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聖装


 アランは挨拶代わりの【木陰】で奇襲をしかける。

 足元から伸びる黒い影が音もなくシャーナの後方に忍びよる。


『稚拙ですね』


 シャーナは自らの足元に忍び寄る影に銀の槍を突き刺した。

 突き刺された影は、針に縫い留められた布の様にその場から動けなくなり、消滅した。


『光属性の魔力を持つ私が闇属性の攻撃に気が付かないとでも? あまり舐めないでいただきたいですね』

『どうした? さっきから良く喋るじゃん』

『貴方の方こそ、いつもよりも口数が少ないように見えますね』

『今日が初対面だろ? もしかして俺の隠れファンガールだったか? なら後でサインを書いてもいいぞ』


 シャーナは複数の銀色の剣を空中へと出現させた。

 そして、右手をゆっくりとアランの方へと振り下ろす。


『【聖装】フラガラッハ――――――対象を貫け』


 空中で静止していた【フラガラッハ】はシャーナの掛け声を合図にアランへと射出された。

 直線的な軌道で隊列を組みながら迫りくるそれは、容易に回避をする事を許さない。


 アランは【血影】で作成した黒い剣【月影剣】と【壊理剣】の二本の剣でそれを迎え撃つ。

 規則的に襲い掛かるフラガラッハをタイミングを合わせながら叩き落としていく。

 金属を削る音が霊宝山の頂上にて響き渡る。


 アランは一つ、二つ、三つと舞うように斬り落としていき、一呼吸のうちに全てのフラガラッハを叩き落として見せた。

 

『なんだなんだ? 余興はこれで終わりか?』


 アランは調子に乗りながらシャーナの方を見る。

 シャーナはクスリと小さく笑うと、左腕を垂直に挙げた。

 すると、叩き落とされたフラガラッハは直ぐに空中へと浮き上がり、追撃を再開し始めた。


『……マジでふざけんなよ! またかよ!』


 ってか今の一瞬でこっちの【月影剣】はボロボロなのに、あっちの剣は傷一つ付いてないのはヤバいな。

 俺が今作れる最高硬度の剣だぞ……シャーナの剣もこっちと同じく生成された剣のはずなのにここまでレベルが違うのか。

 だけど―――壊理剣なら戦えるな。


 アランさんのあの黒い大剣……ただの剣じゃないですね。

 フラガラッハはそこらの名剣程度では到底太刀打ちできないランクの武器。

 それを一切の刃こぼれもさせずに、あまつさえ叩き落とすとは……。

 警戒をしておくに越したことはないですね。


 シャーナは空中を舞うフラガラッハの一本に飛び乗る。

 そして、まるでオーケストラの指揮者のように腕を動かし、複数のフラガラッハをコントロールし始めた。


『舞えフラガラッハ』


 直線的な動きだけでなく、それぞれが不規則な軌道でアランに襲い掛かる。


『おいおいおい、大道芸人じゃねーんだぞ!!!』


 走りながら【楔影】を細かく地面に突き刺しながら高速移動をし、ギリギリのところで辛うじて躱していく。

 そして、地面に突き刺さった何本かのフラガラッハはそのまま姿を消した。


 このまま躱し続けても埒が明かねぇな。

 直接本体を叩くしかない。


 【血影】で竜の翼を再現する。

 陰で翼の形を作り、血でそれを覆うようにコーティングする。


『魔王流 七十式――――――』


 アランは襲い掛かる剣の雨を躱していき、宙に浮くシャーナの下をとった。

 更に【楔影】をシャーナが乗っている剣の柄に巻き付け、【火柱】で追撃を行う。

 しかし、シャーナは一瞬ジャンプをし、剣を回転させ楔影を切断する。

 そして、自身の背後に隠しておいたフラガラッハで火柱を叩き斬った。


『その一瞬を待ってた』


 アランは自身の足裏に風属性の魔力を集中させ、一気に放出する。

 

『【馬天空裂(ばてんくうれつ)】』


 火柱による空気抵抗の低下と、風属性の【風斬(かぜきり)】による推進力の上昇。

 瞬きをする間も与えずにシャーナの足元へと迫り、シャーナが乗っているフラガラッハを弾き飛ばした。


 アランは地面へと落下しているシャーナへと近づき、止めの寸止めで試合を終わらせようとした。

 地面へと着地し、壊理剣をシャーナの首元に突きつけようとしたその時

 

『――――【聖装解放】アイギス』


 壊理剣の剣先で複数の小さな銀盾が、グルグルとシャーナを護る様に展開されていた。

 アランは壊理剣に力を入れ、何とか斬ろうと試してみるが、盾は傷が付くこともなくそのまま回り続けた。


『これは私が持っている武器の中で最強格に位置する盾の一つです。そして――――――』

 

 シャーナは自身の右腕を肩の高さと水平になる様に伸ばす。

 キラキラと輝く光の結晶が右の掌に集まっていき、一本の剣を形作る。


『【聖装解放】――――――クラウ・ソラス』


 見る者を飲み込むかのような圧倒的な存在感を放つその剣は、【感嘆】と同時に“絶対に勝てない”という【絶望】を否応にも突き付けてくる。

 アランは震える右腕を左手をガッチリと掴み力を入れる。


 とんでもねぇ剣だな。

 光で剣の部分が全く見えない辺り、闇属性は絶対に殺しますって言ってるみたいじゃねーか。

 それにしても……一番の問題はやはりあの盾ではあるか。

 仮にシャーナの攻撃を躱せても、あのクソ硬い盾を攻略しなきゃただこっちの体力が消耗するだけだ。

 ただでさえ連戦による疲労が溜まってる状況なんだ、短期決戦以外に勝ち筋は無いと見るべきだろう。

 あんまりこうゆうやり方はしたく無かったが――――――仕方ないか。


『凄い綺麗な剣だな。まるでシャーナの様じゃないか』

『急にどうしましたか? 私を口説いても手加減はしてあげる程度にしかなりませんよ?』

『いや何、先の戦いでもう体がボロボロでさ、ぶっちゃけもう魔力が残ってないんだよね』

『それはご愁傷様です。では大人しくこちらの指示に従ってもらってもよろしいですかね?』

『それが出来ないからこうして戦ってるんだろう? とは言ってもだ――――――』


 アランはゆっくりとシャーナへと歩いて近づく。

 

