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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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エラード戦①


『どうした? 止血した方がいいんじゃないか?』


 エラードは上から目線でアランに対し、挑発的な言葉を吐く。

 しかし、アランはそれを軽く聞き流しながら、片膝の状態で強引に土の刃を引き抜いた。

 裂傷箇所からは血がドクドクと溢れ出ており、素人目に見ても重傷である事がわかる。 


『まぁ、腕を斬り飛ばされた時よりかは痛くないな』

『……一体何を言って――――――』


 刹那、エラードは殴り飛ばされていた。

 油断。

 重傷を負い、暫くは痛みでまともに動けないだろうと判断していた。

 しかし、その考えはアランの行動により一瞬にして否定された。 


 パラパラと瓦礫が落ち、砂煙が辺りを舞う。

 舞った砂煙に視界が覆われている中、ザッザッと地面の上の小石を踏み砕きながらアランが近づいてくる音が聞こえてくる。


『成程。常時発動してる訳じゃなくて、その都度コントロールする必要性がある魔術なんだな。だから今みたいな意識外の攻撃は防げないと。まぁ、精霊の加護のせいで大分ダメージは軽減されてはいそうだけどな』


 砂煙が晴れると、そこには足を負傷したはずのアランが堂々と仁王立ちしていた。

 血で濡れた服は見るだけで痛々しさを感じさせる。

 しかし、その表情には怯え、恐怖といった負の感情は一切なかった。


『……全く。一撃目で効かないと分かったら、普通は別の攻撃を試すものだろう?』

『一撃目で駄目なら、百撃叩き込めばいいだけだろ』

『フッ、非合理的な考え方だな』

『合理性を非合理的な手段で叩き壊すのは楽しいぞ』

『全く……俺もお前みたいな馬鹿ならもっと楽だったろうに』

『…………』


 一瞬、何処か悲しそう表情が見えた気がした。

 エラードはゆっくりと体を起こし立ち上がる。

 そして、小杖を自身の頭上まで持っていく。


『【小さな土精霊の戯れ(フィーシ・カラー)】』


 アランは直ぐ様に辺りを見渡す。

 しかし、そこには何もおらず、もう一度エラードへと視線を戻しても、特にこれといった変化は見られなかった。


『おいおい、精霊ちゃん達はおねんね中か? 早く起こしてくれ――――――……よ…………』


 エラードの足元で何かが動いたように見えた。

 注意深く観察すると、茶色いフワフワとした球体状の何かがトコトコと小さな二本足で移動しているのが分かった。

 そして、その小さい何かを認識したその時――――――エラードの周りに同じ姿の“何か”が沢山いることに気がついた。


『おわっ!? なんだそいつら精霊か!?』

『……ほう、見えるのか。ただの筋肉馬鹿かと思ったが、存外繊細なタイプなんだな』

『え、精霊って普通は見えないもんなのか?』

『そうだな。特に彼ら初級土精霊(ポコロン)達は自然に近い分、認識するのが難しい。まぁ、見えると言うことは、あえて貴様に姿を見せてくれているのだろうな』


 茶色いフワフワには二本の腕も生えており、体を左右にユラユラと動かしていた。

 その光景に心を和ませつつも、土精霊達が持っているものを見て驚愕する。 


『……あの、土精霊ちゃん達の手にある物騒な物は何かな?』

『先ほどの土の刃だな』


 よく見ると、土精霊達の手には小さい刃物の様なものがにぎられていた。

 その他の個体にも同じ様に、剣、弓、斧、槍、盾といった原始的な武器が握られていた。

 そして、それぞれの武器には金属による光沢が全く見られないあたり、おそらくは土の刃同様、土製の武器である事が予想できた。

 土精霊達は黄色い瞳でアランを見つめる。


『……え? 一対多数とか嘘だよね?』

『さぁ、始めようか』


 エラードの手にはいつの間にかに弓が握られており、鏃はこちらを向いていた。


『オイッ! やっぱり弓使うんじゃねーかッ!!!』

『フッ、どうだったかな』


 矢を引き絞りながら、エラードは不敵に笑う。

