宝物庫
『と、いう事情があったんだよ』
『成程、何者かが嵐毒竜ベノミサスを操り、今回の事件を起こしたと』
シャーナは事の経緯を聞き、納得した様子を見せた。
『ですが竜の幼体を【大厄災】へと意図的に成長させようとする、だなんて恐ろしい事を考えますね』
『他国や他大陸に対しての攻撃兵器として利用されかねないよな』
『まぁ、五大陸全てに【逸脱者】が在籍している現状では昔ほど大きな被害は出ないとは思いますが、複数同時に発生した場合は大変な事になるかもしれませんね』
考えたくもない話だ。
それぞれの大陸で【逸脱者】は一人しかいない。
仮に二つ以上の【大厄災】が発生した場合、命の選抜をする事になる。
もしそうなれば大陸中が混乱し、災害後の復興も簡単にはいかなくなるだろう。
そうなれば大陸間のパワーバランスが崩れ、争いの火種になる事だってなくはない。
『とりあえずは今回の事はちゃんと大陸同士で情報共有をしておいた方がいいかもな』
『陛下には私の方からちゃんと報告しておきます』
二人の話が一通り終わったのを確認してから、ドラコがおずおずと前に出て来た。
『アランさん。約束の宝物庫の方へ行きましょう。きっとお父さんもそこに居ると思うので…………』
『……そうだな』
一行はドラコに先導されながら、霊宝山の宝物庫へと足を運んだ。
――――――――――――――――――
【宝物庫】
中に入ると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
歴史のある図書館を思わせる厳格さが部屋中を漂っており、こちらの迂闊な言動を制してくる。
壁一面に積み上げられた宝の山々のみが雄弁に物語を謡っている。
そして、奥を見ると二本の角のあるスーツ姿の男性が血塗れの状態で王座に座っていた。
『お父さん!!!』
そう叫ぶと、ドラコはその男性の元へと走り出した。
『…………ドラコか。よく無事でいてくれた』
二本角のある男性は静かに起き上がると、ドラコを優しく抱きしめた。
そして、こちらの方を向き直し会釈をした。
『貴様らのおかげで娘が助かった。霊宝山の主として、そして、ドラコの父として感謝の意を伝えたい。本当にありがとう』
『宝龍さんの方は大丈夫なんですか? 亡くなったと聞いていましたが』
腹部からの出血を見るに重傷である事には間違いないだろう。
『あのような小童に殺される程やわではない。まぁ……当分はまともには動けないだろうがな』
『命に別条がない様であれば何よりです』
『ところでだ…………』
宝龍はジッ―とクロエの方を見た。
『何故貴様がここにいる?』
『久しいのう、ガルガンティア。二千年ぶりじゃのう』
『貴様が我の龍玉を盗んで以来だな』
『なに、二千年の平和の糧になったのじゃからお主も本望じゃろ?』
『……そうか。ならばよい』
宝龍はどこか安堵したかのような顔をしていた。
『さて、ここに来た理由は概ね察しが付く。そこの魔王以外の者たちに褒美を与えよう』
『なんでじゃ! ワシがお主の娘の傷を治したんじゃぞ!』
『知らぬ。かつての非礼と狼藉を考えれば寧ろマイナスであろう』
『ぐぬぬぬ…………』
シャーナがスッと手を挙げる。
『宝龍殿、私は何もやっていないので辞退します』
『よかろう』
宝龍はゆっくりと立ち上がると、虚空に向かって腕を突っ込んだ。
何かをまさぐるかのように虚空をかき回す。
しばらくすると、一つの銀色のブレスレットを取り出した。
『そこの吸血鬼の少女にはこれをやろう』
イザベラは丁寧に受け取ると、銀色のブレスレットを自身の手首に付けた。
『これは……【氷帝龍】のブレスレットでは?』
『そうだ。あやつの鱗を一流の職人に加工して作らせた【氷帝龍】の秘宝の一つだ』
『ありがとうございますわ。私の氷魔術が今以上に強力になりそうですわ』
宝龍は『次はお前だ』と言わんばかりに俺の方を見た。
『さて、次は貴様な訳だが。一応聞くが、貴様があの嵐毒竜ベノミサスを仕留めた当人で間違いないか?』
