の際なんだからそれくらい教えてくれてもいいんじゃないか?それとも、天使は罪人に対してはその程度の慈悲すら見せてくれない存在なのか?』

『……分かりました。知識を司る大天使として、貴方の知る権利を尊重しましょう』


 後方で大怪獣バトルが行われている中、ザフキエルは両腕を左右に大きく広げながら語り始めた。


『――――――【現行人類をある程度間引き、一人の英雄による新秩序の樹立】。それが我々【天理界】の最大の目的になっています』


 (……なんだ?さっきの包帯野郎共とはまた違う勢力のやつらなのか?現状……青肌、包帯、天使の三勢力が共同している?何故?共通の目的があるからか?)


『……なんでわざわざ現行人類を間引く必要性があんの?』

『今現在、現行の秩序を乱してしまうほどの力を持つ者達が段々と増え始めています。その数が増えれば増えるほど世界の安定は崩れ去る事になるでしょう』


 ザフキエルは手元に青紫色の光剣を出現させた。

 そしてその剣先をアランへと向ける。


『そうなればまた――――――あの忌まわしき【死の時代】が訪れる事になります』

『……なるほどな。力を持った奴らが好き放題やり始めたらそりゃ秩序だとか平和は崩れるよな』

『ご理解頂けて幸いです』


 ザフキエルはアランへと向けた剣を一度下げる。


『では、我々の目的の為にご協力していただけますよね?もし、断るのであれば――――――断罪せざるおえませんが』

『……』


 (コイツの理論だと、死の時代が訪れるか否かに関係なくどちらにせよ現行人類は碌な目にあわねーじゃねーか。まぁ、どうせ地獄になるのなら、英雄を立てて次の時代に備える方がいいってのは理解できはする――――――がしかしだ)


『ってかさ――――――調子にノったやつは全員俺がボコすよ』

『……は?』


 ザフキエルは言葉の意味が全く理解できず困惑する。

 

『力を持った奴らが現行の秩序を破壊する可能性が高い。だから一旦人類をリセットして再スタートしようぜって事なんだろ?』

『え、えぇ……そういう事ですね』

『なら――――――俺が最強になって新秩序を創るよ』

『……正気ですか?』


 ザフキエルは得体の知れない化け物を見るかのような目で黒髪の青年を見る。


『正気なやつは、もっとまともな人生をおくってると思うぜ?』

『……フッ、確かにそうですね』


 刹那、青紫色の光剣がアランの首元を横なぎに襲う。

 それに対し、アランは膝を上手く曲げ態勢を低くし躱す。

 そして、さも当然のように鎖を破壊しザフキエルの間合いに入る。


『――――――なッ』


 黒い稲妻を帯びた拳がザフキエルの顔面に突き刺さる。

 そして今度は確実に“入った”と思わせる感触が拳から脳へと伝わる。

 ザフキエルの体は古城へと叩きつけられ、そしてその衝撃で古城は豪快に崩れ始めた。

 

『……やっべ』


 アランが今後の弁償について考えていると、崩れ行く瓦礫の中にゆっくりと立ち上がる何者かの影が見えた。

 そしてそれは眩い光の球体へと姿を変え黒龍の方向へと飛んでいった。

 

『オイッ!!!待てやッ!!!』


――――――――――――――――――

 

 ベノミサスは自身の眼前にいる黒龍を見つめる。


『……お母さんなの?』


 黒龍に対し問いかける。

 しかし返答はなく、痛々しい雄叫び声をあげながら風の刃を放ってきた。


『……』


 ベノミサスはそれぞれの手に火、水、土、風属性の魔力を帯びた槍を生成した。

 そして、炎を纏った【火の槍】を振るい風の刃を叩き消した。

 

『グガァアアアアア――――――ッ!!!』 


 黒龍は雄叫びをあげながらベノミサスの元へと突撃してくる。

 体を拘束する鎖がジャラジャラと音を鳴らす。

 ベノミサスは静かに四本の槍を構えた。


『――――――今、楽にしてあげる』


 衝突する黒龍の体を上の二本の腕で受け止める。

 そして、下の二本の腕に持った槍を黒龍の前足に向かって突き刺す。

 突き刺さ箇所からは血が流れる事はなく、黒龍もまたその攻撃に対しての反射的な反応が全くなかった。

 まるで何かに操られているかのように、一心不乱に黒龍はベノミサスの体を押し潰そうとしていた。


『……ん、鎖を壊さないと駄目?』


 暴風が吹き荒れベノミサスの体を襲う。

 体に複数の切り傷が出来ていき血が流れる。

 ベノミサスは持っていた槍から手を離し、鎖を直接掴む。

 すると、掴んだ両手に焼けるような痛みが走る。


『ぐぐぐ……』


 焼き焦げる痛みに耐えながら、強引に鎖を引きちぎるように引っ張る。

 鎖はピシピシと音を立てながらもまだ引きちぎれない。

 両の掌から血が流れ始める。

 しかし、ベノミサスは止まらない。


『痛い……痛いけど――――――お母さんの方がもっと痛いッ!!!』


 黒龍を抑えていた上の二本の腕を鎖へと回した。

 上半身に黒龍の体重がガッツリと乗ってしまい、体を起こし二本足で立っているベノミサスは体が後ろへとのけ反る。

 

『うぎぎぎぎぎぎぎ……』


 ギリギリの態勢で耐えながら、四本の腕で鎖を引っ張る。

 すると、パキパキと音を立てながら鎖の繋ぎ部分が壊れていくのが見えた。

 ベノミサスは最後の力を振り絞るかのように一気に腕に力を入れた。


『ぶっ壊れろォ!!!』


 破裂音。

 鎖のつなぎ目は完全に破壊され、パラパラと音を立てながら地面へと落ちていく。

 そしてそれと同時に黒龍の動きが止まった。


『……やった――――――』


 しかし、ベノミサスが安堵の声をあげていると、古城の方から何やら球体状の物体が飛翔してきたのが見えた。


――――――――――――――――――


 アランは飛翔する球体の上に着地する。

 透明なガラスのような材質でできている為、中が透けて見えた。

 中には、翼で自身を囲む様に丸まっているザフキエルの姿があった。


『……なんだ?』


 そうこうとしていると、球体状のナニカは黒龍の頭上で止まった。


『アランッ!!!』

『お、こっちは決着ついたのか』


 動きが止まっている黒龍と、ベノミサスの姿を確認し状況を把握する。


『うん。でも……お母さんはもう――――――』

『――――――えぇ、もう死んでいますよ』


『『ッ!!!』』


 アランは足元の球体を見る。

 すると、強い光の衝撃波が発生し人型形態へと戻っていたベノミサスと上に乗っていたアランは吹き飛ばされる。

 荒れ狂う砂埃の中、天まで上る一筋の青紫色の光の柱が見えた。

 

『――――――【天輪開放】』』


 砂埃が晴れるとそこにはザフキエルの姿があった。

 しかし先ほどまでの姿とは少し様子が異なっており、頭上に青紫色の輪を浮かべ、その背後には複数の本が浮遊していた。

 本の表紙には何やら文字が刻まれているが読むことが出来ない。

 そして、白く綺麗なローブは白地を基調とした制服のような物へと変化し、正装と呼ぶに相応しい装いとなっていた。


『……今から本気出すってやつか?』


 ザフキエルは無表情のまま静かに答えた。


『――――――貴方の存在を試しましょう』


 背後に浮かぶ複数の本がパラパラと独りでにページをめくり始めた。







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