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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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目的

【絶対無敵天上天下唯我独尊世界最強魔王軍控室】


『……ん』


 朦朧とする意識の中、後頭部に当たる柔らかい感触を覚えながらゆっくりと目を覚ます。

 照明の強い光と、見慣れない白い天井。そして、たわわな双丘を揺らしながら、上から心配そうに覗き込んでいる茶髪の犬耳娘の姿が視界に入り込んできた。


『……胸が無駄にデカいですわね』

『あ、目を覚ました!!!』


 体を起こそうと上半身に力を入れる。

 しかし、全くと言っていいほど力が入らず持ち上げる事が出来なかった。


『動いちゃ駄目だよッ!』

『……どうやら重症みたいですわね』

『そうよぉ~内臓がダメージを受けているんだから安静にしてなさぁ~い』

『ッ!?』


 咄嗟に声がした方向を見る。

 そこには、ウェーブがかった長い金髪に、無駄に大きい胸を携えたインチキエルフが椅子に座っていた。


『……どうして貴方がここに?』

『フフフ、私がここまで運んで来たのよぉ~。周りに正体がバレると困ると思ってねぇ~』

『……成程。その節は、ありがとうございましたわ』


 首から上をゆっくりと動かし感謝の意を示す。


『いいのよぉ~。それに、このまま控室に帰ると怒られちゃうだろうから少し寄り道したかったしねぇ~』

『…………』


 部屋の壁際で筋力トレーニングをしていた半裸の男、アランがスッと会話の輪に入ってきた。


『おぉ、目が覚めたんだな』

『……何ですかその格好は?』

『まぁ、そろそろ準備運動でもしておこうかと思ってな。ってかさ』


 アランはセレスの方を向く。


『何でわざわざ棄権なんてしたんだ? イザベラが起きてから理由は話すって言ってた訳だが』

『そうねぇ〜』


 セレスは足を組み直し、テーブルに置いてあるマグカップに手を伸ばした。

 静かにマグカップに口を付けて中身を飲むと、ゆっくりと元の位置へと戻した。


『私の目的は一つ【我々の大将であるエラードちゃんに()()()()()()()】事なのよねぇ〜。これは他のギルドメンバーとは共有していない情報だから内密にして頂けると嬉しいわぁ〜』


 訝しげな表情を浮かべながらイザベラはセレスに問いかける。


『なるほど。中堅、副将の方とはこの大会の参加目的が違い行動をコントロール出来ないからこそ、次鋒で調整しておきたかったという事ですか』

『そうなるわねぇ〜』

『ねぇ、ちょっと待ってよ!』


 コレットは勢いのある声量で話を強引に遮った。

 その瞳には、怒りの炎が灯っていた。


『それってこっちの中堅と副将が負けることを前提としてるよね?』

『そうよぉ〜。こちらの中堅と副将が負ける、という可能性の低い話は最初から切ってるわよぉ〜』

『……へぇー、舐めてくれるじゃん』

『正直、連中とまともに戦えるのはそこの黒髪の坊やくらいじゃないかしらねぇ〜』


 アランは顔をキリッとさせながら、ドヤ顔で椅子に座った。


『見る目があるじゃない』

『アランは黙ってて』

『はい』

『それで?なんで貴方はエラードって人を本気にさせたいの?』

『……そうねぇ~』


 目線をやや下に移し、もう一度足を組みなおす。

 その表情からは、少し悩んでいる様子が見受けられた。

 

『あれは今から十年前の話――――――』

『ごめんそれちょっと長くなりそう?』

『アランは静かに筋トレでもしててッ!!!』

『はい』


 腕立て伏せをするアランを横目に、セレスは十年前の出来事を語り始めた。


――――――――――――

 

