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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
29/81

無間

 

 宿舎へ戻ると、丁度そこには顔の青ざめた吸血鬼と汗だくの女騎士が居た。


『あっ、お二人ともおはようございます』


 ドラコはベノミサスを片手で抱っこしながら、血まみれの手をヒョイと挙げ挨拶をした。


『ドラコさん! 一体何処に行って――――――ベノミサスさん!?!?!?』


 にこやかに笑うドラコとは対照的に、痛々しい姿のベノミサスに衝撃を受けたのか、クレアは甲高い悲鳴のような声をあげた。


『ちょっと色々あってベノミサスちゃんの翼が斬られちゃったんですけど、凄い綺麗で親切なお姉さんがくっ付けてくれたのでなんとか大丈夫そうです』

『いやいやいや、意味が分からないですわよ!』


 イザベラはベノミサスの近くまで駆け寄り、翼の部分を軽く撫でながら注意深く状態を観察した。


『……幼体とはいえ、竜の翼を斬るのを簡単な事ではありませんわ。それこそ【S級】レベルでないと斬れません。更に言えば、切断された翼をここまで完璧に治せるのは()()()()()()難しいですわ。ミクロレベルの傷すら残さないのはそれこそ――――――神の御業ですわね』


 イザベラは険しい表情で何度も切断されたであろう位置の血を布で拭う。

 しかし、それらしい痕跡は全く見当たらなかった。


『……それはつまり、今現在、私達よりも上位の実力者がこの大陸に居るって事ですか?』


 クレアはイザベラの表情から事の重大さをいち早く理解した。


『えぇ、おそらくは。それが大陸間ギルド対戦の参加者かどうかは調べてみない事には何とも言えませんが、警戒しておくに越したことはないでしょう』

『でも助けてくれたのは凄い優しそうなお姉さんでしたよ! まぁ、あの白黒の【グリム】ってお兄さんは攻撃してきたので、おそらくは悪い人なんでしょうけどね』


 【グリム】という名前を聞いた瞬間、イザベラの肩がピクッと反応した。


『グリム……いや、まさか』

『イザベラさん?』


 クレアは険しい面持ちで何やら考え事をしているイザベラに声をかけた。


『ドラコさん。そのグリムと名乗る男は他に何か言ってませんでしたか?』

『ギルド【幻想域】のトップって言ってましたよ』

『……【幻想域】? 聞いたことが無い名前ですわね』


 自身の予想とは違っていたのか、イザベラはやや困惑した表情で再度考え込む。 


『イザベラさんはグリムと名乗る男について何かご存知なのですか?』

『……えぇ。かつて【人類解放戦線】という組織を運営し、人類側に協力していた男に特徴が一致していまして、てっきり彼かなと思っていたのですが……うーんって感じですわね』

『あぁ、そうだ! ドラゴンなんて遺物は残しては置けないとも言ってました』

『…………』


 イザベラは一呼吸おいてから、再び口を開いた。


『【人類解放戦線】は終末神話大戦(ラグナロク)の後、人類の敵になりうる危険分子を排除して周っていました。かくいうわたくしも一度排除されかけましたわ。ただ、共生を望む者は非人類でも見逃されていたので、ドラコさん達が遭遇したグリムは、わたくしの知っているグリムとは同一人物ではない可能性がありますわね』

『時間経過と共に行動方針が変わったとかでは?』


 手を挙げながら、クレアは率直な意見をイザベラへと投げかける。


『その辺りは本人に聞かないと分かりませんわ』

『少しきな臭くなってきましたね』

『えぇ。まぁ、とりあえずはベノミサスさんが無事に帰って来たので良しとしましょうか』


 安堵した表情を浮かべながらイザベラはベノミサスの髪を軽く撫でる。

 そして、気絶している最中にも関わらずパシッとその手を弾かれた。

 竜は高潔であるようだ。


『……と、とりあえずは目先の目標である敵ギルドの情報収集をしながら、クロエ様達が合流するのを待ちましょうか』

『そうですね。下手に動くと事態が悪化しそうな気がするのでそれが良さそうです』


 二人は濡れたタオルでベノミサスの体を拭くドラコを見ながら、お互いに大人としての責任を再確認した。

 

