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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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路地裏


【妖精楽園】との戦いが終わった翌日。

 アラン一行が泊まっている宿舎にて、予期していた一報が届く。


『マジかー。まぁ、目先の戦いよりも、本国の安全の方が大事だよなぁ〜』


 不戦勝。

 【忍連合】の予選辞退により、【魔王軍】のトーナメント進出が自動的に確定した。

 よって、今日行われるはずだった試合は消滅し、束の間の休息日と成った。


『で、皆はどうするよ?』

『私は買い物にでも行こうかな。ずっと空停箱で修行してて、息抜きできる時間とかなかったし』


 コレットは身の丈の倍はあるであろうクソデカリュックを背負いながら、満面の笑みで宿舎を出ようとする。

 がしかし、クロエに尻尾をガッチリと掴まれる。


『ギャフッ!!!』

『お主は修行の続きじゃ。ギリギリ完成したとは言え、ギリギリである事に変わりはない。もっと完成度をあげるのじゃ』

『クロエちゃん!休息は必要だよ!』

『お主は昨日、戦ってないじゃろ?』

『……確かに』


 コレットはクソデカリュックごとクロエに引きづられながら宿舎を後にした。


『……コレットの分まで休もうか』

『そ、そうですね』


 同情した表情のアランとクレアは、子供たちを連れ散歩でもすることにした。

 

――――――――――――

 

 アラン、ドラコ、ベノミサス、クレアの四人は街中を散策する。

 イザベラは何やら調べたい事があるらしく別行動だ。


 冷たい息吹が頬を撫でる。

 誘われる様に辺りを見渡すと、歴史を感じさせる木製の建造物がズラリと並んでおり、氷で作られた装飾で化粧が施されていた。

 

『あれだな、この街にある氷って溶けたりしないんだな』

『聞いた話によると、永久凍土と呼ばれる場所で採れた氷らしく、“土地に根付く魔術“的なものの影響を受けていて溶けにくいらしいんですよね』

『へー、そうなんだ。ってか土地に根付くレベルの魔術ってそれもう魔法の領域じゃない?』

『まぁ、神話時代の遺物らしいのでそうかもしれませんね』


 クレアの知識を聞きながらぶらりと歩いていると、露店が道を挟むよう整列している空間が見えてきた。

 行き交う人の数が多く、体の大きい人には少し窮屈そうだ。


『アランさんッ!!!何か買って食べてもいいですかッ!!!』

『あぁ。ベノミサスと一緒に行っておいで』

『やったぁ!!! ベノミサスちゃん行こッ!!!』

『うん』


 二人は手を繋ぎながら、器用に人込みをすり抜け串肉屋の前まで行く。


『おじさん、串肉を四本くださいッ!!!』

『へいよ』


 服の上からでも分かる筋肉に、見上げる程の巨体。

 頭に婉曲した二本の角を生やした牛獣人の男は、無駄のない手捌きで串肉をタレに浸す。

 そして、流れるように火の見える網に乗せた。

 香ばしい匂いが食欲を刺激する。

 暫くすると、牛獣人の男は丁寧に肉串を掴みとり、塩をかけ始めた。

 ある程度かけ終わると、そのままドラコとベノミサスへと渡した。


『熱いから気をつけな』

『ありがとうございます!!!』

『ありがとう』


 二人はペコリとお辞儀をすると、こちらに戻って来た。


『アランさんとクレアさんもどうぞ』

『お、ありがとな』

『ありがとうございます』


 ドラコとベノミサスか食べ始めたのを確認してから、手渡された肉串にかぶりつく。

 濃厚な肉汁が口の中一杯に広がり、まろやかなタレの味と、塩のしょっぱさが後から程よいアクセントをきめてきた。


『……美味いな』

『えぇ、塩味が丁度いい塩梅で数本は余裕でいけそうですね』


 子供達の反応を見るために視線をやや下へと下げる。

 すると、口の周りをタレまみれにしながらモグモグと食べているドラコの姿が目に入った。

 

