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婚約者がNTRれたので世界最強を目指します  作者: 沼男
【二章】大陸間ギルド対戦
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道化師


 早朝五時。

 クレアは日課の素振りをしようとベットから体を起こそうとする。

 しかし、何者かに両腕を掴まれていて動けないことに気がついた。

 ふと、視線を下の方へと移す。

 すると、そこには体を丸めながら自身の両脇で寝ている二人のドラゴンの姿があった。

 ゆっくりと掴んでいる手を退かそうと試みる。

 しかし、全くと言っていいほど動かない。

 まるで両腕に鉄の鎖がくっ付いているかのようだった。


 (起こすのも可哀想ですし、どうしましょうか……)


 クレアは二人の顔をジッと見る。


 (……ふふ、凄まじく可愛いですね)


 クレアは少しずつ時間をかけて腕を動かしていき、なんとか拘束を解くことに成功した。

 ふと窓の外を眺める。すると、暖かい太陽の日差しが差し込み始め、朝の到来を知らせていた。


『今日もいい日でありますように』


――――――


 宿の裏には薄暗い裏路地があり、人目を気にせずに剣を振れそうなスペースがあった。


『ここなら大丈夫そうですね』


 クレアは腰に下げていた剣を手に取り、そのまま頭上あたりまで持ち上げ、勢いよく振り下ろした。

 ビュンと気持ちのいい風を切る音を奏でながら、テンポよく同じ動きを続けていく。


 この三年間は本当に苦しかった。

 強くなるべく、ただ一人孤独に剣を振り続けて来た。

 でも、そんな私にも今は居場所が出来た。

 彼らの為にも、そして自分の為にもまだまだ私は強くならなくちゃいけない。

 私は器用な方じゃない。

 だから、今はただ愚直に剣を振るうのみ。


 一切の妥協なく、その目に確かな覚悟を宿らせながら剣を振るうその姿はまるで剣鬼のようだった。

 すると、素振りが千を超えたあたりだろうか、自身の後方から「じゃり」と砂を擦る音が聞こえてきた。

 クレアは咄嗟に振り返る。


『何者ですかッ!?』


 そこには、大きくて深い魔女帽子を被った長い赤髪の青年が居た。

 タイトなズボンに、きび色の布製の上着を着たその青年は、ゆったりと階段に座りながらこちらを眺めていた。


『おやおやおや、これは失礼いたしました。あまりに美しい剣だったので見惚れてしまい、勝手にここで鑑賞させていただいておりました』


 道化師を彷彿とさせる無駄に丁寧な喋り方をするその青年は、ゆっくりと立ち上がるとクレアの方へと歩いて来た。


『……貴方は何者ですか?』

『あぁ、私は怪しい者ではありませんよ。ただの旅人です。たまたまこの裏路地を通ろうとした所で、貴方を見つけてしまっただけの、ただの通りすがりです』


 クレアの剣の間合いよりも少し遠い位置で立ち止まると、被っていた帽子を右手で掴み外す。

 そして、自身の胸の前まで持って行った。


『申し遅れました。私の名前はロキと申します。世界中を旅している、しがない旅人をやらせていただいております』

『しがない旅人がどうしてただの素振りに見惚れるのですか?』


 警戒心を解くことなく、クレアはロキと名乗る青年に質問を投げかけた。


『芸術を知らぬ者でも、時として絵画や彫刻を見て、純粋に“美しい“と思ったりする事もあるでしょう? 』

『……私の名前はクレアです』

『おぉ、とても良い名前ですね』


 赤髪の青年はニッコリと笑う。


『ただ、貴方は何か“嘘”をついてますよね?』


 一瞬、二人の間に緊張が走る。

 ロキは表情を変えることなく静かに質問をし返す。 


『そんなつもりはなかったけど……どうしてそう思うんだい?』

『“ただの旅人“がどうやって私に()()()()()()()()()()()()そこに居られたのか?と思いまして』 

『実はこう見えて昔は暗殺者をやっていてね。それで気配を消して移動するのが癖だったりするんだよね』

『元暗殺者の旅人が偶然、人気のない場所で女性が剣を振る姿を見つけて眺めていた、と』

『そうゆう事だね』


 クレアは剣をゆっくりとロキの方へと向ける。


『単刀直入に聞きます。貴方は他ギルドが派遣した刺客ですか?』


 刃物のような鋭さのある眼光を飛ばしながら、攻撃態勢を作る。


『……本当の事を話すとボクは“とある鍵”を探しにこの土地を訪れていてね』

『鍵?』

『そう。とても大切なモノなんだ。だから君を狙ってきたわけじゃない』


 ロキは真剣な眼差しで答えた。

 

 (……嘘を言っているようには見えませんね)


『それに、もしボクが本当に君を暗殺する為に近づいていたのなら、わざわざ眺めている必要性なんてないでしょ? 近くで座っているボクの存在に気がつかないほど君は集中していたのだから毒矢なりで攻撃する余裕はあったはずだよ』

