来訪者
体調不良であまり書けませんでした……すまヌメルゴン。
『えーっと。お嬢ちゃんどこのお家の子かな?』
透き通るような金髪を赤い紐で一つに結んだ少女が、ギルド【絶対無敵天上天下唯我独尊世界最強魔王軍】の拠点の前でポツンと立っていた。
『御機嫌よう。私の名前はシャーナ・ハイド・アルバレスと申します。アラン様はいらっしゃいますか?』
『あぁ。このイケメンで如何にも優男って見た目の俺がアランだね。申し訳ないけど未成年者からの求婚は受け付けてないよ?』
『ぶっ殺しm……ガリア王家126代目ジーク・ハイド・ガリア国王陛下からのクエストをお届けに参りました』
王様からの勅令!?
ギルド名に対しての罰則とかなら理解できるが……王自らがクエストを発令!?
となると何らかの意図があるのは間違いないな。
街全体に対してではなく、俺達をピンポイントで指定してきたって事は……おそらくは実力を確かめる為のものであると見て間違いなさそうではある。
ただ、ここで簡単にクエストを引き受けたら、王の都合のいい道具に成り下がってしまう危険性が出てくる。
とりあえず、まずは冷静に詳細を聞いてみるか。
『どうかしましたか?』
シャーナは怪訝そうにこちらの顔を覗き込んできた。
『いやなに、君の髪があまりに美しくてつい目を奪われてしまってね』
『あ、ありがとうございます』
シャーナはまんざらでもない反応を見せる。
ふーん、可愛いじゃん。
『とりあえずは中に入ってくれ。ギルドメンバー皆でクエストの詳細を聞きたいからさ』
『分かりました』
――――――
『って事で紹介するよ。シャーナ・ハイド・アルバレス。俺の娘だ』
『アランさん!?』
シャーナはアランの袖を掴みながら、驚愕の表情を見せる。
『勿論、冗談だ。なんか王様からの直接のクエスト依頼が来たみたいでさ』
すると、少し遅れて部屋に入って来たクレアが、手に持っていた練習用の木刀を床に落とした。
『シ、シャーナ様!?どうして貴方様がここに?』
その顔は、驚きと困惑がぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
『なんだクレアの知り合いか?』
『馬鹿者!この方はガリア唯一の【逸脱者】にして、ジーク国王陛下のご息女であらせられる御方だぞ!』
『なん……だと』
『貴方はルーナから一体何の話を聞いていたのですか!』
『……そういやシャークだかシャーナやらフォークだか言ってたような』
クレアは素早い動きでアランに近づき、強烈な一撃を腹部へと叩きこんだ。
『シャーナ様大変申し訳ございません。この者は田舎者故、礼儀作法を弁えておりません』
『構いませんよクレア。それと、ご息女とは言っても私は“養子”として迎え入れられただけですので、王族としての扱いをしなくても結構ですよ』
『なるほどおっけー。じゃ、気軽にシャーナって呼ばせ――グボォアッ!!!!』
クレアはアランの背後から腕を伸ばし、そのままの流れでバックドロップをかまし頭をカチ割った。
アランは頭から血を流し、地面に横たわった。
『だ、大丈夫ですか!?』
『はい、大丈夫です!この方はこう見えて【S級】上位の実力者ですので、この程度の攻撃では―――アランさん!?』
アランは血の池の中で、全身をピクピクと痙攣させながら魚のように飛び跳ねていた。
『全く、何をやっているのですか』
イザベラは呆れた顔をしながらアランの頭を片手で掴む。
すると、血の池がみるみると無くなっていき、綺麗さっぱり元通りになった。
すると、アランはキリッとした表情で立ち上がった。
『大丈夫でしたか!? あと、そろそろ話を進めてもよろしいでしょうか?』
『何を言っているんだ? 俺たちはシャーナが説明をするのをずっと待っているの―――いや続けてくれ』
クレアの鬼の様な形相の前に普通にビビッてしまった。