 そして、それと同調するかの様に土精霊達はケタケタと笑いながら、一斉にアランの方へと突撃し始めた。

 不規則性。

 それぞれが自由気ままに動いているのか、土精霊達の攻撃には規則性が全く無く、攻撃タイミングが全く掴めなかった。


『精霊とか良く知らないけど――――――とりあえず一旦殴って見るかッ!!!』


 剣を持った一体の土精霊が静かにアランの背後へと接近し、鋭い突き攻撃を仕掛けてきた。

 アランは体重を後ろにかけ、寸での所で剣を躱し、そのまま素手で掴み取る事に成功した。

 そして、剣を土精霊に押し付け、空いた腕でそのまま剣ごと土精霊の顔面を殴り付けた。

 

『――――――ッ!?』


 アランの拳は剣を殴り壊す事に成功した。

 しかし、土精霊の体に拳が当たる事は無かった。

 より厳密に言うのであれば――――――その体に触れた瞬間、スカッと空を切るように“拳が体を通り抜けて”しまった。


『うっそでしょッ!?』


 トテトテと走って来る土精霊達から一旦距離を取るべく、フィールドの壁際まで移動する。


(……どうゆう事だ? 精霊には物理攻撃が通らないのか? いや待て、防具代わりに薄い【影纏い】は常時発動させているんだから魔術的な接触はしているはず……。え、そもそも触れられないやつとか無いよなッ!? それならどうやって攻略すれ――――――ばッ!?)


 自身の体を掠めながら、何か棒状の物が顔の直ぐ近くを通り過ぎる。

 ガッと石を砕く音を鳴らしながら、フィールドの内壁にソレは豪快に突き刺さる。

 恐る恐る見てみると、そこには石壁に突き刺さる一本の矢があった。

 

『……あっぶねぇ〜』


 思わず安堵の声が漏れでしまった。

 そして、矢が飛んできた方向を見ると、そこには弓を構えながらコチラを狙い続けているエラードの姿があった。

 コチラの視線に気がついたのか、口角を少し吊り上げながら、二の矢、三の矢を射出してきた。


『この卑怯者オオオオオ!!!!』


 次々と飛んでくる矢を紙一重で避けていると、何体かの土精霊達が小さな弓を構えているが視界に映った。


(こりゃ、避け続けても埒があかないか。このままエラード本体を狙うのが無難ではあるけど、当然そうゆうパターンは予想されてるよな。であれば、別の方法で攻めるのがむしろ安全か)


 アランは土精霊が射出した矢を器用に掴み取る。

 そして、そのまま矢を返す様に土精霊の体に向かって投擲した。

 しかし、矢は土精霊の体に触れることなく、先ほどの拳と同様に空を切りながら地面へと突き刺さった。


(土精霊達が作り出した武器ならと思ったけど駄目か。なら――――――)


『【風玉】』


 右の掌を土精霊に向ける。

 スルスルと回転しながら、微弱なそよ風が球体を形成し始める。

 そして、ハッキリとその形が分かるくらいに密度が高まると、拳サイズの小さな緑色の球体が掌の前で完成していた。


『攻撃力はない、ただの初級風魔術だけどよぉ……“弱点属性”ならどうよ?』

 

 トテトテと近づいてくる土精霊に対し、ボールを投げつけるように投擲する。

 すると、土精霊の体に風玉が触れた瞬間、明らかに“嫌がる素振り”を見せた後、数センチほど後ろにノックバックした。


(ビンゴ!!!。とりあえず、精霊には有利属性の魔術しか通らない可能性が高い感じか。一応、今の反応がブラフの可能性もあるにはあるけど……とりあえずは切っていい仮説か。さて――――――)


 先ほどまで上機嫌だった土精霊達の表情が明らかに悪くなっている事に気が付いた。

 それは“怒り”と形容するのが近いだろう。

 日が傾き始めフィールド全体に影が落ちる。

 土精霊達の赤くユラユラとした瞳がフィールドに設置された照明に照らされ怪しく光る。

 

 

(……いやさ、攻略法が分かった所でさ、俺別に風魔術が得意な人じゃないんだよなッ!? どうするこれ!? ってか、破壊不可能な無数の肉盾がワラワラ湧いてて、その後ろから遠距離チクチクとか卑怯くさくね? なんなら盾が普通に攻撃してくるオプション付きでさ? それもうただの城塞じゃん? 土精霊達が持ってる武器を全部破壊してもさ、地面から無限に作製してくるじゃん? 無限土精霊編始まるやつやん?……ん? 城塞?)


