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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
37/81

セレス戦①

【特別控室】


 青みがかった銀髪を激しく揺らしながら、【氷結】の逸脱者フィーヤ・ヘイルは興奮気味にバルコニーに飛び出す。


『ねぇッ!あの赤黒い炎なに!?』

『……さぁ、何でしょうね。何らかの方法で魔術の色を変えているのでしょうか』


 二ルフィーは困惑気味な表情を浮かべながら桃色の猫耳をピクピクと動かす。

 

『あれ多分、神代の魔法だよ!』

『はぁ、私にはとてもではありませんが、あの赤髪の女騎士がそこまでの実力者には見えません』

『うーん。確かにそれはそうなんだけどさ……何て言うか――――――“ゾクゾク”するんだよね』

『ただ暴れたくなっただけでは?』

『ねぇ!ニルフィーには普段の私がどう見えてるんだよ!』


 少し考えた後、真顔のまま口を開いた。


『【我儘暴れん坊女王様】ですかね』

『もぉッ!!!』


 ポカポカとニルフィーの背中を叩く。

 すると、強烈な爆音がフィールドの方から聞こえてきた。


『――――――え、何があッ』


 フィーヤはニルフィーが反応するよりも速く防御用の氷の壁を作り出した。

 薄さが一センチにも満たない透明な氷の壁は、襲い掛かる爆風を完全に遮断して見せた。


『あ、ありがとうございます』


 逆立った毛を整えながら、フォーヤに対して頭を下げる。


『ん?、自身の従者を護るのは主人として当然のことだからね。それよりさ、あの赤い剣……ヤバそうじゃない?』

『た、確かに……私にも分かるくらいには“何か“の力を感じます――――――ってまたですか!?』


 再び強い爆風が発生し――――――砂煙が晴れた頃には決着が付いていた。


『……これは調査が必要ですかね』

『まぁ、その辺の事はニルフィーに任せるよ』

『かしこまりました』


 一礼をし部屋を出るニルフィーを見送ると、再びフィールドがよく見える椅子まで移動し座り直す。


『なーんだ。楽しませてくれそうじゃない』


 不敵な笑みを浮かべながら、フォーヤ・ヘイルはテーブルに置いてあるマグカップを手に取った。

 そして、ゆっくりと口元へと近づけていき、そのまま中身の紅茶を飲んだ。


『……入れ直して貰えばよかったわ』


 生温い紅茶に嫌悪感を抱きつつも、テーブル上のクッキーに手を伸ばした。

 しかして、その口元は楽しそうに歪んでいた。


――――――――――――


 黒のゴスロリ風の衣装を身に纏い、透き通るように美しい銀髪を一本に纏めた少女はフィールドをぐるりと見渡す。


『凄いですわね。さっきまで穴ぼこだらけだったのに、もう完全に修復しているだなんて』

『そうねぇ~きっと優秀な土系統の魔術使いが居るんじゃないかしらぁ~』


 目の前に佇む金髪巨乳エルフ【セレス】はイザベラの疑問に対し答える。


『……わたくしの名前はイザベラです。【酒豪】のセレスさんでよろしくて?』

『そうよぉ~。よろしくねイザベラちゃん』


 イザベラはセレスの装備を注意深く観察した。

 

 手には派手な装飾類等が一切付いていない質素な木製の大杖が一本。

 服装は薄い白地のローブを羽織っているだけで、金属製の防具などは着けていない。

 

(見るからに【魔術士】といった装いですわね。宝物庫で貰った【氷帝龍のブレスレット】があるので魔術による遠距離戦でも良さそうではありますが……いや、近距離に持ち込んだ方が有利ですわね)


『あらぁ~作戦の方は決まったかしら~?』


 ニコニコと微笑みながら、何処か見下すかの様な視線でこちらを見ていた。


『……えぇ。そちらの方こそ準備はよろしくて?』

『いつでも大丈夫よぉ~』


 こちらの準備が整った事を実況/解説席の二人に向かって目配せをして知らせた。


『おっと、どうやら【次鋒戦】の二人の準備が整ったようです。解説のパシフィーさん、今回の戦いはどうなると予想しますか?』

『そうですね……。正直、どちらも情報が全くありませんので分かりませんね。ただ、【先鋒戦】の結果を見る限りでは、【魔王軍】側もかなりの実力がある事が分かっていますので、いい戦いが見れるのではと期待しています』

