運命のカード
クレアはヨレヨレの足で廊下を走る。
すると、通路の先にアラン達の姿が見えた。
『お疲れさん!良い騙し討ちだったぞ!』
『あ、ありがとうございます!……あ、それよりも!私の剣に細工をした赤髪の青年が居ました!』
『マジ!?』
『はい!観客先の北側最上段の席に座ってました!』
『おけ、ちょっと行ってくるわ!』
アランは観客席に繋がる通路に向かって駆け出した。
『それにしても、当初の予定では棄権する事になってましたが、何かありましたか?』
少し心配そうな表情でイザベラは問いかける。
『えぇ、アランさんの事を馬鹿にされてしまって、それでついカッとなっちゃいました』
『なるほど――――――後で暗殺しときます?』
『いやいや駄目です!相手の目的は、私の力を確認する事だったみたいなのでまぁ……』
『分かりやすい挑発だったと言う事ですわね』
『そうですね……』
クレアは少し恥ずかしそうにしながら、近づいて来たコレットの肩を借りる。
『――――――クレアって結構子供っぽい所あるんだね!!!』
『うわああああああああああ――――――ッ!!!いい歳してすみませええええええええええええええんッ!!!』
悲鳴にも似た絶叫が廊下に響き渡る。
――――――――――――
観客席北側の最上段。
一時休憩時間の為か、席を立ち移動する人々がチラホラと見えた。
行き交う人々を器用に避けながら、アランは目的の場所へとたどり着いた。
キョロキョロと辺りを見回す。
すると、長い髪の赤髪の青年が視界に入った。
青年は脚を組みながら、満足げな表情でフィールドを見下ろしていた。
『――へい、そこの赤髪のイケメン兄さん、ちょっといいか?』
アランはポンっと赤髪の青年の肩に手を乗せる。
すると、青年はビクッと体を震わせたかと思うと、恐る恐るこちらを向いた。
『……なんだ、フレイヤ姉さんじゃないのか』
『驚かせちまって悪いな』
『なに、構わないよ。ところで――――――君はどうしてボクの姿を認識できているのかな?』
『……?』
素っ頓狂な顔をしたアランとは対照的に、青年は刃物の様に鋭い眼光でアランを見る。
『……うん。まぁ、いいや。見える人間、見えてしまう人間がいても不思議ではないか』
『とりあえずは質問しても良いか?あまり時間は取らせないからよ』
『いいよ。これも何かの縁だし聞いてあげるよ』
『クレアの剣に何かしたらしいけど、アレって何したんだ?』
赤髪の青年はニヤリと笑う。
その笑みは明らかにこちらを挑発する目的があるのだろうと察せられるほどに陰湿であった。
『さぁ、何をしたんだろうね?』
『おい。質問に質問で答えるなよ』
『聞くとは言ったけど、答えてあげるとは言っていないからね』
『お前友達居ないだろ?』
『普通に居るけどね』
『そんな事やってたら、いつかそのお友達にも嫌われるぞ』
アランの発言が不快だったのか、赤髪の青年は露骨に不機嫌な顔になった。
『ボクの友神を知りもしない癖に随分な言いようじゃないか』
『お前みたいな気持ち悪い奴を友達にしちまうセンスのない奴って事は知ってるけどな』
一瞬、静電気のようなものが赤髪の青年の体から発生した。
『……それ以上言ったら――――――殺すよ?』
『やってみろよクソナード。最初に俺の仲間に手を出したのはおめーだろうが』
アランは自らの影に手を入れ、赤髪の青年は自身の腕の袖からトランプのカードを取り出したその瞬間、ぬるっとアランの影から何者かの腕が現れた。
『なんじゃ、貴様だったのか――――――ロキ』
『……えっ!?……嘘でしょ――――――君、生きてたの!?』
先ほどまでの殺気に満ちた表情は一瞬にして、驚愕へと塗り替えられた。
『……なに、クロエの知り合い?』
『そうじゃな。あえて言うのであれば【共犯者】と言うべき間柄じゃな』
ロキは咄嗟に、キョロキョロと辺りを見回す。
『安心せい。ここでのやり取りは誰にも認識できないようにしておいたのじゃ』
『……なら良いんだけどさ。それよりもさ、君なんで生きてんの?』
『まぁ、色々あったのじゃ。色々とな』
『ならサッサと出てきて助けてよ!あの後、姉さんに滅茶苦茶疑われて大変だったんだからさ!』
『ちゃんと裏切っておったのじゃから、大人しく引導を渡されておくべぎじゃったな』
『ひどいなぁ〜』
ポケットから取り出したトランプを片手に持ち、もう片方の手にパラパラと空中を経由して移動させ始めた。
『昔話はこれくらいでいいじゃろう』
『そうだね』
『それで?――――――貴様の目的は何じゃ?』
『……』
少し何かを考える素振りを見せた後、諦めたかのような表情で一枚のカードを手に持ちこちらに見せてきた。
カードを見ると、そこにはピエロの格好をした奇妙な男の姿が描かれていた。
『ジョーカー。ことゲームにおいて常々ゲームチェンジャーになる特異な存在だ。ボクはさ、その役割を彼女に担って欲しいと思ってさ』
『なるほど。じゃがそれは――――――一番貴様がやりたい事じゃろう?』
『そうだね。でもさ、それだと結末が見え過ぎちゃうんだ。ボクはさ、人生なんて自分が楽しければそれでいいじゃん?って思っててさ、今は“誰かが書いた、結末が分からない物語”を読みたい気分なんだよ』
『傍観者に徹したい、と?』
『そそ』
アランは一歩前に出る。
『俺の仲間を面倒ごとに巻き込むんじゃねーよ』
