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修行


『それで? 修行とは言っても何をするんだ? ここにはデカい壊理剣しかないわけだが』

『ふむ。まぁ、まずは“筋トレ”じゃな』

『――え? そこはクソ強い魔術を教えてくれるとかじゃないのか?』


 俺はそこまで体格に優れている方ではない。

 なるのなら魔術師の方が現実的だろう。


『おぬし死にたいのか?』

『すみませんでした』


『こと戦闘において魔術師なんぞゴミじゃ』

『そこまで言う?(震え)』

『魔術が一切効かない死龍ディアスポラみたいな奴が相手だと普通に詰むのじゃ』

『なんだその物騒な名前の龍は……』


 古の時代、【大厄災】クラスがゴロゴロ居た時代があったと教科書で見たことはあるが――


 人類は良く生き残れたな!


『まぁ、とりあえずは……この壊理剣を抜けるくらいには体を鍛える必要性があるのう』

『因みに重さは?』

『666㎏じゃな』

『ねぇそれ“剣”じゃないよ! ただのクソデカい岩じゃん!』


 そうこう叫んでいると、壊理剣の中からそれぞれ大きさが異なる石の様な物がポイッと沢山出てきた。


『安心するがよい。少しづつ負荷を増やしていこう作戦なのじゃ』

『……修行が終わる頃には人間やめてそう』

『人間は案外丈夫じゃぞ?』

『魔王がそれを言うとちょっと怖いからやめて』


 壊理剣の中から出てきた石の様な物を手に取る。

 よく見ると紋様な物が刻まれているのが分かる。

 

 すると、手にしていた石の紋様が唐突に黒く染まり始めた。


『ちょ、ちょっとヤバイ! なんか色が変わり始めたんだけど!』

『……成程。ワシとおぬしの出会いは偶然ではなく必然じゃったか』

『ど、どゆこと?』

『それはルーン鉱石と言ってな、触れた者の魔力を吸い取って、その魔術属性に因んだ色に光るレア鉱石なんじゃよ』


 しかし、紋様の色は黒く染まっているだけで光を放っているわけではない。


『え、でも(ひか)っては無くない?』

『闇属性だけは光らないんじゃよ』

『――闇!?』



 この世界に存在する魔力属性は大きく分けて6つ。


 【火】属性 【闇】属性   

 【風】属性 【光】属性

 【土】属性

 【水】属性

 

 【火】は【風】に強く 【闇】は【光】に強い。 

 【風】は【土】に強く 【光】は【闇】に強い。

 【土】は【水】に強く 【闇】と【光】は主要四属性に対し有利不利はない。

 【水】は【火】に強い


 その中でも【闇】【光】属性の魔力属性を持つものは限りなく少ないとされる。


『まさかの闇かぁ……』

『なんじゃ不満か?』

『いやさ、【闇】属性って良いイメージが無いんだよな。場所によっては【闇】属性ってだけで殺されるらしいし……』

『確かにワシの時代も、やれ「マイナークソ雑魚属性」だの、「火力なら火属性でいい」だの「闇って何が出来んの?(笑)」みたいな扱いじゃったよ。が、しかしじゃ――』


『それでもワシは世界最強に成れたぞ』

『……え、って事は――』

『そうじゃ、ワシも【闇】属性持ちじゃ』


 闇属性は基本的に戦闘には不向きであると言われている。

 その主なる理由の一つが『属性相性問題』である。

 闇属性は主要四属性に対し有利をとれない。

 逆説的に、有利をとられないという利点がありはするが、純粋な火力、出力で押し切られてしまう。

 その為

 『主要四属性以外は英雄にはなれない』などと言われている。

 光属性持ちは聖職者という職業になれはするが……


 闇属性持ちに居場所はない。


『闇属性で世界最強って……どうやったんだ?』

『結局のところ大切なのは“使い方”じゃよ。それに、そもそもの話、個体数が少ない影響で闇魔術の研究が進んでいなかったってのが問題な訳じゃからな。おぬしにはワシという先駆者が居るだろう?』


