愛吐き
うそつき。でも、あいしてる。
悲愛傾向強めです。
それでも良い方どうぞ↓
ポロポロ ポロポロ。
とめどなく溢れては、落ちていく。
「うそ、つ…き……。」
「…………ごめん。」
「ずっと……、ずっと一緒って言ったじゃない…!!」
「…………ごめん。」
ポロポロ ポロポロ。
白いシーツに染みを作る。
「手術、成功って……っ。」
「…………うん。」
「私、ずっと……っ。」
「…………泣かせたくなかったんだけど……、結局泣かせてしまったね。」
「当然でしょ、バカ!!」
「元気で安心した。」
「怒ってんのよ、私は!!」
「うん。ソレが、何よりうれしい。」
「……バカじゃないの。」
「かもしれないね。」
細くなった腕。
力のない、少し震えた手。
「幸せになれ、絶対。」
「…………っ。」
「死んでも俺、お前に憑いてるから。」
「……、そこまではいらない。」
「いらないって、ひどいなぁ。」
うそ。
貴方にはずっと居て欲しい。
愛した貴方にだけは、傍に居て欲しいの。
「咲楽。」
優しい彼の声が、鼓膜を震わせる。
「俺の、咲楽。俺の一輪華。」
頬に触れる彼の手が、大きくて、細くて。
コツンと合わさる額は、出会った頃と変わらずに温かくて、優しくて。
「枯れないで、枯らされないで。ずっと、笑ってて。」
「無理よ……、貴方が傍に居ないと、笑えない……っ。」
「笑って、咲楽。俺の分まで、涙が枯れるくらい、声が渇れるくらい。」
ポロポロ ポロポロ。
出会った頃から変わらない彼の優しい声が、侵食みてくる。
身体を巡る血液みたいに。
「咲楽。大丈夫。君を死ぬまで幸せにする人間は俺じゃなかったけど、たくさんの人が居る。俺じゃない誰かに幸せにしてもらうんだぞ。」
「わ、たし……は……っ。」
貴方じゃないと、ダメなのに。
「俺の、お願い。」
「…………っ。」
最後の。
そう、言ってる気がした。
「…………わ、かった。」
そういえば、引っ付けていた額が離れて。
優しく頭を撫でられる。
「その代わり、俺、咲楽が死んだら一番はじめに迎えに逝くから。」
「…………。」
「それまで三途の川渡らずに待ってるから。死後の世界ではずっと一緒だ。」
「…………、死んでからも好きな自信あるの?」
「ある。だからもう、泣くな。」
「…………。」
「迎えに逝ってやるから、笑ってろよ俺の咲楽。」
そう言って笑う姿は、弱々しさなんて感じなくて。
元気だった頃の彼、そのままだった。
あれから幾年月が流れ、私は……あの頃の彼と同じように病院のベッドの上で。
奇しくも、あの頃の彼と同じ部屋の、同じ位置に置かれたベッドに。
「…………やぁね、年をとるって。」
窓から入ってくる風は、あの頃と同じようにカーテンを揺らす。
「ふふふ。死ぬ時はベッドの上でとは思っていたけれど。まさか、病院のベッドの上なんてねぇ。介護施設に入れてくれれば良かったのに。」
「咲楽さんが病院が良いって言ったのよ。」
「そうだったかしら。ふふふ、やぁね、年をとるって。」
カーテンが揺れる。
「じゃあ、安静にしててくださいね。何かあったらナースコール押すんですよ。」
「はいはい、わかってますよ。」
看護師さんが、そう言って立ち去って行く。
部屋に、ポツンと残される。
揺れるカーテンの隙間に、かつて見たことのある男の人が立っていて。
「…………あら。なぁに?お迎えに来てくれたの?」
彼は、優しく微笑んでいる。
「一番に迎えに来るって言ってたものねぇ。でも、これは早すぎないかしら。フライングよ、フライング。アウト。」
『デートに五分前行動は当然だろ?』
「あら。これは、デートなの?」
『当然。エスコートは、俺。んで、エスコートされるのは咲楽。』
ニコリと笑って、ふわりとベッドの傍へと近づいてくる。
『咲楽、相変わらずキレイだな。』
その言葉に年甲斐もなく、ドキリとする。
「あらヤダ。貴方って、還暦超えたおばあちゃんも許容範囲だったのね。」
『咲楽限定だけどね。』
「……ふふふ、相変わらずね。貴方も、カッコいいままだわ。」
温かな日差しのせいだろうか。
それとも、心地良い風のせいだろうか。
瞼が重たくて。
『眠いなら、横になった方が良い。』
「でも、もう少しお話したいわ。」
『いくらでもできるから。今は、おやすみ。』
促されるまま、ベッドに横たわる。
ただソレだけなのに、眠気が襲ってきて。
『おやすみ、咲楽。』
「そ、ばに…………。」
『長生きしろよ、咲楽。俺、もうちょっと待ってるから。』
泣きそうな声でそう言う彼に、泣きそうになる。
「……愛吐き。」
そう言えば、泣きそうな顔で笑って。
『愛してる、俺の咲楽。俺の一輪華。美しく咲いて散るんだぞ。』
「愛吐きよ。貴方は、ずっと…………。」
目元を雫が伝う。
ポロポロ ポロポロ。
あの頃と同じ。
唯一違うのは二人揃って泣いてること。
『愛した女のためなら、嘘くらいつくさ。』
温度も感じない手のひらが、優しく頬に触れて。
触れているハズなのに、何も感じない手。
『長生きしろよ。』
何も感じない口づけと雫が、ジワリと滲んだ。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