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【逸脱者】


 赤髪を靡かせながら、懐かし顔の女性が近づいてきた。


『驚きました。あの後、アランさんの事を探したのですが一向に見当たらなかったのでてっきり……』

『ハハハ、まぁ、自暴自棄になって身投げしててもおかしくないよな』


 クレアは神妙な面持ちになり、アランの目を真っ直ぐに見る。


『あの時は本当に申し訳ありませんでした。事情を知っているのにも関わらず何もできませんでした』


 頭を下げている為、表情はよく見えないが、ポロポロと大粒の涙が地面を濡らしている事に気がつく。


『クレアは悪くないだろ。もし、悪い奴がいるとすればあのクソッタレ金髪騎士と、何も出来なかった弱い俺だよ』

『い、いえ。 私が――』


 クレアが何かを言おうとしたその瞬間、女性の甲高い声が広場を突き抜ける。


『マリー! 危ない!』


 体の小さい女の子が建物の屋根に捕まっている光景が目に入った。


 クレアは即座に反応する。


『エリアルブー――』 


 クレアが魔術を発動させようとしたその瞬間。

 アランが少女の腕を掴んだ。


『ど、どうしてアランさんがあそこに?』


 先程までアランがいた場所を見る。

 そこには黒髪の幼女がポツンと立っているだけだった。


『――そうですか。この三年間、己が弱さを恥、鍛錬に身を投じていたのは貴方も一緒なんですね』

『そうじゃな。可愛くて優秀な先生がビシバシと鍛えておったおかげで滅茶苦茶強くなってるぞ』

『!!』


 急に話しかけてきた黒髪幼女にびっくりしたのか、クレアは肩をビクッと震わせる。


『あ、あなたはどちら様でしょうか?』

『ワシはアランの師匠じゃよ』




――――――


 

『ふう。いやービックリしたな。まさか再開早々、こんな場面に出くわすとは』


 アランはやれやれといった感じで二人元に戻ってきた。


『……え? 二人ともどうした?』


 困惑した表情のクレアと、それを見ながらニヤニヤしているクロエの姿がそこにはあった。


『ア、アランさん! この子供が、自分はアランさんの師匠だと発言しているのですが!』

『そうだな』

『えぇ!?』


 信じられないといった表情でこちらをみる。


『アランさーん! アランも串焼き食べる?』


 丁度いいタイミングでコレットが帰って来た。


『そういやクレア、ギルドの申請って何処ですればいい?』


 なんかめんどくさそうな流れになりそうだったので一旦、話を流すことにした。


——————-


『なるほど。ガリアに来たのは冒険者登録とギルド作成が目的でしたか』

『そそ、三人いれば作れるかなって』

『しかし、ギルドを作るのには【A級】以上のライセンスが必要になるので、まずは冒険者登録からですね』


 クレアに案内され、冒険者登録ができる建物の前まで来た。


『うわー凄い雰囲気がある建物だね!』


 気分が高揚したのか、コレットの耳がピコピコと動く。


『凄いボロボロだけど、剣と盾をモチーフにしたエンブレムか。趣味がいいな』

『ええ。この建物は二千年前の神話の時代からあるらしいですからね』

『マジかよ』

『魔王ディアボロスの襲撃で多くの建物が壊滅したなか、この建物だけが生き残っていたそうです。その縁にあやかり、ここを冒険者の始まりの場所にしたそうです』


 俺はスッとクロエの方を見る。

 クロエはバツが悪そうに明後日の方角を見た。


『アランさん、ほら行きましょう』

『おっと、そうだな』


 クレアの手に引かれるように建物の中に入る。

 

 一見、ただの役所場のような内装だが

 受け付けの横には大きな掲示板があり、色々なクエスト用紙が貼られていた。


【E級】ポイズンスネークの討伐

【D級】ウェアウルフの討伐

【A級】スフィア・スノウの捕獲

【S級】グラウンドタートルの撃退


『へー、【S級】相当のクエストって普通に張られてるんだな』

『えぇ。ここはガリア最大の役所ですので他大陸の実力者が結構来るんですよ』


 軽く周りを見渡しながら、受付嬢の前まで来る。


『あらクレア! こんな所でどうしたの?』


 受付にいた金髪の女性は、クレアを見るや否や嬉しそうに声をかける。


『久しぶりルーナ。ちょっと友人とそこで会ってね。どうやら冒険者登録をしたいらしいから、ここに連れて来たってわけ』

『どうもクレアさんとは個人的に仲良くさせて頂いているアランと申します』


 俺はスッと手を出しルーナ嬢と握手をする。


『ちょ、ちょっとアランさん!』

『あらあらあら、クレアあんた、なんだかんだやる事やってたんじゃない!』

『違います! 三年ぶりに合った友人です!』

『そんな……あんなに激しい夜を共にした仲なのに……』


 あの日の夜はマジで大変だったよな(笑)