 一瞬、自らの不運に絶望しかけたが……魔力属性は言い訳にならないって事か。


 ゆっくりと地面に座り、壊理剣の方を向く。


『魔王ディアボロス。右も左も分からない若輩者だがどうかよろしくお願い致します』

『ディアボロスって可愛くないから【くろえ】って呼ぶのじゃ』

『おい雰囲気が台無しだよ!ってか【クロエ】って誰だよ』

『ワシの本名じゃ。ディアボロスというのは魔王制における襲名なのじゃ』

『マジかよ』


 こうして俺の『筋トレ』と『闇魔術講座』の両立生活が始まった。


――――――

 一週間後


『96……97……98……………99……グオオオオオオオオオオ100! よっしゃオラアアアアアアアアアアアアア!』

『たかが100キロのルーン鉱石スクワットで大げさじゃの』

 

 ルーン鉱石スクワット

 ルーン鉱石を両の手で“垂直”に持ち、そのままスクワットする行為の事を言う。


『ははは、俺の膝を見ても同じ事を言えるのかい?』


 小鹿の様にガクガクと震えていた。


『愉快に笑っておるのう』

『これは踊ってるんだよ』



『そういえばさ、一週間洞窟に引きこもって、みっちりトレーニングをしてるわけなんだけどさ……外の様子ってコッソリ見て来てもいいか?』

『例の女の事が気になるのか?』

『あぁ、……』


 あの夜の出来事から一回もエマとは顔を合わせていない。

 事情を知っているクレアが上手く対応してくれてはいるだろうが……


『ほれ』


 クロエの掛け声と同時に、壊理剣のから鏡の様な物が出てきた。

 縦の長さが二メートル程で、横幅も一メートルあるかなりの大きさの鏡だ。


『それは【普遍魔境】と言ってな、ある程度の距離であれば遠くの景色を映し出す事が出来る超便利な鏡じゃ』


 俺はその鏡の近くに寄り、表面を注意深く覗き込む。

 すると、段々と村の景色が映し出されていった。


『……そっか』


 そこには頭に花の冠を載せ、婚約衣装を身にまとったエマがウェインと共に馬に乗っている光景が映し出されていた。

 

『それは三日前のもので、今現在そやつらはもう村にはおらん』

『俺がここに来てからの間、ずっと見てたのか?』

『そうじゃな。修行の邪魔が入らぬようにな』


 俺はもう一度、鏡を見る。

 エマは幸せそうな顔をしており、村の人間もそれを祝福しているようだった。


 ――ただ一人を除いては。


『ははっ、クレアの奴すげぇ顔色悪いじゃねーか』


 俯きながら馬に乗るクレアの表情はまるで、お通夜の列に並んでいるかの様だった。


『修行が終わってもまだ独身だったら求婚にでも行こうかな』


 鏡に背を向け、ルーン鉱石の元へと歩いていく。


『もっと見なくても良いのか?』

『あぁ。もう吹っ切れた』

『そうか』


 今はただ、強くなることだけを考えなくちゃな。

 よそ見をしてる余裕なんて俺にはない。


 薄暗い洞窟の中、男の持つルーン鉱石がより黒く染まっていった。



――――――

 三年後


1500……1501……1502……1503……1504………………


 体から滴り落ちる汗が、ピチャンピチャンと音を立て水溜まりを作る。

 

1505……1506……1507……1508……1509………………2000


『いや何でじゃ! 何で急に2000にとんだんじゃ? 491回分の腕立て伏せは何処に行ったのじゃ!?』

『冷静に考えて1510って言いにくいじゃん?』

『1410はセーフで1510がダメな理由を聞かせてはくれんか?』

『――気分……かな?』

『びゃああああああああああああああああ』


 壊理剣がガクガクと前後に振動する。


『――――もうあの日から3年も経つのか』

『……で2000の後はどうなるのじゃ?』

『また1に戻る』

『イミフメイナノジャ』


 さてと


『じゃ、ウォーミングアップも終わった事だし最終試験といきますか』


 ゆっくりと壊理剣の近くに歩み寄り、柄の部分を力強く握る。


『……もっと優しく握るのじゃ///』


 俺は容赦なく壊理剣を引き抜いた。

 

『ふぅ。三年もかかっちまったか』


 長い様で短い修行期間だった。

 食事や日用品は全てクロエが出してくれていたおかげで、一度も洞窟の外には出ていなかった。

 