 一度昼食済ませ準備をした後、宿舎の外へと出た。


『ベノミサスちゃんもう動いても大丈夫?』

『……うん。まだちょっと翼の部分に違和感を感じるけど、体は動くから大丈夫』

『今度からは二人だけで移動しないように気をつけてくださいましね』


 はーい!と方や元気よく、方や眠そうに返事をした。

 

 中央都市アイスヘイルへと向かう為、一同は大陸内移動用ワープ魔術装置【転移扉】がある建物へと向かった。



――――――――――――


 見るからに重厚な壁で囲まれているそれは、役所と言うよりかは小さな要塞に見えた。

 入口に居る警備員にギルド証明書を見せ、係員の後に付いていきながら建物の中へと入る。

 すると防御魔術装置の様なものに囲まれた一枚の扉が、部屋の中央にポツンと一つだけ置かれていた。

 

『……あれですね、すごく緊張します』


 クレアは目の前にある複雑な魔術陣が刻まれた扉を前に、やや怯えた表情を見せる。

 

『クロエ様の【空越天移】と原理は一緒なので心配しなくてもよろしいのでは?』

『そ、それはそうなんですけど。基本的には要人の緊急避難用として使われている物らしいので、流石に緊張しますね』

『クレアさん怖いんですか?なら私が手を握ってあげますよ!』


 キョトンとした表情を浮かべながら、ドラコはクレアの左手を優しく握った。


『あ、ありがとうございます……。いやいや待って下さい! 私はこれでも大人ですよ!?』


 ベノミサスは何も言わずに、クレアの右手を握った。


『……大丈夫』

『そんなぁ……』


 二人に挟まれるようにしながら扉の前まで歩いて行く。

 すると、係員の獣人のお姉さんがニッコリと柔らかい笑みを見せた。


『皆さんは仲がよろしいのですね』

『えぇ、ありがとうございます』

『先ほどいらっしゃったギルドの方々は、代表以外は一言も喋らなかったので、雰囲気がかなり違くてビックリしました』

『そうなんですね。そう言えば、もう他のギルドの方達はみんなアイスヘイルまで行ってる感じでしょうか?』


 係員のお姉さんは少しだけ考えると、直ぐに口を開いた。


『あとは東大陸の【忍連合】の方達がいらっしゃれば全員集合になりますね』

『成程、教えてくれてありがとうございます』

『いえいえ、皆さんも頑張ってください! 個人的に応援しているので』


 一通りの説明を受けた後、イザベラ、クレア、ドラコ、ベノミサスの順で光り輝く扉の前に並ぶ。


『さぁて、わたくし達の仕事を始めますか』


 イザベラは気合いの入った一歩を踏み出した。


――――――――――――

【旧魔王城前】


 バラバラの瓦礫の山となった()()()()()を見ながら二人は無表情で佇む。


『……なぁ、コレット』

『どうしたのアラン?』

『……俺がなんかセクハラとかした時に()()をぶち込むのは勘弁してな?』

『……そうだね。自分でやっておいてなんだけど、ちょっとこの技ヤバいね』


 瓦礫の下から、クロエがのっそりと這い出てきた。


『……ふむ。想像以上じゃったわ。全盛期の【獣拳王】レオーナの一撃に匹敵する火力かもしれん』

『レオーナ? 聞いたことない名前だね』

『まぁ、あやつは“自分よりも強い奴をぶっ飛ばす”事にしか興味のない奴じゃったからな』

『因みに今の私とそのレオーナが戦ったらどっちが強い?』

『お主が秒で殺されるじゃろうな』

『ヒェッ』


 コレットは犬耳を伏せながら露骨に怯えた表情を見せた。


『とりあえずはあれだな。コレットのその技は一旦は封印だな』

『そ、そうだね。人に使ったら死んじゃうよね……』

 