 エラード・エーデル・コード・フィ・アール・セン・バッハ・デール・フォルトは西大陸の王族、フォルト家の長男として生を受けた。

 幼少の頃からその才は際立っており、僅か十才の頃には、精霊魔術において彼の隣に並ぶ者は居ないほどの実力を有していた。 

 人々は彼を【聖霊王】と呼び将来を期待していた。


 しかし、彼が十二の時、異母兄弟の妹、アイリスが産まれた。

 アイリスは幼少の頃から母のガーデニング趣味に興味を示しており、土属性の【植物系魔術】を得意としていた。

 そして、彼女が十歳の時。

 たまたま行った内戦の跡地にて、地面を触るだけで、死んでいた土地を完全に生き返らせるという奇跡を見せた。

 争いの後遺症で完全に死んでいた土地を、いとも簡単に生き返らせて見せたのだ。

 それにより僅か十歳という若さで【魔法】の領域へと足を踏み入れていた事が判明した。


 兄よりも優れた規格外の力を有している妹。

 王が、父が同じでも【母】が違う。

 ――――――であれば、大人達による王位継承権を目的とした派閥争いが起きるのもまた必然である。

 本来であれば長男であるエラードが継ぐのが順当であった。

 しかし、彼の母親は平民階級の成り上がりであり、血筋的な問題があった。

 それに対して、アイリスの母親は古くからの貴族階級出身で血の問題はなく、他の王族関係者からの認識が良かった。

 故に、どちらが王位を継ぐのかが問題視されていた。

 だが、時の王【ウェルヌス】の考えは最初から決まっていた。

 『エラードを次の王にする』

 かの王はそう家臣達に通達し、アイリス派を牽制した。


 そして、その結果――――――宰相【テナイス】によるクーデターが発生した。

 国王軍と反乱軍がぶつかり合う大規模な内戦が目の前に迫っていた。

 王国軍の力は絶大で、反乱軍が敗北する事が分かり切っていた無謀な戦いであった。

 それでも宰相【テナイス】は、自国の利益を、他国に対して【力】を誇示する事の重要性を訴え続けた。

 しかし、それでも王の考えは変わる事はなく、内戦が幕を開ける事になった――――――かに思われた。

 

 内戦開始日の、その早朝。

 自らを担ぎ上げるエラード派の集会にて、【エラード】は王位継承権の放棄と、妹【アイリス】による王政を支持する旨を宣言し――――――自らの父、【ウェルヌス】をその場で殺害した。

 そして、【エラード】は父の首を持ち、そのままの足で反乱軍の拠点へと直接赴き――――――内戦を、始まる前に終わらせた。

 

 その後は、【エラード派】による反乱の兆しを逐一見つけては自らの手で叩き潰し、女王への忠誠を皆に見せつけ反乱勢力を牽制し続けた。 

 


――――――――――――


『それでエラードちゃんは【妖精楽園】のトップとして、今もアイリスちゃんの手足となって働いてるって感じだねぇ~』

『……成程。内戦によって多くの犠牲が出る前に、自らの手で終わらせたって事ですわね』

『そうゆう事だねぇ~』


 コレットは懐疑的な目をしながらセレスに対して質問をとばす。


『……え、それって。セレスさんの目的って――――――【エラードさんを王にする】って事ですか?』

『そうよぉ~』


 セレスは一切の迷いなく即答した。


『それが私達の目的なのよねぇ~。エラードちゃんに失った【牙】を取り戻して貰うためにぃ~貴方達には腑抜けた彼にちょっと刺激を与えて欲しいのよねぇ~』

『オイオイちょっと待ってくれ』


 腕立て伏せをしながら話を聞いていたアランがゆっくりと立ち上がった。


『エラードは争いを止める為にそうゆう行動に出たんだろ? 本人の意志はちゃんと確認したのか?』

『してないわねぇ~』

『本人が王になろうとしていないなら、外野がとやかく言っても無駄じゃね?』

『……そうね』


 そこにゆったりとした吞気な雰囲気はなく、何処か――――――【悲壮感】に近い何かがあった。


『……本当はあの子には全力で遊んでいて欲しいのよね』

『…………』

『何者にも縛られず、宿命なんて面倒なモノを背負う事なく自由に生きて欲しい。彼の本当に望むままにね。それが私達の本心。【王になって欲しい】ってのはどちらかと言うと、こちらの“願望”って感じかしらね』 

『……成程な』


 アランはそれ以上何も言わずに、セレスの肩をポンッと軽く叩くとそのまま何処かへ行ってしまった。


『……彼はちゃんと戦ってくれるかしら?』

『まぁ、何とかなるでしょう。彼が、“本気でない相手”と戦うとは考えにくいですから』


――――――――――――


 闘技場の側面に設置されたベランダ状の空間で、長髪の金髪を靡かせながら一人のエルフがアイスヘイルの街並みを儚げに眺めていた。

 氷の装飾と木製の建物。

 太陽の光が氷に反射して、街全体が綺麗なスノウドームの様にキラキラと光り輝いて見えた。


『……何の用だ変態』


 エラードは、無言のまま自身の隣にしれっと並んだ“半裸”の変態に対し、警戒心を込めた低い声で詰問した。

 それに対し黒髪の男は、“やれやれ”と言った表情を見せながら、こちらを煽るような顔を向けてきた。


『分からないかい?エラード君』

『分からないし、分かりたくもないな』

『さっきまで筋トレしててな、それでシャワーを浴びようとウロウロしてたら――――――ここに迷いついたんだよ』

『分かる訳ないだろうが――――――ッ!!!』


 バシッと自身の体重を預けている落下防止用の柵を手で叩いた。

 