『俺達が戦っても別にガリアが得をするわけでは無い訳だろう? それって凄い不毛なんじゃないかと思ってさ』

『確かにそうですね。ですが今更話し合いで解決できるとでも思っているのですか?』


 シャーナがその気に成れば俺の事なんて無視してベノミサスを始末する事が出来たはずだ。

 仮に彼女の判断が間違っていたとしても、それを咎められる者はガリアには居ない。

 何故なら彼女はこの大陸の最高戦力だからだ。

 では何故、シャーナはそういった行動をとらなかったのか?

 答えは簡単だ。

 彼女は優しいのだ。

 別にガリアに命を捧げている訳でもなく、なんならガリア市民ですらない俺の言葉に耳を傾け続けてくれている。

 わざわざフラガラッハで追い掛けっこをするまでもなく、あの光の剣で奇襲をしかけていれば俺に勝ち目はなかった。

 だけど真面目な彼女はきっとそんな汚いことはできないだろう。


 たがしかしだ、それは彼女の怠慢であるとも言える。


『そこで倒れているベノミサスには娘がいるんだ。あっちに龍人の娘が見えるだろう?』

『あそこに居るのは宝龍の娘のドラコさんでしょう? そんな嘘に騙されるほど愚かではありませんよ』

『あぁ、そうだ。確かに“宝龍の”娘でもあるな』

『!?……』


 シャーナは何かを考えるかのように目線を下に移した。


『理解できたか? そもそも話だ、“何故”俺がわざわざあのベノミサスを生かしていると思う? 別にアイツとは知り合いでも何でもない初対面で、しかも普通にこっちは殺されかけているんだぞ?』

『…………成程。確かに一理ありますね』

『それにだ、ここで母であるベノミサスを殺したら娘であるドラコはどう思うよ? 霊宝山と沿岸都市アスラとの関係性は破綻すると言っても過言ではないだろう?』


 アランは壊理剣を背中にある鞘に納めた。

 その動きを見て、シャーナもまた武装を解除した。


 その瞬間、アランはシャーナとの距離を一気に詰め壊理剣に手をかける。


『―――なっ!? 卑怯な!』


 シャーナは咄嗟に左腕を挙げ、地面に隠しておいたフラガラッハでアランの攻撃を防いだ。

 

『オイッ! おめーも卑怯じゃねーか!』

『貴方に言われたくないです!』


 シャーナは再び武装をしようと魔力を集中させる。

 しかし、アランは自らの左腕を引きちぎりシャーナへと投げつけた。


『ちょ、ちょっと待ってください!!!!』


 突然投げつけられた左腕を手に持ち、どうしたらいいのか分からずシャーナはアタフタとした。


『…………チェックメイトだ』


 アランはシャーナの首元に壊理剣を突きつけ勝利宣言をする。


『……流石に怒ってもいいですかね?』

『ガリアが誇る栄光ある騎士様は――――――戦場でも同じような言い訳をする感じなのか?』

『…………分かりました。私の負けです。完全に油断してしまいました』

『そう気を落とすなって。普通に戦ってたら間違いなく俺の方が負けてたしな』

『……そのニマニマ顔をやめてもらっても?』

『両親から貰った大切な顔なんだが?』

『ぐっ…………』


 良心があるが故の弱さってやつだな。

 まぁ、信じる事の出来る強さでもあるが。

 ってか

 はぁ…………勝てるビジョンが全く思い浮かばなかったな。

 あの盾と剣の能力を知るまでもなく、今の俺じゃ勝てないと本能で理解しちまった。

 きっと、たった一振りでもされていたら俺は死んでいただろう。

 …………悔しいな。


『なんじゃアランそのクソ雑魚ナメクジみたいな顔は』

『いやどうゆう顔だよ!!!』

『こんな顔じゃ』


 クロエは両手で自身の顔をぐにゃりと挟む。


『いつもと大して変わらな――――――クロエは何時も可愛いだろ! いい加減にしろ!』


 とてつもない殺気に気圧され、自身の千切れた腕でクロエの頭を撫でる。

 

『…………俺は一体何をやっているんだ?』

『それはワシが聞きたいくらいじゃな』

 

 すると、後方からにっこり笑顔のイザベラさんのドロップキックが背中に飛んできた。


『グボァ――――――ッ!!!』


 ズシャーと前のめりで倒れ込む。


『全く。せっかく応急処置をしてさし上げたのに、一体貴方は何を考えているのですか?』

『いやさ、これしかこの状況を打開する方法が思い浮かばなくてさ』


 アランは少し寂しそうにドラコと話をしているシャーナの方を見た。


『なんじゃアラン……悔しいのか?』 

『まあね。ぶっちゃけ勝てる気がしなかったわ』

『遠くから見ておったが、確かにあの盾と剣は厄介そうではあったな』

『でしょ?』

『まぁ、お主はまだまだ成長途中じゃからな。そう気を落とす事もなかろうて』


 クロエはよしよしとアランの頭を撫でる。

 そして、アランは何故かイザベラの頭を同じように、よしよしと撫で始めた。


『これが俗に言う【間接よしよし】ってやつだよね』

『殺しますわよ』

  



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