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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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老兵


 背中に付いた羽をバサリと羽ばたかせながら宙に浮く。

 そして、ゆっくりと右腕を挙げ前方へと伸ばす。

 すると、ウェインの前方に複数の光の槍が出現した。

 グルグルと螺旋状に回転する光の槍は、射出命令が出るのを待っているかのようにその場で浮遊していた。


『【千光雨(サウザンド・スピア)】』


 ウェインの号令と同時に光の槍がガラルドへと降り注がれた。


『面白い!撃ち合いといこうか!』


 ガラルドは円盾を取り出して自身の前へと持ってくる。


『【鋼鉄亀(タートル・ウォール)】』


 更に、腹部のホルダーに戻ってきていた【猟短犬(ステラ・ハウンド)】と【避役短剣(インビジブル・ナイフ)】を起動させる。

 衝突と爆散。

 【猟短犬(ステラ・ハウンド)】は隊列を組みながら飛翔し、宙を流星の如き速さで移動しながら次々と【千光雨(サウザンド・スピア)】を破壊していく。

 しかし、攻撃を逃れた幾つかの【千光雨(サウザンド・スピア)】はガラルド目掛けて落下していき【鋼鉄亀(タートル・ウォール)】に突き刺さる。

 突き刺さった【千光雨(サウザンド・スピア)】は役目を終えたかの様に光の粒子となり消えた。


 ウェインは背後から奇襲を仕掛けてくる【避役短剣(インビジブル・ナイフ)】を前後左右に揺れ動きながら華麗に躱す。

 まるで、空中を舞う葉っぱを手で掴もうとしているかのように、当たらない。


 実況/解決席に座る兎獣人のラーニャは感嘆の声をあげた。


『す、凄い撃ち合いですね』

『光の魔力で武器を生成する【光源武器】魔術を得意とするウェイン・アーデンハルトに対し、自身の魔術は一切使わずに【変形魔道具】で戦うガラルド・ストーン。対照的な二人なだけあって少し不思議な気分になりますね』


 暫くすると空中に浮いていた【千光雨(サウザンド・スピア)】は全て射出され尽くし、次第に辺りを覆っていた砂埃は晴れていった。

 キラキラと光る光の粒子が地上を漂っているのが見えた。

 しかし、どこか幻想的に見えるそれは、次の瞬間――――――脅威へと姿を変えた。


『【千光雨(サウザンド・スピア)】』


 ウェインが【千光雨(サウザンド・スピア)】を再発動させると、地上を漂っていた光の粒子は一つ、また一つと形を取り戻し始め、再び動き始めた。

 そして、今度は横薙ぎの左右前後全てからの攻撃がガラルドへと浴びせかけられた。

 

『……なるほど、これでは埒が明かないな』


 全ての方位からくる飽和攻撃を【鉄鋼亀(タートル・ウォール)】一つで防ぎ切るのは難しい。

 そう判断したガラルドは腰につけていたL字型の魔道具を手に取った。

 そして、大きく息を吸いながらそれを自身の口元まで持っていき、力強く吹いた。

 その瞬間、ガラルドを中心に凄まじいほどの爆音と衝撃波が発生し、円を描く様に広がっていった。

 

『【白鯨歌(ホワイト・ウェイルズ)】』


 一瞬にして爆音が観客席まで到達し、後を追うように衝撃波が【千光雨(サウザンド・スピア)】を呑み込んだ。


『……ぐっ』


 空中を飛んでいたウェインは態勢を大きく崩し、地上へと落下した。

 着地と同時に顔を上にあげ辺りを見回す。

 

『……あれだけの量の【千光雨(サウザンド・スピア)】を一瞬で破壊するとはな』

『昔、S級難度のクエストで無数の蝙蝠と戦う事があってなぁ、その時の経験からコイツを作ったんだ』

『……遠距離魔術は魔力の無駄ということか』

『漢たるもの肉弾戦こそ至高よなァ!!!』

 