『あれだな、ドラコの方が歳上なのにベノミサスの方が食べ方がお上品なんだよな』

『えっ!? 嘘ですよね!?』


 ドラコはベノミサスの方を見る。

 ベノミサスは肉を一欠片ずつ口へと運び、丁寧に食べていた。


『常識』

『うっ……』


 圧倒的な敗北感がドラコを襲う。


『ま、まぁ。ドラコさんは山育ちですからね』

『うっ……』


 クレアの追撃がドラコを襲う。


『まぁ、ドラコは頭はいいだろうし直ぐに順応するだろ』

『アランさんッ!!!』

『言うて俺も田舎の村育ちだ――――――ッ!?』


 アランは咄嗟に振り返る。 

 刹那の殺気。

 一瞬、何者かの気配を感じた気がした。

 それは透明な煙のように、臭いはするが見えない不気味さがあった。


『……アランさん?』

『――いや、何でもない。ちょっとトイレ行ってくるわ』

『……アラン。気を付けて』

『私は二人を見ていていますので』


 不思議そうな顔をしているドラコと、こちらの意図を察しているであろうクレアとベノミサス。

 クレアは二人を連れ、見渡しのいい広場の様な場所へと移動した。


『…………』


 アランは人込みを丁寧にすり抜けながら、人気(ひとけ)のない路地裏へと入って行った。

 太陽の光が差し込まない闇の世界。

 かび臭さが鼻をつく。

 ひんやりとした道を少し歩き、おもむろに振り返る。


『よう。俺に何か用か?』


 アランの言葉に応えるかのように路地裏の入口から、顔を覆い隠すほど深くフードを被った何者かが姿を見せた。

 

 (……結構小さいな。ドラコ達よりも少し大きいくらいか? 体格から察するに……女か)


『……よく気が付きましたね。気配は完全に殺していたはずなんですが』

『次からは、自身の気配に対しての“殺気”も何とかした方がいいかもな』

『……面白い言い回しですね』


 白く小さな手をポケットから抜き出し、フードを外した。

 腰まで伸びた美しい黒髪に、濃い褐色の瞳。

 クロエに少し似た顔の華奢な少女は小さくお辞儀をする。


『後をつけるような真似をしてしまい申し訳ありません』

『別にいいよ。一緒に屋根上を走った仲だろ?そんなにかしこまらないでくれ椿』

『そう言ってもらえると助かります』

『……それで? 俺のスリーサイズでも気になった感じかな?』

『いいえ、違います』


 ハッキリとした口調で少女は否定した。


『西大陸の実力者である【精霊王】を圧倒しながら倒した無名の闇属性持ちの剣士。そんな存在が突如として現れたのですから、諜報組織に属する私としては、調べざるおえないんですよね』

『あーね。サインなら書いてもいいぞ』

『結構です』


 キッパリとした口調で少女(27歳)は否定した。

 

『どうです?せっかくの再会ですし、前回の続きでもしませんか?』

『また駆けっこでもするのか?』

『いいえ。今度はもっと楽しい事です』


 椿は両袖からそれぞれ一本ずつクナイを取り出し手に持った。

 挑発するような表情でアランのことを見る。


『……へぇ、楽しそうじゃん』

『ゲームのルールはシンプル。“相手の体を5秒以上拘束”した方の勝ち。そして、負けた方は―――勝った方の質問に“何でも”一つ答える。というのはどうでしょうか?』

『おーけー。ただし条件が2つある。1つ目は【5分以上決着が付かなかったらアランの勝ち】。2つ目は【路地裏の影から出たら負け】。2つ目の条件はガン逃げによる時間稼ぎ対策だな』


 (1つ目の条件は、こちらにとってはかなりのハンデとなる。2つ目の条件は、ややこちらが有利なもの。小柄な私と違い彼は大柄だ。路地裏という狭い空間では私の方が有利……どちらにせよ私から仕掛けた勝負、受けて立つ他なさそうですね)


『分かりました。その条件をのみます』

『……なるほど。じゃ、勝負開始の宣言を頼むわ』


 アランは自身の影から一本の剣を取り出した。

 剣身は細く、長さもそこまでない黒いショートソード。

 しかし、剣身は煙のように揺れ定まった形を未だ見せていない。

 まるで、陽炎を見ている様だった。


『では――――――勝負…………開始ッ!!!』


 『【裏影】』

 『【木影】』


 【裏影】で建物の影に入り込もうとした椿を、アランの足元から伸びた【木影】が捉えた。

 小枝のように枝分かれした影が、椿の腕をガッチリと掴む。


『――ッ!?』

『まぁ、闇属性持ちって情報が割れてる俺相手に、こんな日陰で戦うなんて真似できるのは――――――同じ闇属性持ちくらいだよな?』


『【(くれない)】』


 椿は勢いよく跳びあがり上下が逆さまになるくらい体を捻る。

 そして、流れるように脚元に隠していた刀型の暗器で【木影】を切断する。

 切断された【木影】は散り行く紅葉のように、パラパラと地面へと落ちていく。

 履いていた黒色ニーソの一部が破け暗器が露わになっていた。

 暗器の刀身は【黒血魔術】を使ったかのように、赤く染まっていた。


(初手で防御魔術ではなく【木影】で拘束を狙って来た辺り……私の属性を読まれていましたか。ただ、それよりも……“東大陸の禁術”の名を()()知っているのか?)