『いやいやいや、半裸なあたりから推測できるだろ?』

『ふざけるなッ!!! せめて上は着てから外を移動しろッ!!!』

『汗で汚れるじゃん』

『代わりに我々の目が汚れる』


 アランは両腕を大きく上げて――――――マッスルポーズをとった。


『……』

『どうだ? 美しい筋肉だろ?』

『どうして筋肉勢は皆こうも頭がオカシイのか……』


 脳裏に『ガハハハッ』と豪快に笑う筋肉馬鹿、アンドロスの姿が浮かび上がり目の前のアランと重なって見えた。

 

『……それで? 大将戦を見据えて俺の情報でも探りに来たのか?』

『まぁ、当たらずとも遠からずって感じだな』


 ゆったりと柵に体重を預けるように右肘を置く。

 柔らかな風が頬を撫でる。

 隣で突っ立っているエラードの方向に体を向ける。


『巨乳エルフから色々聞いたよ』

『……成程。棄権したのはそうゆう事か』

『今ので全部分かるんだな』

『当然だ。負けず嫌いのセレスが棄権した“理由”なんて【俺に本気を出させる】事くらいだろうからな』


 エラードはアランと同じように両肘を柵へと乗せると、街全体を見下ろすように前を向く。

 

『また、内戦が起きるのが怖いか?』

『……それはないな。今のアイリスなら一人で全てを解決できるだけの力がある。……ただ――――――彼女に【王】の責務を押し付けてしまった事に関しては……申し訳ないと思ってはいるがな』


 その目には様々な感情が混じりあった色があった。

 きっと当事者にしか分からない【後悔】【苦悩】【懺悔】といったモノがあるのだろう。

 

『お前が代わってやればいいんじゃね?』

『……俺では力不足だ。きっと周りの者達がそれを認めないだろう』

『やって見なくちゃ分かんねーだろ?』

『お前はアイリスの力を見た事がないから分からないのさ』


 エラードは少し顔を上げる。

 何もない空を見上げながら、“ナニカ”を見ていた。


『【森羅】自然を、大地を創り変える神の領域の魔法。――――――そんなモノに()()()()()挑戦しろと?』

『挑戦してみてから対策を考えたらいいんじゃね?』

『……それは無駄な事だ』


 肘を柵から離し、闘技場の方へと向きを変えた。


『お前はただ、“妹よりも弱い自分”に失望しただけなんじゃないのか? 妹を大切に思うんなら――――――()()()()()()』 

『…………』


 エラードは何も言わずに闘技場の中へと戻っていった。

 角度的に彼がどういった表情をしていたのかは見えなかった。

 冷たい風が、剝き出しのアランの背中を押すように吹く。

 ゆっくりと右手を自身の胸の近くへと持っていく。


『……ヤバイ、乳首がクッソ冷てぇ。アイスクリームみたいになっ――――――』

『――――――あ、アランさんここにいたん……です…………ね』


 そこにはアイスクリームを両手に持ったドラコとベノミサス。

 そして、後ろを追うように歩いていたクロエが居た。


『……アラン、お主は半裸で一体――――――“ナニ”をやっていたんじゃ?』

『……チガウヨ?』


 か細い、かき消えるような声量で放たれた声は、大空へと消えていった。


――――――――――――

【妖精楽園控室】


『あ、エラード様おかえりなさい』

『……あぁ。ただいま』

『ッ!?』

 

 そのままゆっくりとベッドの方へと歩いて行き、腰を下ろした。

 エラードの表情には疲労が色濃く見えた。

 

『……何かありましたか?』

『……あぁ、ちょっとな』

『…………』

『次はソフィアだろう? 準備の方は出来たのか?』

『え、えぇ。私の方は大丈夫です』


 金髪のショートヘアーに、先の尖った大きな耳を持つエルフの少女は、丸眼鏡をクイッと上げながら自信満々の表情を見せた。


『……そうか』

『……では、そろそろ私は行きますね』

『あぁ、【妖精楽園】の力を大衆へと見せつけ、我らの女王の威を示せ』

『はい』


 控室の扉がパタリと閉まる。

 部屋の中にはエラードが一人だけで居るだけで、物音一つしないどんよりとした静寂が空間を支配していた。


『【逃げんなよ?】……とはな』


 ベットに仰向けになるように体を倒す。

 天井に刻まれた木目模様を視線でなぞる。


【兄様……私は、兄様のしたい事がしたいです】


『……クソッ』


 絞りだしたかの様なかすむ小さな声は、天井の静寂の中へと飲み込まれ消えた。


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