 ガラルドは飛翔する【猟短犬(ステラ・ハウンド)】を足元に集め、豪快に飛び乗る。

 そして、氷の上を滑るかのように、一気に距離を詰めてきた。

 手には大斧形態へと変化した得物が握られていた。


『【大熊爪牙(ベアーズ・ロック)】――――――ッ!!!』


 両手でガッチリと掴みながら大斧形態【大熊爪牙(ベアーズ・ロック)】を大き振り上げる。


(縦長斧形態の【象破斧エレファント・アックス】とは違う最初に持っていた大斧の形態。サイズが大きく振りが遅い分、攻撃力が高く、前面の刃による斬と、背面の黒鉱石による打の使い分けができ盾にも対応可能と……騎士の盾(ナイト・シールド)は間違いなく割られるな)

 

 ウェインは一度距離を取るべく低空飛行で飛翔する。

 

『ガハハハッ!!! その高さなら確かに【白鯨歌(ホワイト・ウェイルズ)】の衝撃は最小限にできそうだな!!!だが、高度が無い分逃げ道が限定されておるなァ!!!』


 ガラルドはウェインの上を取るように飛翔し、上部への回避ルートを徹底的に潰す。

 そして、あっという間に壁際まで追い詰める。


『もう逃げ道はないがどうする!!!』

『……これでいい』


 地面へと着地したウェインは向きを反転させ、両手を前に出しガラルドを迎え撃つ態勢をとる。

 

(ほう、何か策があるようだな。……面白い、真っ向から受けてたとうかァ!!!)


 【大熊爪牙(ベアーズ・ロック)】の向きを反転させ、黒鉱石の面を前にするように持ち替える。

 ウェインは白銀の槍(アストロメイア)を両手で持ち、大きく掲げる。

 キラキラと光る光の粒子が白銀の槍(アストロメイア)を包み込む。

 

『見せてみろウェイン・アーデンハルト!!!』

『光装剣――――――【黄金の剣(アストロナイツ)】!!!』

 

 光の粒子が白銀の槍(アストロメイア)を基軸にしながら、一つの大きな剣を形作る。

 ウェインは黄金に輝く巨大剣を、迫りくるガラルドに向かって勢いよく振り下ろした。

 【大熊爪牙(ベアーズ・ロック)】と【黄金の剣(アストロナイツ)】が衝突する。

 

『――――――クッ!!!【黄金の剣(アストロナイツ)】でも駄目なのかッ!!!』

『ガハハハッ!!! 』


 パキパキと音を立てて【黄金の剣(アストロナイツ)】の黄金が崩れ落ちていく。

 

『……俺は、俺は――――――まだだ!!!』

『――――――ッ!!!』


 ウェインは【黄金の剣(アストロナイツ)】を手放し、逆にガラルドとの距離を詰めるべく飛翔した。

 そして、一呼吸もしない内にガラルドの間合いへと入り込むと、相手の腹部目掛けて右拳を振り上げ、そのまま振り抜いた。

 ガラルドは一瞬、背中にしまっている【鋼鉄亀(タートル・ウォール)】に手を伸ばそうとしたが、何故かその動きを止めた。

 振り抜かれた右拳は黄金の軌跡を描きながら、ガラルドの腹部を捉えた。

 殴られたガラルドは壁際から一気にフィールドの中央へと戻された。


『……はぁ、はぁ』


 肩で呼吸をしながらウェインはフィールドの中央へと視線を移す。


『……完全に捉えたと思ったんだがな』


 そこには――――――倒れる事もなく、不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちしている【戦士】の姿があった。


『……あまりにも良いボディーブローだったもんで――――――防ぐ気にならんかったわ』

『この化け物ドワーフが』

『なに、ここまで好戦してくれたのだからこちらも御礼をせねば不作法とゆうものか』


 ガラルドは【大熊爪牙(ベアーズ・ロック)】【猟短犬(ステラ・ハウンド)】【避役短剣(インビジブル・ナイフ)】【鋼鉄亀(タートル・ウォール)】【白鯨歌(ホワイト・ウェイルズ)】と全ての魔道具を空中へと手放した。