『はい、ありがとうございます。――――――では、フィーヤ様の準備が整った様ですので、試合開始の宣言の程をよろしくお願いいたします』


 【次鋒戦】の時と同じように、会場に設置されている巨大メガホンからフィーヤ・ヘイルの声が響き渡った。


『それでは――――――Aグループ第二試合【セレス】VS.【イザベラ】の試合の開始を宣言しますッ!!!』


 宣言がされた後も、セレスはその場からは動かなかった。

 ニコニコと楽しそうに微笑みながら、こちらの動きを伺っている。

 遠距離攻撃を仕掛ければ簡単に当たってしまうのではないかと思う程に、全身が無防備な状態だ。

 本来、魔術士は接近戦を仕掛けられた場合に備えて自身に防御強化系の魔術を使っておくのが常識である。

 しかし、セレスにはそういった動きが全く見られなかった。


『魔術士がそこまで無防備でよろしいのですか? 使う余裕が無いのであれば待って差し上げますが?』


(魔術士相手に先手を取るのは愚策ですわ。魔術属性が何なのかだけでも分からないと間合いに入るのは危険。罠系魔術の場合もある以上、まずは情報を引き出すのが最優先)


『あらぁ~気が利くわねぇ~。じゃ、お言葉に甘えさせていただこうかしら』


 手に持っていた木製の大杖で地面を軽く叩く。

 

『全ては大地に還る。しかして、悔恨は眠らず――――――蘇りし土人形(ピリニ・コクラ)


 地面の至る所からミシミシと何かが動く不気味な音が鳴り響く。

 そして、次の瞬間。

 人間の手と思しきモノが地面から突き上げてきた。

 それも一人分ではなく、複数体はいるであろう数の腕があった。 

 注意深く見ると、その一つ一つがボロボロとしており、固められた土の様に所々が崩れ、生身の人間のモノではない事が分かる。


『これは――――――土系統の魔術ですか』

『そうよぉ~。可愛い人形ちゃん達と存分に遊んでちょうだい』


 物の数秒もしない内に、地面からから生えていた手の主が這い出てきた。

 全身が完全に土に覆われおり、瞳のある部分には二つの穴が開いていた。

 穴の奥に不気味な赤い光が燈る。

 視線を少し上げると、頭には獣人特有の耳が付いており、ソレが“何者か”を暗示させる。


『……獣人の死体』

『死者の、魂への冒涜はぁ~いけませんけどぉ~。“肉体”への冒涜はぁ~セーフって事でねぇ~』


 セレスは小悪魔の様な笑顔を見せながら、フィーヤ・ヘイルが居る特別控室の方向を見る。

 しかし、そのタイミングを見逃さずに、イザベラは袖の内側でこっそりと血で作成していた小剣をセレスに向かって投擲した。


『あらあら~駄目よぉ~』

 

 持っていた木製の大杖で自身に向かって投擲された小剣を叩き落とした。

 落ちた小剣は形状を保てずに液体へと戻る。


『そう上手くはいきませんか』

『じゃ、皆さんやっちゃって下さぁ~い』


 「グオォオオオオオオオ」と獣の唸り声の様な重低音を響かせながら、一斉にイザベラの方向へと走り始めた。


(クッ……数は十体と多くはありませんが――――――おそろしく速いッ!)