『……確かにそうですね。まぁ、どちらにせよ胡散臭い事に変わりはないですけれどね』


 クレアはゆっくりと剣を鞘へと納めた。


『って事でね。誤解も解けたようだしボクはもう行くよ』

『何も解けてないですけどね』

『なに、同じ赤髪同士そこは仲良くやろうよ』

『最初は少し紳士的だったのに、今は凄い子供っぽいですね』

『そんな時もあるさ。……あぁ、そうだ。君のトレーニングの邪魔をしてしまったお詫びが必要だね』


 ロキはズボンのポケットから一本の筆を取り出した。


『君の剣に特別な魔術を施してあげるよ』

『貴方はエンチャントが出来るのですか!?』

『まぁ、そんなところだね』


 クレアは剣に手を伸ばしつつも一瞬、目線を地面へと移す。


 ……武器そのものに対するエンチャントは簡単な技術じゃない。

 もし本当に強化してもらえるのなら願ってもない話だ。

 が、しかしだ。

 逆に弱くするデバフを施される危険性もある。

 むしろその可能性の方が高いと言ってもいい。

 何せ、私はこの男の事を何も知らないのだから。


『いえ、やっぱりそれは辞めておきます』

『うん? もう終わったよ』

『……は?』


 すぐ様に自身の剣を鞘から抜き食い入るように見る。

 すると、剣身の部分に何やら見たことが無い文字が刻まれていた。


『……え? 文字が彫られてる!?』

『それはルーン文字と言ってね、文字そのものが力を持っていて、通常の魔術エンチャントと違って刻み込む事により、更に強力に――――――ちょっと何で泣いているさ!?』


 クレアはポロポロと涙を流していた。


『私の就職が決まった時に両親が買ってくれた大切な剣に変な文字が……』

『あっ……』

『ねぇ、これ消してください! 私にとって凄い大切な剣なんです! エンチャントなら簡単に消せるでしょう!?』

『うーん、ごめん。それは外せないタイプのエンチャントなんだよね☆』


 クレアは涙を流しながら、剣をブンブンと振り回しながらロキを斬り倒そうとする。


『ふざけるなあァァァァァッ――――――!!!』

『ちょ、ちょっと待って! ごめんって!』


 ロキはクレアの不規則な剣戟を華麗に躱しながら、距離をとる。


『はぁ、はぁ、どうして勝手にやっちゃうんですか!?』

『いやぁ、ボクは基本的に自分勝手な生き物だからね……てへぺろ☆』

『死ねごらあああああああ!!!』

『本当にごめんって!』

『うぅ……』


 クレアは力なく、ぐったりと項垂れる。


『ま、まぁ……それはそれで凄い強い剣になったからさ。あ、後はあれだ! もし何処かでまたボクを見かけた時はさ何でも言ってよ! 何でもとは言わないけど、興が乗った面白そうなお願いなら聞いてあげるからさ』

『……もういいです』

『……許してもらえたかな?』

『許してないですよ!でも、もう消せないのなら仕方ないじゃないですか!だからもういいです!』

『う、うん。そう言ってもらえると助かるよ。じゃ、ボクはもう行くよ。またね』


 そう言うと、ロキはそそくさとその場を後にした。

 

『うぅ……一体何だったんですかあの男は』


 クレアは涙を服の袖で拭うと、そのまま宿舎の中に戻って行った。


――――――

【とある宿の一室】


 赤髪の青年は自室で優雅に昼寝をしていた。

 すると、部屋の窓から一匹の三毛猫が侵入してきた。

 

『やぁ、フレイヤ姐さん』

『……随分と機嫌が良さそうですねロキ』


 人の言葉を喋る三毛猫はロキの前へと移動し足を折りたたみ座ると、こちらをジッと見つめて来た。


『まぁね。ちょっと好みの女の子を見つけてさ』

『……全くどうしようもないですね貴方は……』


 三毛猫は呆れた表情を見せる。


『……それで?遊んでばかりいた訳ではないのでしょう?』

『いやーそれがね。全く手がかりは見つからなかったよ』

『……そうですか。やはり一筋縄ではいかなそうですね』

『そもそもの話、形も色も何も分からず、一つ分かる事があるとすれば、それが【鍵】である事だけって……無理すぎない?』


 ロキはやれやれといった表情を見せつつ、同情を煽る。


『それでも他の勢力よりも先に見つけねばなりません』

『仮に見つけてもさ。前回の神話大戦の勝者からどうやって【鍵】を奪うのかって話になるんじゃない?』

『……それはフレイ兄さん達が考えているはずです』

『そうだといいけどね』

『とりあえず、貴方は引き続き【鍵】の情報を集めてください。東の太陽神にも、西の雷神にも、南の蛇神にも遅れをとってはいけません』

『ハイハイ』

『頼みましたよ』


 そう言うと、三毛猫は豪快に伸びをしてから、スッと窓から出て行った。


(……まぁ、ぶっちゃけた話、ボク的には誰が世界の支配権を握ろうと――――――どうでもいい話なんだけどね)


 腕を頭の下へと持っていき、足を組みながら再び横になる。


(全く。こんな面倒な事になるくらいならあの日――――――すべての神を殺しておくべきだったな)


 不敵に笑いながら、ロキは天井の木目を眺める。

 

 『――――――まぁ、これはこれで面白そうだから別にいっか』


 道化師はただ静かに嗤った。


――――――――――――

アイスレオン沿岸部【宿舎】


『……クレアさん。ドラコさんとベノミサスさんが居なくなりました』

『……えァッ!?』


 顔を真っ青にしながら、イザベラはクレアの腕をガッチリと掴む。


 太陽が一番高い位置に昇った丁度、お昼時。

 ドラコとベノミサスのドラゴンコンビが唐突として姿を消した。

 

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