 アランの脳内に電流が走る。


【ん? 堅牢な城塞の攻略法じゃと? そんなもん――――――“力一杯ぶん殴れ”ばいいだけじゃろ?】


『……あ、よく考えたらなんで、たかが要塞程度に怯えてるんだ? こちとらもっとヤバイもんと戦ってたのによぉッ!? 一対多数? 無敵盾? 遠距離チクチク? ――――――視界に映ったもん全部ぶっ壊せばいいだけじゃねーかッ!!!』


 足元にある影がシュルシュルと伸び始め、一枚の大きな黒い布の様なモノへと形状を変化させた。

 そして、アランの全身を覆う様にバサリと上から被さる。

 その様はまるで、布を被ったお化けのようだった。


(……なんだ? 回避に専念しながら攻略法を考えていた様だが……。風魔術が弱点になると分かった途端、黒い布を被り出したが……あれは何だ? 影か?)


 エラードは盾持ちの土精霊を自身の前に並べて防御陣形を形成した。

 更に、相手に準備をする時間を与えない様、次々と矢を射はじめた。

 矢はポスポスと黒い布状の何かへと当たる。

 しかし、矢が貫通する事は無く、まるでエネルギーを吸い取られたかの様にボトリと力なく落下した。

 アランの近くにいた土精霊達もまた、エラードに合わせる様に多種多様な攻撃を浴びせかける。

 

『……何だこれは?』


 エラードは困惑した。

 刃物による刺突、鈍器による打撃どちらもダメージを与えている様には見えなかった。

 そして、注意深く黒い布を観察してみると、軟体生物の様にウネウネと流動的に動いているのが分かった。


『あぁ、これは便宜上【魔王の繭】って呼んでてな、俺と師匠の合作魔術だよ』

『……固有魔術か』


 ウネウネと畝っていた布は次第に特定の形へと変化していった。

 そう、それはまるで――――――


『……御伽話で出てくる黒騎士みたいだな』


 漆黒の全身鎧に、背丈ほどある黒いマント。

 頭兜には、竜を髣髴とさせる縦に伸びる二本の角が付いていた。

 そして、手には二メートルはあるであろう漆黒で塗りつぶされた巨大な剣が携えられていた。

 

『黒騎士? いやいや、どう見て【魔王】だろうが』

『声が兜で遮られて良く聞こえない。すまないが、一旦外してから喋ってくれないか?』

『外した瞬間、射撃してくるだろ?』

『何だ? 私の事が信じられないのか?』

『信じられねーな』

『…………』


 アランは、大剣を肩に担ぎながら姿勢を落とし、走りだせる体勢をとる。

 そして、目線の先にいるエラードを射抜くように見る。


『お前ってさ、本音言ってる時は一人称が【俺】で、演技してる時は【私】になるよな』

『ッ!?』


 一瞬の隙。

 エラードが息をのみ瞬きをしたその瞬間、アランは体を捻った。

 そして、その動きに合わせるように遅れて黒いマントがアランの周囲へと広がる。

 広がったマントは遠心力に従うかのごとく一瞬で拡大し、周囲にいる土精霊達の武具を瞬時に全て破壊した。


初級土精霊(ポコロン)ッ!!! 警戒を――――――』


 その刹那、唐突に地面から飛び出てきたアランが視界に映る。


『――――――魔王流 十八式 【月光幻影】』


 薙ぎ払われた【黒の大剣】は、エラードの持つ小杖を完全に捉えそのまま木端微塵に破壊した。

 

 アランは呆気にとられたエラードの右腕をガッチリと左手で掴む。

 兜の中からこちらを覗く瞳が見える。

 そして、その瞳からは“失望”の色が垣間見えた。


『【西大陸】って大したことないんだな。これじゃぁ――――――【森羅】の逸脱者にも期待できなそうだ』


 大きく振りかぶった右の拳がエラードの顔面を完璧に捉えた。

 

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