――――――
『今回のクエストは、私と一緒にガリア大陸北部に位置する山脈【霊宝山】に同行してもらい、そして、その最奥に居る【宝龍】の討伐を行ってもらいます』
『【宝龍】って魔獣か?』
『いえ違います。古【霊龍山】を宝の眠る山脈へと変えた、約二千年前に最強種と呼ばれていた【源龍】の一柱、またの名を【金龍】。それが今回の討伐目標の【宝龍】です』
いやいやいや待て待て。
どう考えても軽々に喧嘩を売っちゃいけないタイプのやつやん……。
『因みにその【宝龍】ってちゃんと実在してるのか? 御伽噺とかではない?』
『実在しています。なんでしたら会話をした事もありますし』
『……え、何で討伐すんの? 会話できるレベルで知能が高くて、おそらくとんでもない力も持ってる。宝を護っているだけのやつをわざわざ刺激して二次災害を引き起こすリスクを負う意味が分からないな。―――もし“護られている宝”が目当てなら断るが』
いくら国益になるとはいえ、引きこもりから強引に宝を奪い取るというのは賛同できない。
『……一週間ほど前に【宝龍】との間にあった連絡網が突如として途絶えました。更に、その後から【霊宝山】に住まう小型の竜達が近隣の村々の食料地を荒らし始めたのです』
『なるほど。それで国王陛下は【宝龍】の乱心と断定して討伐命令を出したって事か』
『概ねその解釈で問題ないかと』
『因みに今までは【宝龍】達はどうやって食料を調達してたんだ? あと【霊宝山】の環境の変化等の情報も欲しいな』
『【宝龍】達の食料問題に関しましては、近場の魔獣を狩って生活をしていたのが分かっています。環境の変化等に関しましては、周辺の村々曰く「山脈全体を囲うように毒の様な霧が立ち込めている」との事です』
うーん。
なんというか、きな臭いなぁ~。
魔獣の数が減った影響で村に降りて来たって線が一番無難ではあるけど、数年前から魔獣の個体数は増えてるって話だし、毒の霧の話も正直妙だよな。
そもそもの話、わざわざ【宝龍】陣営が毒霧を撒くメリットなんてないんだよな。
魔獣の数は減るわ、周りからのヘイトを集めるわ、宝を護る側がわざわざそんな事をする理由がない。
ガリアの山脈への進行を行う口実ができるってのは避けたいはずだし、その為の連絡網の設置だろうと思うしな。
現段階の情報を整理すると
ガリア帝国による進行の口実作り、つまりは自演工作
もしくは……
“第三者”の介入と見るべきだろうな
なんなら、その両方の可能性だってある
『ワシは行って見る事に関しては賛成じゃな』
珍しくクロエが口を挟んで来た。
めんどくさそうな事だと分かった瞬間、俺の影に潜んで昼寝をかますあのクロエがだ。
『もしかして知り合い?』
『いや、知らん』
『ならどうしてだ? 別にクロエにとってメリットがあるような話じゃないと思うが』
『ふむ。――お主にとっても良い修行になりそうではないか?』
三年間の修行を終えたとはいえ、俺はまだまだ【最強】には届いていない。
それを見据えての発言だったって事か。
『と言うのは建前で、この時代の【龍】を見てみたいのじゃ』
『ごめん今度からそっちを建前にしてもらえる?』
シャーナはクロエの方に向きを直し、マジマジと顔を見つめる。
『このギルドの長はクロエ様であると聞き及んでおりますが……了承を得られたという事でよろしいでしょうか?』
『いいぞ』
『いや、待て待て! 一旦他のメンバーの話を聞いてから返答すべきだろ』
俺は冷静な意見を求めるべく、皆の方を向いた。
『私は元帝国騎士団の人間。断る理由がありません』
『ドラゴンのお肉って美味しいのかな!?』
『わたくしはクロエ様と一緒であれば何処へでも!!!』
ふーん、――――――そっか
『【霊宝山】か……いつ出発する? 俺達も同行する』
『周りに流されやす院』