『まぁ、ワシが徐々に重さを足していたからのう。三年かかるのは無理もないのじゃ』

『――――――は?』


 軽く感傷に耽っていると聞き捨てならない言葉が聞こえた。


『いやなに、最初の一年ほどで既におぬしには壊理剣を持てるだけの筋力が付いていたのじゃ。だから増やしたんじゃよ』

『増やした理由を聞いても?』

『なんとなくじ――やめるのじゃ! 壊理剣をブンブン振り回すのはやめるのじゃ!』


 元の重さになった戻った影響か、今となっては軽々と持ち上げられた。


『びゃあああああああああああああああああああ』


 可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

 

『ハハハハハ、よいではないか! よいではないか!』


 楽しくなって剣をブンブン回していると、スポッと音を立てて何かが出てきたのが見えた。


『おい、なんか出てき――――――』


 出てきたモノを見るや否や、絶句してしまった。


 そこには、見たこともない衣装に身を包んだ“何か”がいた。

 黒紫色の生地の下に白い生地を重ねたかような奇妙な衣装を着ており、角の様な物が頭に二本付いている。

 そして、アランを一番に驚かせたのはその大きさだ。

 

『え、え……子供!?』


 140センチあるかないかくらいだろうか。

 綺麗に手入れされた腰まで伸びた黒髪、大きく真珠の様に丸い瞳

 どう見ても普通の子供にしか見えないその少女はむくりと立ち上がった。


『アラン、おぬし今ワシの事を子供と言ったか?』


 少女の影から無数の手の様な物が伸びて来て、アランの体をガッチリと縛り上げていく。


『待てッ! 子供の様に“肌艶”が綺麗だなって思っただけだ!』

『ならば良し』


 体を縛りつけていた影が徐々に消えていった。


『ワシはな、合理主義者なのじゃ。この姿のまま時間を止めておくのが最も効率が良いと判断してこの姿のままでいるのじゃ。決して成長が止まってしまった哀れな女子ではない』

『そっか……アダダダイタイイタイ!』


 哀れみの表情をしたアランを、怒りの表情をしたクロエが再び縛り上げていく。




『ってかその角、クロエって魔族だったんだな』


 魔族には特徴的な角が生えている。

 獣人にも角が生えている者がいるが、魔族の角は獣人と違い周囲の魔素を集める機能があるとかなんとか。


『いやこれは付け角じゃ』

 

 スポッと音を立てて角が外れた。


『いや外れんのかい!』

『ワシは東の大陸出身のれっきとした人間じゃよ。魔王になると魔族共を従える必要性があるじゃろ? 余計な争いを生まないよう変装してたんじゃよ』

『よくバレなかったな』

『気が付いた者も一部おったが、軽くボコったら静かになったので問題なかったのう』


 性格が魔王適正ありありじゃねーか。


『と、いう事でじゃ。せっかくの二千年ぶりの外出じゃ、リードする事を許すぞ』


 クロエはスッと手を俺の方へ差し出す。


『……え、これ俺捕まらな――ブホヘッ!』


 クロエの見事なアッパーカットがアランの顎にクリーンヒットする。



――――――


 三年ぶりの外か……


 背中に背負った壊理剣が黒色の為、太陽の日差しが刺すように熱く痛い。

 あと顎も痛い。


『クロエの方は大丈夫か? 三年ぶりの太陽光は思ったよりもキツイわ』

『ワシの方は大丈夫じゃ。影を薄く身にまとってるからのう』

『【影纏い】ってこうゆう時にも使えるのか』

『紫外線は乙女の天敵じゃからのう』


 二人は村には向かわずに、迂回して本道にでる事にした。


『それで? これからどうするのじゃ?』

『何をするのにも先立つものは必要だろうし、一旦ガリアに向かって冒険者登録でもして、活動拠点を作りたいよな』

『ふむ。あった食料も残り少ないしそれがいいのじゃ』


 二人が本道を歩き進めようとしたその時


『あのおおおおおお! ずみません! お力を貸してはもらえないでしょう!』


 獣耳を生やした獣人の少女が全速力で駆け寄って来た。


『私の村に滅茶苦茶大きい熊が現れて困ってます!』

 




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