 クレアはプルプルと震える手をゆっくりと剣に伸ばした。

 

『ぶっ殺しますよ』

『すみませんでした』


 俺は光にも劣らない速度で土下座した。


――――――


『おっけ、冒険者登録はアラン君と、 それと、あっちのクエストボード前の机でご飯を食べてるお二人さんでいいのかしら? ってか片方子供じゃない』

『子供の様に見えるけど俺よりも年上だから問題ない』

『うっそ……失礼な事を言ってごめんなさいね。人によって色々事情があるものよね』


 流石はガリア一の役場を任されるだけはあるな、適応能力が非常に高い。


『それで? どのランクの冒険者から始めますか?』

『じゃ【S級】で』


 暫しの沈黙が流れる。


『ははは……面白いジョークね』

『ハハハ、ジョークの一つも言ってないのに笑えるんだな。その辺の石ころでも笑いがとれそうだ』


 ルーナ嬢はクレアの顔を見る。


『えぇ。頭がおかしい人とかではなく、彼は本気よ』


 ルーナ嬢は、はぁーと大きなため息をつく。


『いいアラン君? 初の冒険者登録で【S級】を獲得したのは歴代でもたった一人だけ。ガリアが誇る【聖装】の【逸脱者】シャーナ・ハイド・アルバレス様だけなのよ?』

『俺は田舎出身だから知らないよ。誰だよそのシャーク・ネイド・アバレルって』


 ルーナ嬢は机をバンッと音が出るくらいに強く手で叩く。


『あなた【逸脱者】を知らないの?』

『階級は知ってるけど、誰が【逸脱者】かまでは知らん』

『イイ? まず【逸脱者】ってのはね――』




 『魔術』とは、この世界にある数多く存在する魔力法則を細分化し、固定的な技術として再現する方法の事を言う。

 そして、その細分化された魔術を極めた先に【魔法】というものが存在し、その領域に達した者を【逸脱者】と定義する。


 現在ガリアが把握している【逸脱者】は計五名。


北の大陸「アイスヘイル」に在籍している【氷結】の逸脱者『フィーヤ・ヘイル』


東の大陸「東皇国」に在籍している【紫電】の逸脱者 『(とどろき)雷華(らいか)』 


西の大陸「フェアリーガーデン」に在籍している【森羅】の逸脱者『アイリス・エーデル・コード・フィ・アール・セン・バッハ・デール・フォルト』


南の大陸「ロックハザード」に在籍している【爆炎】の逸脱者『エリス・ウォーカー』



『――そして! 我らが中央大陸「ガリア帝国」に在籍している【聖装】の逸脱者「シャーナ・ハイド・アルバレス」様です!』


 ルーナは自信満々に人差し指を俺へと向ける。


『……え、女しか【逸脱者】になれないかんじ?』


 名前だけで性別を判断するのは失礼かもしれないが、一応確認しておこう。


『とりあえずは今現在、存在が確認できている【逸脱者】は全員女性です。もしかしたら把握が漏れている男性の【逸脱者】が居るかもしれないので女性しかなれないとは断言出来ませんね。それに、計五名では情報が少なすぎて統計学的な傾向分析が出来ませんしね』

『そっか……まぁ、いいや』


 なんにせよ俺の目的は変わらない。

 【逸脱者】だか【魔法】だか知らねーけど。それ”すら”も超えた唯一の存在【世界最強】になって、今度こそ大切な人達を護ってみせる。


 その為には――


『で、【S級】になるには何をすればいい?』

『人の話聞いてました!?』

『で、【S級】になるには何をすればいい?』

『いやいやいや、せめて【B級】から始めましょうよ』

『で、【S級】になるには何をすればいい?』

『本当に死にますよ!?』

『で、【S級】になるには何をすればいい?』

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 ルーナ嬢は頭を掻きむしりながらクエストボードを指差す


『【S級】グラウンドタートルをぶっ殺してこい!!!!!』

『……いや「撃退」って書いてあるんだけど』

『うるさい! クソでかい亀一匹ぶっ殺せなくて【S級】に成れるか!』

『えぇ……。』



 こうして【S級】クエスト『クソデカい亀の討伐』が決定した。

 あとクレアはしれっとコレット達と一緒にご飯を食べていた。

 

 


 






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