 それは人形と呼ぶには、あまりにも速く、不規則的な動きをしていた。

 まるで、それぞれの人形同士が意思疎通をしているかのように、互いの隙を埋める様な連携攻撃を仕掛けてきた。


『【血針(ブラッド・ニードル)】&【血影(ブラッド・シャドウ)】』


 両の手首から血で出来た針を射出する。

 幾つかの血針が対象の足、腕、胴体に命中し、土人形の体を貫通する。

 そして、血影で作成した糸を利用し、地面と体とを固定させ、ガクリと膝を着かせることに成功した。


『【血剣(ブラッド・ソード)】』


 蝶のように優雅に舞い、土人形の攻撃を軽やかに避ける。

 まるで、宙に落とした薄い紙を剣で斬りつけているかのように、土人形の爪攻撃は紙一重で空を斬る。

 イザベラは追撃を上手く躱しつつ、地面と固定され動けなくなっていた土人形の傍へと近づき、血剣でそのまま頭を斬り落とした。


 ボトッと確かに質量のある音を立て落ち、地面をくるくると転がる。


『よし、これで数を減らしていけば――――――……嘘でしょう?』


 頭を失ったはずの土人形は、依然としてそのまま動き続けていた。

 更に、血影の糸で固定されている足の一部部位を自らの爪で斬り落とし糸を外し始めた。

 そして、そのまま何事もなかったかのように断面同士を合わせ“結合”させた。

 土人形は素早く立ち上がる。

 駆け足で、落ちていた自身の頭の場所へと向かい拾い上げると、元の位置へと戻した。


『あらぁ~人形なのだから頭を落とした程度じゃダメージにならないですよぉ~』 


(クッ……これは術者本体を狙うか、土人形が完全に動けなくなるまで凍らせるかのどちらかですわね)


 後を追うように追撃を仕掛けてくる土人形を上手く躱しながら、セレスとの距離を縮める。

 

『そうねぇ~。【魔術士】との戦闘は、術者との距離が凄く大事なのは基本よねぇ~』

『【氷結剣(フローズン・ソード)】』


 右手に【血剣】、左手に【氷結剣】を持ち、疾走の勢いを殺す事なくそのままセレスの間合いに突っ込んだ。

 そして、胴体に向かって二振りの剣で左右同時に挟み込むように斬り込んだ。


`『駄目よぉ~』


 持っていた大杖を横向きに倒し、双剣による斬撃を同時に防いで見せた。

 イザベラは何とかそのまま押し込もうと試みるも、ギリギリと音が鳴るだけでそれ以上は前に進まなかった。 


『であれば』


 一瞬、剣を手放しながら地面を強く蹴り、逆上がりの要領で下半身を持ち上げ、横向きとなった大杖を勢いよく蹴り上げた。

 大杖はくるくると宙を舞う。

 

『取った――――――ッ!!!』


 空中で一回転した後、双剣を再び握り直し、がら空きとなったセレスの胴体へと攻撃を叩きこもうとする。


『フフッ……』


 トンッとセレスが右足の踵で地面を軽く叩いた。

 その瞬間、地面から大きな、植物のツタの様な物が急速に伸び出てきて、イザベラの体をガッチリと縛り上げた。


『――――――なッ!?これは――――――グッ……』


 裂傷の様な鋭い痛みがイザベラの背中に突き刺さる。

 素早く自身の後方を確認すると、そこには追いついて来た獣人型の土人形が居た。

 その鋭く、長い爪には生々しく赤い血液がべったりと付着していた。


『……杖が無くても使えるんですのね』

『フフフ、あった方が見栄えがいいですからねぇ〜』


(冗談じゃないですわ……より高度な魔術ほど制御が難しく、魔術発生速度を速く保つために、杖による魔力の記憶補助処理が必要になってくるもの。それらの技術を一切使わずに、踵で地面を叩くだけで使えるなんて……インチキすぎますわね。いや、それよりもですわ……)


 イザベラは視界に捉え続けている土人形に疑念の視線を向ける。

 背後にいる土人形は何故か静止しており、追撃を仕掛けてくる様子は見られなかった。

 更に言えば、セレスもまた不敵な笑みを浮かべているだけで、これ以上何もしてこなかった。


『……わたくしを縛るだけ縛って、あとは優雅に鑑賞でもする予定なのかしら?』

『それもいいわねぇ〜』

『そちらは既に一敗しているのですよ?もっと焦った方が宜しいのでは?』

『私的にはぁ〜大将戦まで行ければ他の勝敗なんてどうでもいいんですよねぇ〜』

『……』


(妙ですわね。【大将戦まで行ければ】とはどうゆう意味なのか?。ここから三連勝して大将戦をスキップした方がどう考えても【妖精楽園】的にはプラス……いや相手の目的が何にせよ、わたくし達は自分達の目的を優先すべきですわね)