『さてお主ら。残りの時間はひたすらにワシとの組み手じゃ。サッサと始めるのじゃ』


 クロエは自身の影に腕を突っ込むと、中からもう一人の自分を引っ張り出した。


『……クロエさん。【影分身】で作りだした分身体って本体のどのくらいの水準の強さをしているんだい?』

『1=1』

『知ってたけどインチキだろソレ!!!』

『【暗影魔術】最上位の技の一つじゃからな。では行くのじゃ』


 クロエ VS アラン 

影クロエ VS コレット


 の地獄デスマッチが開始された。


――――――――――――


 真っ白な空間にポツンと木製のテーブルが置かれていた。

 すると、何処からともなく白髪の青年が現れ、ゆっくりとテーブルの元へと歩いて行った。

 木製の椅子を引き優雅に座ると、一冊の本を何処からともなく取り出した。


『……ふむ』


 白髪の青年がペラペラとページをめくっていると、あるページで突然その手が止まった。

 そして、注意深くそこに書かれている文字を読み終えると、パタリと本を閉じた。


 キィー


 自身の後ろから、存在しないはずの扉が軋み開く音が聞こえてきた。


『おやおやおや、二千年ぶりじゃないか輪廻(りんね)

『千九百と八十八年ぶりだカスが』

『……君は相も変わらずに言葉が強いねぇ』

 

 白髪の青年がゆっくりと振り返るとそこには、黒髪をツインテールで纏めた丸眼鏡をかけた少女が立っていた。

 

『で、ヴェルト。お前はどこの勢力に加担するのか決めたのか?』

『決めてないよ』

『お前は本当にノロマだな』

『ちょ、地味にチクチク刺すのは止めてくれるかな? そう言う輪廻の方は決めたのかい?』

『そんな軽率に答える訳ないだろ?』


 輪廻と呼ばれた少女は『お前頭悪すぎないか?』とでも言いたげな表情を見せた。


『……まぁ、僕としては前回と同様に最後の最後に勝ち馬にでも乗ろうかなって感じかな』

『つまらない男だな』

『君もどうせ今回もクロエちゃんの味方をするのだろう?』

『しない』

『へぇ~……』


 ヴェルトと呼ばれた男は、自身の想定とは違った回答が返って来たのか、やや懐疑的な視線を輪廻へと向けた。


『クロエの仕事はもう既に終わっている。それに今回のアイツの役割は競争に加わる事じゃなく、勝者に【世界鍵(リ・クリエイト)】を引き継がせる事にある』

『あー確かにそうだったね。僕らは世界鍵(リ・クリエイト)の一部権能を譲渡されただけで、実質的な【管理権】はあっちにあるんだよね』

 

 ヴェルトは手元にある本を開き輪廻へと見せた。


『でもさ……正直言うと、どの勢力も()()じゃない?』

『……まぁ、その点については同意だな』

『これってさ、必ずしも次の鍵の所有者を決める必要性ってあるの?』

『あぁ。クロエは二千年前の時点でもうとっくに()()が来てるからな。このままだと鍵の管理が出来なくなって、せっかく()()()()()()()()がなくなってしまう危険性が高い。そうなれば世界はまた混沌の時代に逆戻りになる。そうなる前に……次を決めなくてはいけない』


 輪廻は自身が出てきた扉のドアノブに手をかけた。


『私は図書館に戻る。お前はお前でちゃんと決めておけよ』

『了解。因みに……僕と君とで対立した場合はどうするつもりなのかな?』

『殺す』

『混沌の時代が訪れる前に世界が死んじゃいそうだね^^』

『……もし対立した時は、私達が一切の干渉をせず運命に、今を生きる彼らの選択に任せるつもりだ』


 そう言うと、輪廻は扉の中へと消えていった。


『……』

 

 ヴェルトは再び本へと視線を落とした。


 それぞれの勢力が、それぞれの目的の為に動きだした。

 

 東西南北の元大神達は 剥奪された力を取り戻す為に

 竜霊廟は 偉大なる竜の時代の復活の為に

 異修羅は 異形なる者達の為に

 幻想域は 人の時代の維持の為に

 天理界は 真なる英雄の再誕の為に

 魔天楼は 始まりの魔王の復活の為に

  

 そして、ここに人勢力も加わってくると……

 なんなら、僕の知らない、どこの派閥にも入っていない個人勢もまだいることだろう。


 ヴェルトはうんざりした表情を浮かべながら本を閉じた。

 

『……シャルロッテ。君が目指した【誰もが手を取り合い助け合う世界】なんてものは所詮は夢物語だったのかもしれないね。全ての存在を人レベルに落としてもなお、分かり合えそうになさそうだ』


 そう呟く男の背中はどこか悲しそうで、それでいて失望しているようにも見えた。


――――――――――――


 大陸間ギルド対戦当日――――――アランは盛大に寝坊した。



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