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龍の巫女


 草木は毒に犯され枯れ果て、道中には小型の飛竜の死骸がそこらかしこに散乱していた。


『こりゃあヤバいな……俺達と同様に毒耐性のない個体は普通に毒のダメージを受けるっぽいな』


 クロエは飛竜の死骸に近づき、その口から垂れている毒を手に取る。


『ふむ。これはバジュラの毒じゃな』

『バジュラ?』

『二千年前におった邪毒竜バジュラじゃ。じゃが、ワシと戦神クレイノスがちゃんとぶっ殺していたはずじゃから別個体、もしくは同性質を持った何かになるな。不死性はあったがちゃんと燃やして確殺をしておいたからバジュラではないのじゃ』


 ここ最近の魔獣の個体数の増加に加え、二千年前の化け物と同じ性質を持つ“何か”の出現。

 極めつけには世界最強の魔王も復活しているときた。


 ……きな臭いったらありゃしないな。


『因みに聞くけど、仮のそのバジュラが生きてたとして……俺がその毒をくらったらヤバイ?』

『確実に死ぬのう。当時のワシでさえ直接触れようものなら致命傷になるじゃろうしな』

『二千年前怖すぎだろ』

『神話の時代じゃからな。神の祝福を受けている個体は基本的には不死で、当然のように確殺級の技を持っていたからのう』


 神話の時代に産まれなくて本当に良かった……。

 ってか冷静に考えると、その時代の覇者が目の前にしれっと居るの普通に考えてヤバイな。


『全くですよ。わたくしはクロエ様と出会えた事に関しては感謝していますが、それ以外はクソゲーとしか言えない世界でしたよ』

『え、イザベラって暴れてた側じゃないの?』

『失敬な。わたくしはずっと閉じ込められていたので悪い事はしてませんよ。……まぁ、お姉さまが色々とやらかし周っていたというのはありますがね』


 イザベラは少し悲しそうな顔をしながら飛竜の死骸を見下ろす。

 すると、イザベラはふと何かに気が付いたのか飛竜の死骸を触り始めた。


『……おや? この飛竜の下から“別の”血の匂いがしますわね。――人間でしょうか?……でもちょと違うような』

『マジで!? 人的被害出てんのかよ』


 俺は急いで飛竜の死骸を持ち上げ移動させる。

 するとそこには、長い緑髪の女の子が横たわっていた。


『いやいやいや、なんでこんなこんな幼い子供がこんな所に居るんだよ! ふざけんな』


 イザベラは茶髪の少女の首に手を当てる。


『生きてますわね。ただ、かなり危険な状態です』

『クロエならなんとかできそうか?』

『誰にモノを言っておるのじゃ』


 クロエが少女の胸に手を当てると、キラキラと光ったオーラが体から溢れだした。


『借り物の力ではあるが、この程度の傷なら闇属性のワシでも治せそうじゃ』 


 光の粒が少女を優しく包み込むと、毒に犯された部分がみるみると回復していき綺麗な状態へと戻った。

 すると、グフッと音を立ててクロエが吐血をした。


『クロエ大丈夫か!?』

『問題ないのじゃ』


 通常、闇属性の魔力持ちは光属性の魔術を使用する事は出来ない。

 自身の魔力属性ではない属性であっても、生物の体には火、風、土、水の四大属性の魔力が微量に含まれている為、出力が落ちはするが使用する事が出来る。

 しかし、闇と光はその限りではない。

 完全なイレギュラーである二つの属性に関しては、その属性の魔力がないと使用する事が出来ない。

 