『理由は分かりませんが、調子をぶっこいてくれるのであればこちらとしても助かりますわ――――――ぶっ潰して差し上げますわ』

『そうねぇ〜。でも、私はまだ”一歩も動いていない”のよねぇ〜……――――――早く本気を出してくれないかしらぁ〜?』


 優雅に佇むセレスと、植物のツタに縛られダメージまで負っているイザベラ。

 試合を見ている者達にはどちらが有利な状況なのかは明白に見えた。


――――――――――――


『なぁ、クロエ。もしかして、あの金髪の爆乳エルフって“俺より“も強いか?』 

『どうじゃろうな。まだお互いに本気を出してはいないじゃろうから、判断に困るのう。じゃが、あれ多分、元【神】じゃな』

『へー、元神様かー…………は?』


 驚愕の表情を見せながらクロエの顔を見る。

 周りに座っていたドラコとベノミサス以外のギルメン達も同様の反応を見せた。


『そうじゃ』

『待て待て待て、意味が分からない。何で神様がこんな所で戦ってるんだよ。ってか【元】って何?』

『昔な、この世にいる全ての神から“神格”を剥奪したんじゃよ。あやつら、隙を見せたら争いばっかり起こして世界を壊すもんじゃから、色々あって全員【人】レベルの存在にしたんじゃ。因みにエルフも一応は【人】カテゴリーじゃ』

『いやいやいや、そんなヤバイ話をサラッと話さないでもろて』


 狼狽える俺の隣に座っていたドラコはキョトンとした顔でこちらを見ていた。


『え、アランさん知らなかったんですか?』

『……ドラコまさか』

『はい、知ってましたよ。一部の龍/竜達は神々に反旗を(ひるが)えして【人勢力】に協力していましたからね。その時に協力したからこそ一部の龍/竜達は今現在【人】と共存出来ているんですよ』

『……あー、そう言われてみれば【霊宝山】と【人の居住区】が近すぎる感じが確かにしてはいたな』

『まぁ、その話は後でするのじゃ。あまり皆を巻き込みたくはなかったのじゃが……そうも言ってはおられんかもしれんしのう』


 クロエは観客席をチラッと見る。


(……人ではない者達がチラホラとおるのう。まぁ、ワシ個人に関しての記憶は全て消しておいたから大丈夫じゃろうとは思うが……【アラン】が目を付けられるのも時間の問題じゃな)


『……まぁ、とりあえずは、イザベラを応援しようなのじゃ』

『そ、そうっすね』


 やや舎弟感のある返事をするアランにムカついたので、とりあえず鳩尾(みぞおち)辺りを殴っておいくことにした。


――――――――――――


 背中から流れる血が地面へと流れ落ち、大きな血溜まりを作り出した。

 普通の人間であれば貧血で倒れてもおかしくは無い量だ。

 しかし、余り顔色を変えないイザベラにセレスは疑問を抱く。


『あらぁ~止血しなくてもいいのかしらぁ~?貴方程の実力があればそれくらいの拘束は解けると思うのだけれどぉ~?』

『……えぇ、まぁ。……そうですわね――――――これくらいの血があれば十分ですわね』


 背中から黒い翼の様なものが姿を現した。

 それはブチブチと音を立てながら自らを縛るツタを切り裂きながら広がっていき、バサリと大きく左右に開いた。 


『あらぁ~人間じゃないとは思ってはいたけれど……貴方――――――【異形種】なのねぇ~』

『あら、【黒血魔術】で作ったただの偽物の翼でしてよ』

『他の人にはそう見えるかもしれないけれどぉ~“私の目”は誤魔化せませんよぉ~』

『…………』


(わたくしが吸血鬼であると知ってもなお、この余裕。出し惜しみは出来ませんね)


 地面にある血溜まりがニョキニョキと縦へと伸びていき、黒い棒状の形態へと変化していった。

 イザベラはその黒い棒を手に取ると素早く巧みに、くるくると自身の周りをフラフープの様に回していく。

 そして、しばらく回った後、次第にその速度が落ちていく。


『――――――【不死狩りの大鎌(デスサイズ)】』


 身の丈の二倍はあるであろう大鎌。

 一切の無駄が省かれた【狩る】事のみを目的とした細身の形状。

 刃の部分は、今まで狩った得物の血を吸ってきたのではと思う程鮮やかな赤に染まっていた。


『覚悟はよろしくて?』

『……えぇ。構わないわぁ~』


 一瞬、セレスの表情から余裕が消えた様な気がした。



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