 すると、それらの魔道具はクルクルとガラルドの周りを回り始めた。


『【完全武装フルアーマー】』


 ガラルドがそう唱えると、周囲を回っていた魔道具達が一斉にバラバラに分解された。

 そして、カチリカチリと音を立てながらガラルドの体に取り付いていき、次の瞬間には一つの全身鎧と成った。


『さぁて、では――――――行くぞ!!!』


 ガラルドは地面を滑る様に移動する。

 足元に装着された【猟短犬(ステラ・ハウンド)】の一部からは、緑色の風が噴出していた。

 ウェインは震える手で【騎士の盾(ナイト・シールド)】を複数枚作成し、それをガラルドへと投擲した。

 しかし、ガラルドは全ての盾を拳で粉砕しながら、豪快な笑い声を上げながら爆走する。


『ガハハハ!!! 今はワシ自身が鈍器みたいなもんだぞ!!!』

『クッ、ふざけた技術だ』


 ウェインは再び距離を取ろうと試みるが、先ほどとは比べ物にならないほどに、柔軟かつ高速で近づくガラルドに一瞬で追いつかれてしまった。


『速いッ!!!』

『終いといこうか!!!』


 ガラルドは一息にウェインを抜き去ると、即座に反転し腕を横に伸ばしながらウェインへと突撃した。


『【篦鹿角(エルク・ホーン)】――――――ッ!!!』


 ガチリと音を立てながらガラルドの腕とウェインの鎧が交錯する。

 そして、その衝撃によりウェインは地面へと吹き飛ばされた。

 

『…………』


 地面の上に寝かされたウェインは何とか立ちあがろうとする。

 しかし、片膝を立て足に力を入れたところで――――――これ以上は無理であると悟る。


『……俺のま――――――』

『ワシは棄権する』

『ッ!?』


 目をぐわっと大きく開き、目の前に歩み来るガラルドを見る。

 

『……何の真似だ?』

『ワシらの目的は魔道具の性能を他大陸の人間に披露する事にある。これ以上見せられるものが無くなった今、準決勝へと行く意味は無い』

『ふざけるな!これ以上の辱めは――――――』

『更に先へと進め、若人よ。いずれワシらの前を歩く事になるお主らの背中を押すのは、朽ちてゆく老兵の仕事だ』

『……しかし』

『甘えるなよウェイン・アーデンハルト。貴様にはまだやるべき事があるのだろう?』

『ぐっ……』


 ウェインは震える手で地面を殴る。

 何度も何度も。

 血が出るほどに。

 それは、誇りが傷つけられたからなのか、負けた悔しさからなのか、はたまた別の理由から来るものなのか、その答えは誰にも分からなかった。

 

『――――――ご厚情……痛み入る【戦士】ガラルド』

『構わんさ。――――――ではな』


 ガハハハと豪快に笑いながら、ガラルドはフィールドを後にした。

 ウェインはただ頭を下げ見送ることしか出来なかった。


――――――――――――


『……なるほど。なんやかんやあったけど、準決勝はアイツらとの試合って事ね』


 アランはスクワットをしながら、イザベラの話を聞き頷く。


『えぇ。それで?作戦の程は考えていますの?』

『うーん、とりあえずは大将戦まで回してくれればいいって感じかな。俺としてもさ――――――()()()()()()()()()()からさ』


 ニッコリとした笑顔を浮かべながら、今度は逆立ちで腕立て伏せを始めた。


『……ねぇアラン。エマって子はさ、副将で出るらしいけど私どうしたらいいかな?』

『……まぁ、わかんね』

『わかんないって何!!!』

『いやさ、俺の中のエマには戦闘能力なんてものは無かったからさ』

『今の所、エマさんは一度も戦っていないみたいでしたわね』


 コレットとアランはイザベラの話を聞き、困惑する。


『あぁ、なんか考えれば考える程お腹痛くなってきたかも』

『結局引きずってんじゃん!』

『引きずってないわ!心配になってるだけだから!HEY。YO!ナンテコッタ!』

『えぇ……。』


 いつもと様子の違うアランに別の意味で引きつつも、無言で椅子に座り話を聞いているクレアの方を見る。


『クレアさん。エマって子は強いの?』

『……』


 クレアはそっとアランの顔を見る。

 