『クロエ様!? 今のは光属性の魔術では!?』

『そうじゃな。ワシは諸事情でちょっとだけ光の魔術が使えるのじゃ。その代わり、反発属性じゃから使用すると結構なダメージを受けることになるがな』


 そう言うと、クロエはアランの背中をよじ登り首元に噛みついた。


『クロエ様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?????』


 イザベラは目ん玉が飛び出るんじゃないかという勢いでこちらに駆け寄った。 


『そ、それはわたくしのエナジードレイン』

『そうじゃ。結構便利で助かっておる』


 イザベラはわなわなと震えながら、血の涙を流す。


『ど、どうしてわたくしの血をお吸いにならないのですかー!?』

『なんかキモイからいやじゃ』


 ガクリと膝を地面に着き、イザベラは絶叫する。


『うわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』

『いや、うるせーよ! ここ敵地だぞ!?』

『うるさいこの泥棒猫! うんこ! 死ね!』


 イザベラは血涙でぐちゃぐちゃになった顔でこちらを威嚇する。

 普通に顔が汚くてちょっとドン引きである。


 そうこうしていると、先ほどの少女が『うーん』と声を出しながらのっそりと起き上がった。


『……あのー。どちら様ですか?』

『見て分からないかい?』


 少女はこちらをジ―っと見つめる


 顔をぐちゃぐちゃにし倒れている銀髪の少女

 現在進行形で血を吸われてる成人男性

 成人男性の首にもごもごと口を付けて血を吸っている黒髪の少女  


『……変態さん達ですか?』

『正解』


 俺はグッと親指を立てる。


『俺達は霊宝山の異変を探索しにここに来たんだけどさ、君はこんな所で何をしていたんだ?』

『変態達に喋る事は何もありません』

『その変態に傷を癒してもらっておいてその言い草はないよねぇ。ちょっとお兄さん傷ついたわ』


 少女はパッと目を見開き、自身の体をぺたぺたと確認し始める。


『嘘……傷が無くなってる』

『俺の首に噛みついてる彼女が君の傷を癒してくれてたんだよ。にも関わらず……一方的に突き放すなんて酷いよ……』

『ご、ごめんなさい! そうとは知らずに私……。私の名前は【ドラコ】と申します。助けていただき本当にありがとうございます』


 少女は深々と頭を下げ、感謝の意を示す。


『俺の名前はアラン。で、首元に嚙みついてるのがクロエで、あっで死んでる銀髪がイザベラね』

『はい! 覚えました!』

『それで、最初の質問に答えてもらってもいいか?―――“ただの少女”がこんな所に居る理由をね』


 ドラコはアランの言葉を聞くと、やや下に目線を移し何かを考えている仕草を見せた。

 しばらくすると、顔を正面に向け覚悟を決めた表情を見せる。


『私はただの少女ではありません』


 ドラコが右手を頭上へと伸ばし、手をくるっと一周させる。

 すると、一陣の風と共にその正体を現す。


『……その角と翼は最近の流行ファッションだったりする?』

『いえ。私は……宝龍の娘、つまりは【龍人族】なのでこの角と翼は自前のものです』


 ……宝龍君、君“ヤった”ね?

 

『ほう、龍人族と来たか』

『なんだクロエ知ってるのか?』

『うむ。二千年前に【(ドラゴン)狩り】の異名を持つ龍人族を知っておってな』

『え、龍と竜って同じ生き物じゃないの!?』

『その昔は(ドラゴン)と龍は対立関係にあってのう。まぁ、この話は長くなるからまた今度するのじゃ』


 ドラコは二人の近くに歩み寄り、角と翼を良く見せて来た。


『とは言っても今は、長い年月によってだいぶ血が混じり合っていますから容姿に大きな差はありません。私が龍でありながら翼を持つのはそれが理由です』

『なるほどな。それで? 龍人族の君が麓付近で倒れていた理由を聞いてもいいか?』

『はい……。実は、私の父である【宝龍】が七日前に殺されました。嵐と共にやってきた【災厄】――嵐毒竜ベノミサスに』


 ……まぁ、なんとなく予想はしてたけどヤバそうだなぁ。


『それでベノミサスの支配が完了するよりも前に、父の命令で何体かの飛竜と一緒に脱出しました。そこで亡くなっている飛竜は最後まで私を護ろうと尽力してくれました……。』


 ドラコは先ほどまで自身に覆いかぶさるように死んでいた飛竜の翼を優しく撫でる。

 その青色の瞳には様々な感情が入り混じっているように見えた。


『教えてくれてありがとう。大体の状況は理解出来たわ』


 トテトテと力のない足取りでドラコはアランへと近づき、自身の顔をアランの胸へと預けた。


『……私は何も出来ませんでした。多くの仲間達が死んで行っているのに……私だけが逃げ、生き残ってしました……。アラン様……どうかお力を貸してはもらえませんか?』

『考えとく』

『どうしてですか! 流れ的に協力してくれる感じだったじゃないですか!』


 ドラコはポコポコとアランの胸を叩く。


『嵐毒竜ベノミサスってやつがどんな奴なのか分からないし、宝龍側が正義って確証もない。そもそもの話、俺達は【宝龍の討伐】を目的で来てる訳だしな』

『そんな……』

『とは言え―――』


『正直この毒霧って普通に邪魔くさくて近所迷惑も甚だしいし、それに何より――――飛竜をNTRしてるはちょっとムカつくよな』


 ドラコはパァーと顔を輝かせアランの顔を見上げる。


『因みにお礼って何かもらえたりする?』

『はい! 私の初めてをあげます!』

『ごめん。ちょっと用事を思いだ―――』

『嘘です!!! スッゴイお宝が沢山あるので!』


 発狂して倒れているイザベラと、血を吸ってちょっと眠そうな顔をしているクロエの横で、種族間の壁を越えた契約が成立した。

 


 



 

 













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