『そうだね。まぁ、殺した訳じゃないけどね』
『…………何故殺さなかった?』
『可哀想だと思ったから』
『…………そうか』
宝龍はしばらく悩んだ後、俺を自身の近くに来るようにと手招きをした。
直ぐに近くに寄り、何が貰えるのだろうかと楽しみにしていたら、ドラコが二人の間を割る様に静かに前に出て来た。
『娘のドラコをやる』
『お義父さん、考え直すべきです』
『お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!!!』
『いや、今くれる言うたやんけ』
『そうだ』
情緒不安定の宝龍を尻目にドラコの顔を覗き込んでみた。
涙でやや目が充血しているようだが、これと言って不快感を表した顔はしていなかった。
『とりあえずは理由を聞いても?』
『そうだな…………』
宝龍は宝物庫の天井を見上げ、そしてゆっくりと視線をアランへと移した。
『この世界は、神話の時代が終わり二千年間の平和を謳歌してきた。しかし、それが終わりを迎えようとしている。第二のラッパが吹かれ、終末神話大戦の再来が近い』
『“第二のラッパ”じゃと!?』
静かに聞いていたクロエが声を荒げながら宝龍に聞き返した。
『そうだ。終末へのカウントダウンは“もう既に”始まっている』
『因みにその終末神話大戦は具体的には何時くらいに始まるんだ?』
『分からぬ……七つの災いが訪れた後に来る事は確かだ』
災い?
それって【大厄災】の事を言っているのか?
二十二年前の【炎天】が一回目だとするのであれば、あと“六回”同格かそれ以上の大厄災が来るのが確定してるって事か?
詳しい事は後でクロエにでも聞いておいた方がよさそうだな。
『それでだ…………我も、もう歳だ。娘の成長を最後まで見守り続けたくはあったが…………それが難しい事が此度の件で身に染みた』
『成程ね。俺達と一緒に居た方が安全だと判断したって訳か』
『そうだ。今はまだ娘は未熟者ではあるが、いずれは【源龍】を担う程の龍へと成るだろう。貴重な戦力として見た場合、貴様らにとっても悪い話ではないだろう?』
この先の【大厄災】の事を考えると、戦えるやつが多い方がいいのは確かにそうだ。
クロエの様子から察するに終末神話大戦も相当にヤバイだろうしな。
『分かった。ドラコにはうちのギルドに加入してもらう事にするよ。因みにドラコの方は納得できてるのか?』
『はい。今の私には誰かを助られるだけの力がありません。父の負担になるくらいなら腹を斬って自害した方がいいとすら考えていましたから』
『覚悟決まりすぎてて怖いよ』
そう不敵に笑うドラコにやや引きつつも、その“強さ”に感嘆を覚えずにはいられなかった。
『それとだ――――――』
宝龍の体が煙に包まれたかと思うと次の瞬間には、金色の鱗を輝かせた大きな龍へと変身した。
『この部屋にある我が財宝をそれぞれ三つまで持ち出す事を許そう』
『マジで!?』
アランはドラコ、イザベラ、シャーナを連れながら部屋の財宝を見て周る事にした。
――――――
『――してガルガンティア。腹部からの血は既に止まっているようじゃが……その傷で次の【終末神話大戦】は戦えるのか?』
クロエは真剣な眼差しで宝龍へと問いかける。
『無理だろうな。傷以前に歳の影響でかつて程の力がそもそも出せぬ』
『全く、歳はとりたくないものじゃな』
『貴様は貴様で、魔力の大部分がなくなっているようだが』
『最後の戦いで全部使っちまったからのう…………正直ワシも戦える体ではないのじゃ』
クロエは楽しそうに宝を見て周るアラン一行を見る。
『まぁ、この時代の問題はこの時代を生きる若者達がなんとかするじゃろうよ。ワシら老兵はただ背中を押してやるのがいいのかもしれんのう』
『そうかもしれぬな』
『因みに聞くが、我の龍玉は何に使ったのだ?』
『粉々に砕いて剣の材料にしたのじゃ』
『貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!!』
宝龍の悲鳴のような咆哮が部屋に響き渡った。