『ところで、誰から【木影】を教わったんですか? 中々にマイナーな魔術だと思うんですけど』

『……亡くなった両親から教わったんだよ』

『御両親の出身をお聞きしても?』

『さぁ、聞いたことないから知らん。まぁ、中央大陸は色々な大陸からの移民が多いから何処でも不思議じゃないけどな』

『……なるほど。もしかしたら、我々は同郷かもしれませんね。同じ黒髪ですし』


 椿は納得した様子を見せながら、脚に付いていた暗器を元の位置へと戻す。

 そして、両手をポケットへと突っ込んだ。


『なんだ? もっとお喋りしようぜ?』

『残念ながら私には時間制限がありますので――――――【白】』


 椿の指に指輪状の金具の様なモノが装着されており、そこから蜘蛛の糸のような物が複数本飛び出てきた。

 糸は建物の壁に触れるとそのまま落ちる事なく、触れたその場所にピッタリと付着し固定化された。

 建物間をバリケードのように遮るそれは、さながら蜘蛛の巣の様だった。

 

『さぁ、捕まえましょうか』


 椿が人指し指をクイッと小さく動かすと、壁に張り付いていた白い糸が一つ外れアランに向かって落ちてきた。

 素早く落ちて来る糸の軌道線上から外れるようにアランは体を反らし移動する。

 しかしそれと同時に、移動先に向かって別の糸が複数本、別々の角度から襲い掛かる。


『おっと――――――』


 アランは手に持っていた剣で糸を斬ろうと試みる。

 しかし、斬れることなくそのままアランの腕に絡みついた。


『ちょッ!?』

『【縛】』


 壁に張り付いていた残りの糸が全て同時にアランへと降り注がれた。

 アランは腕を強く引き糸を引きちぎろうとする。

 しかし、糸はぐにゃりと伸びるだけでアランの腕を掴んで離さない。


『【影纏い】――――――ッ!!!』


 アランは開いている方の手で地面に触れる。

 そしてそのまま、布を剥がすかのように影を引き剥がしマントのように自身の体へと纏わせた。


『無駄です。【影纏い】ごと拘束します』


 椿は器用に指と腕を動かし、アランを糸でぐるぐる巻きにする。

 ギチギチと音を立てながら、アランは何とか拘束を解こうと試みている。

 しかし、今度の糸は伸びる事はなく逆に、ピアノ線の様な硬さで締め上げていた。

 

……1

……2

……3

……4

……5…………


 時間が止まるなんて奇跡が起きる事はなく、無情にもあっという間に5秒が経過してしまった。


『……私の勝ちですね。【影纏い】をしたせいで、足元にあった逃げ込めるはずの影まで消してしまい、自らの退路を断ってしまった。――――――それが貴方の敗因ですかね』

『オイオイオイ、5秒前に()()()()()()()()だろうが』

『……は?』


 影で出来た外套からアランの左腕がぬるりと出てきた。

 そして、人差し指を一本立て地面を指差した。

 

『一体何を言って――――――』


 椿は訝しげに地面を見る。

 そして絶句した。


『……そうゆうことです…………か』


 アランに集中していた影響で決定的なモノを見落としていた。

 そう、建物の影が無くなっていたのだ。

 【影纏い】をする際に引き剥がしたのだから無いのは当然のことである。

 しかし問題はそこではない。

 椿の足元にある影含め()()()()()()が無くなっていた。


『2つ目のルール【路地裏の影から出たら負け】……だったよな?』

『……今思えば、何故【路地裏】からではなく【路地裏の影】だったのかをもっと考えるべきでしたね……』

『まぁ、今日は休息日なんでね。こっちはまともに戦うつもりなんて無かったわけよ。って事で――――――じゃ、早速質問をさせてもらおうかな』


 影の外套を地面へと戻し、アランはゆっくりと椿に近づく。

 椿はアランの足元を見る。

 すると、アランの体を縛り付けていたはずの糸は綺麗に切断されていた。


『……えぇ、構いません』


 (……やってしまった。諜報組織に属しながら、機密情報を外部に漏らす事になるとは……雷華(らいか)様…………如何様な罰も受けます)


『何でもいいのか?』

『……はい。どんな質問にも答えます。東大陸において、口に出した事は絶対で――――――』

『なぁ、今お付き合いしてる相手とかいる?』

『――――――は?』


 目をまん丸とさせながら、椿はアランの顔を見る。

 その表情には――――――何とも言えない悲壮感があった。




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