『俺に気を使わなくてもいいYO!言っちゃいなYO!』

『そ、そうですね。エマさんは騎士団に見習いとして参加して直ぐに【光の魔術】の才に目覚めていました。……ただ、戦闘能力に関しては正直私にも分かりません。私も直ぐに騎士団をクビになっていたので』

『グハッ……』

『アランさん!?』


 アランは血を吐きながら倒れる。


『……闇属性の俺とは相性が……グハッ!!!』

『ちょ、汚いですわね。クロエ様が食事をしている前ですわよ!なんて愚かな――――――クロエ様ッ!?』

 

 淡々とステーキをモグモグと食べていたクロエだが、イザベラが視線を向けるとそこには――――――口から血を吐きながら、ピクピクと痙攣してるクロエの姿があった。


『……わ、わしのトラウマも蘇ってきたわい』

『……グフッ。クロエ、お前もなのか』

『そうじゃ……もしかしたら、闇属性持ちの(さが)ってやつなのかもれぬな』


 2人して床に転がり周りながら、自身の影で体をぐるぐると巻き始めた。

 影のす巻き状態だ。


『……や、闇属性持ちは特性の影響で闇も深いのかもね』


 コレットは同情の眼差しを二人へと向けた。


『と、とりあえずはあれです!エマさんは【結界】魔術が得意だったと思います。護りに関する魔術を特に熱心に学んでいたようでしたので』

『……なるほど。まぁ、なんにせよだ。【大陸間ギルド対戦】に出場して来てる以上、覚悟はできているだろうから。手加減無しでいいと思うぞコレット』

『……分かった。ちゃんと戦って、ちゃんと……勝つYO!!!』

『――――――ふざけてる?』

『……ラリアットだ――YO!!!』

『ちょ、待っ――グフッ!!!』


 す巻き状態のアランの上に、コレットの全体重を乗せたラリアットが落ちてきた。

 ついでに、笑顔のクレアとニヤニヤ顔のイザベラのラリアットも降って来た。

 クロエはす巻き状態のまま、残りのステーキを食べ始めた。

 モグモグと。


――――――――――――


 氷の装飾が施された清潔感のある一室にて、青みがかった銀髪の女フィーヤ・ヘイルはどこか楽しそうに食事をしていた。

 カチリ、カチリと皿とフォークの当たる音が聞こえてくる。


『……フィーヤ様。何か楽しい事でもあったのですか?』


 困惑した表情を浮かべた桃色髪の猫獣人の女性が問う。


『そうだねぇ〜。フフッ、ニルフィーも見たでしょ?昨日の試合』

『昨日?確か【妖精楽園】と【魔王軍】の試合がありましたね。っあ、なるほど。あの黒髪の青年の事ですか?』

『そそ!結構戦い方に余裕があったじゃん?まだ何か隠し持ってると思うんだよねぇ~。楽しみで仕方ないよ』

『ですが、明日の【帝国騎士団】との試合に負けると――――――』

『ないない、あんなカスに負けるとは思えないかな』


 陰湿で意地悪な表情を浮かべながら、皿の上のトマトにフォークを突き刺す。

 傷口からドロリとタネが流れ落ちる。


『あぁ、早く戦いたいなぁ。私が全力をぶつけても壊れない男だったのなら……フフッ』

『……全く。公共の場では程々にしておいて下さいね?』

『分かってるよ!ニルフィーは心配症だなぁ』

『誰のせいでこうなったと思っているんですか!』

『あはは、ごめんごめん』


 フィーヤはフォークに刺されているトマトをパクリと口に入れた。

 そして、ひんやりと冷たいそれを、ガリガリと咀嚼する。

 自身から漏れ出る冷気で食器が凍りつき始め、パキパキと音を立てながらヒビが入る。

 

『……もし負けたら、殺すからねアランちゃん』


 ヒビの入ったフォークと皿が粉々に崩れ落ちた。

 そして、鋭く光る眼光を乗せ、そのまま風に吹かれ何処かへと行ってしまった。

 頭を抱えるニルフィーをよそに、フィーヤ・ヘイルは不敵に笑う。


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