『それは無理だよ。そもそも、力を望んだのは彼女自身であり、それに何より――――――君の近くに居続ける限り、どちらにせよ面倒ごとに巻き込まれ続ける事になるだろうからね』
『…………』
『であるのであれば、力はある事に越したことはないだろう?』
『……俺のせいでまた――――――』
ロキはアランの肩に手置き、顔を近づける。
その瞳には、狂気を煮詰めたかのようにグルグルと闇が渦巻いており、顔全体に愉悦が張り付いていた。
『クロエの後を継いじゃうような愚者に――――――まともな人生なんて訪れる訳ないじゃん?』
『……』
刹那、ロキの足に強烈な痛みが走る。
『ちょッ!!!痛いよ!!!』
視線を下げると、強烈な蹴りを繰り出してるクロエの姿があった。
ガシッ!ガシッ!と、ちゃんと威力のある容赦のない蹴りにロキは思わずたじろいてしまう。
『コラッ!ワシの弟子に何を言っておるんじゃ!!!』
『待って!!!普通に痛いから!!!折れちゃうから!!!』
アランは無言でしゃがむ。
そして、クロエと一緒にロキの足を蹴り始めた。
『調子に乗るなよこのペテン師が!!!』
『そうじゃそうじゃ!!!』
『君たち頭おかしいよ!!!』
クソ雑魚ペテン師は咄嗟に一枚のカードを取り出す。
表面にはスペードの8が描かれていた。
『……おっと、少しは落ち着くのじゃ』
『そうだよロキ。少しは落ち着いてくれ』
二人は蹴るのを止め、やれやれといった表情でロキの事を見る。
『君たち自由すぎるでしょ』
『この世で最も自由なのが【魔王】じゃからな』
『そうだそうだ!!!』
『もうボクは疲れたよ……』
ロキは手に持っていたカードをポケットへとしまった。
その表情には疲労の色が見え隠れしていた。
『じゃあボクはもう行くよ。君たちと一緒に居ると疲れるからね』
『その前にクレアさんの剣に施した能力を教えてくれ』
『あーそう言えばそうだったね』
ロキは一枚のカードを取り出した。
先ほどまでのトランプと違い、イラストが描かれたものだ。
時計のような物が中央に大きく配置されており、上の方には白い羽を生やした者たちが居た。
『え、何か意味があるカードなんか?』
『……【運命】の正位置じゃな』
『そうだね』
持っていたカードを空中へと投げる。
最高点へと到達すると、クルクルと時計回りに回転しながら落下していく。
ロキはそれを落下しきる前に手で隠すように掴む。
『ボクが彼女に与えたのは【終焉】と【勝利】をもたらす力だ』
『……【終焉】と【勝利】』
『そうだね。ただ、ボクが与えてなくても、彼女はいずれその道に進んでいたと思うよ。ちょっとだけその運命が加速しただけ』
『ロキ、貴様はあの娘をどうするつもりなのじゃ?』
『何もしないよ。さっきも言ったけど、今回のボクはただの傍観者だからね。全てを終わらせる【終焉者】となるのか。それとも、何かの誰かの為の【勝利者】となるのか――――――』
とても楽しそうに、それでいて不気味に笑うペテン師は、手をゆっくりと開く。
手には何もなく、カードはどこにも見当たらなかった。
『――――――“誰にも分からない”。選択するのは彼女自身さ』
ロキはパチリと指を鳴らした。
その瞬間、蜃気楼のように体がユラユラと揺らめき始めた。
『……あぁ、そうだ。【鍵】を求めて色々な勢力が動き始めているみたいだから気を付けた方がいいよ。かくいうボク達の“王”も、奪われた西大陸を取り戻すべく【鍵】を求めているみただからさ』
『……そうか』
『って事で、じゃーね』
そう言うと、ロキの体は完全に消失した。
『……クロエ?』
『あぁ、すまぬ。と、とりあえずはあれじゃ、一旦戻るのじゃ』
アランはクロエの腕を掴む。
『別に心配しなくてもいいよ。――――――誰が来ても全員俺がブチのめすから』
その瞳には【覚悟】があった。
“恐怖”も“迷い”も“後悔”もなく、ただただ強く純粋な【力】が燃えている。
『……そうじゃな。杞憂じゃったわ』
『ってかさ、さっきのロキってやつは誰?元カレ?』
『あんな気持ち悪やつと男女の関係なんぞ築きとうないわ』
『おいおい、それはあまりに酷いじゃないか!!!』
消失したはずのロキが再び現れた。
『『消えろ!!!』』
『――――――グハッ!!!』
二人の渾身のラリアットに挟まれ、ロキの体は跡形もなく消えた。
――――――――――――
フィールドの中央にて、黒の日傘をさしたイザベラと、逆立った燃え盛るような赤髪の青年が対峙する。
『さぁ!!!熱い勝負をしようじゃないか!!!』
『降参しま――――――』
瞬間、大剣を背負った赤髪の青年はイザベラの口を手でふさぐ。
『待って!!!やめようよ!!!それは駄目だよ!!!』
『――んッ!!! ん―――ん―ッ!!!!』
イザベラの渾身の蹴りが赤髪の青年の腹部に突き刺さる。
『グハッ――――――!!!いや、まだだ!!!』
『ちょっと!!!』
吹き飛ばされながらも、イザベラの足を掴む。
『頼む!!!戦おうよ!!!俺は戦いたい!!!君と魂と魂のぶつかり合いがしたい!!!魂の合体がしたい!!!』
『死ね』
足を掴む青年の頭を踏み付け、ぐりぐりと靴の裏をこすりつける。
『嫌だああああああああああああああああああああ!!!』
赤髪青年の絶叫も虚しく、無情にも次鋒戦は終了した。
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