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帝都ガリア


『お父さん行ってきます』

『あ、うぅ、行ってこい』


 涙と鼻水で顔面がグチャグチャになった汚いガチムチケモ耳おじさんがそこにいた。


『もう! お父さんが言い出したことじゃん!』

『で、でもぉ。いざ娘が行っちゃうってなったら急に、』


 コレットは自身の倍近くあるガレットの頭を優しく撫でる。


『大丈夫だよ。絶対に帰ってくるから』

『うぅ、分かった』


 ガレットは最後にコレットを力強く抱きしめた。



—————


『良い父親だったな』


 ガリアに向かう道中を二人並んで歩く。

 クロエはアランに肩車をするように座っている。


『はい! 自慢の父です。ところで——』


 コレットはクロエの方を向く。


『私ずっと気になっていたんですけど、クロエちゃんってアランさんの妹さんですか?』

『まぁ、確かに髪の色は一緒だけど違うぞ』


『クロエ、コレットになら話してもいいか?』

『そうじゃな。美味い飯も食わせてもらったし問題なかろう』


 カクカクしかじか


『えぇ!? 魔王って「全てを破壊し新時代を作った」って言われているあの【魔王】ですか!?』


 クロエは両腕を組み誇らしげにフフンと鼻を鳴らす。


『そうじゃ。いつまでも戦争をやめない、はた迷惑な旧支配者共を皆殺しにし、真なる平和を実現した最強にして最強の魔王、それがこのワシなのじゃ!』

『で、でも……その後、世界に圧政を敷いて勇者アレクに討たれたって本にあったんですけど』

『ふ、ふむ。概ねは合っているのう。じゃがなぁ――』


 クロエは自身の顎に手を当て、やや不満げな様子を浮かべる。


『その方が効率が良いと思ったんじゃよ。旧支配者が消えてもまた新しい支配者が出てくるじゃろ? そして、またそやつらが権力闘争とかで戦争を始めてしまう。ワシという絶対強者が居れば仲良くすると思ったんじゃよ』


 まぁ、理屈は理解出来るな。

 魔王が圧政を敷いてる状況で身内同士で戦争なんてしてる余裕はないだろうし。

 何より、”この”魔王に目を付けられるのは避けたいよな。


『なるほど……そうゆうことだったんですね。てっきり血も涙もない方だと思ってました』

『まぁ、ムカつくやつは片っ端から始末しとったから、それもあながち間違いではないがのう』

『ひぇぇ……』


 コレットはケモ耳を伏せながら怯えた表情を見せた。


『ところでアランよ。ガリアまでは一週間はかかるんじゃったか?』

『走って行けばそのくらいだけど、歩いて行くってなると三週間から一か月はかかるかも』

『であれば空間転移で跳ぶか』

『……は?』


 三人の足元に見たこともない幾何学模様が浮かび上がる。


『クロエさん! なんすかこのヤバそうな魔術は!? 俺こんなんあるって聞いてないけど!?』

『まぁ、ワシしか使えない固有魔術じゃからな。教えても時間の無駄じゃろ?』


 コレットが俺の足にしがみ付く。


『わわわ、なんか怖いです! アランさん! 助けてください!』


 クロエは声高らかに魔術を唱える。


『よし! 1000㎞先の上空に、いざゆかん! 【空越天移(くうえつてんい)】』


 まばゆい光が三人を包み込む。



――――――


『えっ――こちらアラン。上空5000㎞から落下中どうぞ』

『こちらクロエ、お前さんの背中に座ってるどうぞ』

『アババババババババッ―――し゛ぬ゛うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!』


 ガリア帝国の遥か上空5000㎞にて三人は仲良く自由落下をしていた。


『とりあえず俺とクロエは何とかなるけど、コレットはどうすっか?』

『私まだ死にたくないですうぅぅぅぅぅぅぅ! 体はかなり頑丈ですけどこの高さは普通に死にますアアアアア!!! もう建物が見えてきましたァ!!!』

『やれやれ仕方ないのう』


 クロエはガリア帝国の入り口付近を指差す。


『アラン、あの辺に影を打つのじゃ』

『……あーなるほどね。コレット俺の腕にしがみ付いてくれ』


 コレットは涙を流しながら無我夢中で俺の腕にしがみ付く。


『じゃ行くぞ。【楔影】』


 アランの手から黒く細長い糸の様な物が指定された位置に飛んで行った。

 そして、その数秒後


『おっけ、地面に設置完了。コレット絶対に離すなよ』

『……へ?』


 アランが拳を握ったその瞬間、物凄い勢いで黒い糸の様な物に引っ張られる。


『アババババババ速すぎますぅ! って地面が! もうそこに!』

『【血影】』


 アランがそう唱えると、黒い糸が途端に赤く染まり、落下地点に赤い風船の様な物が出現した。

 そして、”ぼよぉーん”という音を立て、三人を受け止めた。


『ふぅ。ぶっつけ本番だったけど上手くいったな』

『まぁ、血の形状操作は飽きる程やったからのう、これくらいは出来て当然じゃ』

『そこは普通に褒めてくれよ……ってかコレット大丈――コレットさん!?』


 コレットは白目を剝きながら気絶していた。


『……クロエさん。これどうする? 絶対飯抜きになるやつじゃん』

『……記憶消すか?』



――――――


『へー、ガリアには初めて来たけど凄い賑わってんな』


 石とレンガをベースとした家々が立ち並び、その周辺には屋台ズラッと設営されていた。

 町を行きかう者達は多種多様で、街全体に活気が満ち溢れていた。


『人に獣人、エルフ、ドワーフ、それにあれは魔人か? ワシの居た時代じゃ絶対に見れない景色じゃなぁ』

『まぁ、今は種族間戦争はだいぶ落ち着いて、対話の時代に入ってるからな。奪うよりも交易する方が有益だって二千年経って気が付いたんだろうよ』

『この景色が、かつて勇者が信じ叶えたかった未来という事かのう』


 クロエは少し寂しそうな眼をしていた。


『勇者アレクと一緒に見たかったか?』

『……そうじゃのう。まぁ、あの男が「必ず迎えに行く」と言ったのじゃからそのうち会えるじゃろ』

『乙女かよ』

『いいじゃろ別に!』


 そうこうしていると、背中で眠っていたコレットが眼を覚ました。


『……あれ? ここは?』

『おはようコレット。ここはガリアの中だぞ』

『……アランさん。何か言い訳はありますか?』

『屋台で好きなの買っていいぞ』

『許します』


 コレットは満面の笑みで串肉の屋台に走って行った。


『ハウスガーデンでいくらか報酬を貰っておいて良かったのう』

 

 屋台の前で、コレットは十本程の串肉を美味しそうに食べ始めた。


『……クロエ今金持ってたりする?』

『二千年前の貨幣なら持ってるぞ』


『あれ!? 貴方はアランさん!?』


 俺は声のした方向を見る。

 腰まで伸びた赤髪を紐で結び、銀色の鎧を身に纏うその女性は少し驚いた表情を浮かべながらこちらに歩み寄って来た。


『クレア!? 久しぶりじゃん』


 三年前に出会った赤髪女騎士のクレア・スカーレットが現れた。


 





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