十三話
「パーティを?」
「ああ」
冗談……を言っている様子ではなかった。おっさんは思わずその場に立ち止まり、頬を掻く。
「どうして俺を? ダンプリ時代の親しいフレンドもいるだろ?」
「それもそうなんだけど……今は何より、即戦力になる人に加入してもらいたいんだ」
「そりゃまたどうして」
おっさんが問いかけると、賢人は真剣な面持ちを崩すこともなく、答えた。
「……マコト。多分、あんたと同じ理由だと思う」
「!」
そこでおっさんは理解した。ダンプリ時代のフレンドではなく、即戦力……つまり、『地下迷宮』を踏破し、『大森林』に入場することができる人間を探している理由を。
「……そうか。お前も、『黄金のリンゴ』狙いか」
賢人は、首を縦に振る。
ダンジョン攻略において即戦力が欲しい理由は様々だ。賢人が求めていたのは、攻略を開始するまでの速度。黄金のリンゴがある大森林エリアに入るには、ダンジョンの特性上、地下迷宮エリアを踏破していなければならない。
この踏破というのは、『ダンジョン入り口から地下迷宮10層に転移し、正当な手順を踏んで地上へと帰還する』という意味が含まれている。実はボス討伐の可否は問われなかったりするのだが……。
つまるところ、おっさんたちが帰還してから国による調査が始まり、一般人の入場が規制されていた以上、今現在大森林エリアに進むことができるのは、初回転送の生き残り50人と、その後調査で地下迷宮を踏破した調査の人間だけだということだ。
その中にゲーム時代のフレンドが含まれていなかったのか、はたまた素性も知らない人間をパーティに迎え入れることはできないと判断したのか……黄金のリンゴを最速で手に入れるためには、生還者であるおっさんを誘うのが、最も効率が良いということだ。
「マコト、黄金のリンゴに関する情報はどれくらい持ってる?」
「情報? 地下8層にある隠しエリアにあるモンスターからのドロップ品ってことと、隠しエリアの場所くらいしか……あれが見つかった時には、もう上位回復薬を手に入れてたからな」
丁度、ゲームがクリアされる半年ほど前だっただろうか。時期が時期故に、黄金のリンゴ自体が必要ではなかったおっさんは、それほど多くの情報を仕入れていたわけではない。
「そうか。だったら、悪いニュースを教えてやる」
「悪いニュース?」
一体何のことだろうか。おっさんが首を傾げると、賢人は重々しい雰囲気の中、告げた。
「——黄金のリンゴを落とすゴールデントレントは……一度倒すと、二度とリポップしない」
「なにっ……!?」
リポップ、つまりモンスターの再出現。通常のモンスターであれば、討伐から一体時間経過後。ボスモンスターであれば、討伐後、ボスエリアからプレイヤーがいなくなってから一定時間経過後にリポップする。オンラインゲームという性質を考えれば、それは当然のことだった。
しかし、目的であるゴールデンタレントは、一度倒せば二度と再出現しないのだという。おっさんの知る限り、そのようなモンスターはダンプリには登場しなかった。勿論、特殊なイベントボスならば、『1プレイヤーにつき一度しか討伐できない』、なんてことはあったが……ゲーム全体での出現が一度限り、なんて話は聞いたことがない。
「いや、正確には特殊なリポップ条件があるのかもしれないけど……俺の知る限り、ゴールデントレントが目撃されたのは、隠しエリアが発見されたその時だけだ」
「嘘だろ……ってことは、黄金のリンゴも?」
賢人は再び、首を縦に振る。
「このタイミングで手に入れたいなら、他の誰よりも早く、地上8層に辿り着くしかない」
「そうか。それで俺を……」
どんな傷をも癒す、ゲーム序盤においての最強回復アイテム、黄金のリンゴ。これは隠しエリアの先にいる、ゴールデントレントを討伐した際に入手できるものだ。
つまり、そのゴールデントレントが出現しないとなると、手に入れる手段がなくなってしまう。
本来なら、黄金ののリンゴなど無視して、先に進めばいい。現に、ゲーム時代では多くのプレイヤーがそうして進み、攻略を進めてきた。おっさんたちがこれを求めているのは、全て、眠りから覚めない2人のため。
(2人の容体は安定してる……が、急変する可能性だってある。いつまでも安全だと思わない方がいい)
黄金のリンゴ入手は、おっさんにとっては最重要タスク。他の何よりも優先すべきことだ。
「どうだ。互いに損はない話だ。勿論、2人が意識を取り戻した時、あんたが望むなら、パーティからは抜けてもらって構わない」
「そりゃ、損はない話だが……お前はそれでいいのか?」
「ん? どういうことだ?」
おっさんの問いに、賢人は首を傾げた。
「俺みたいな素性も分からない人間を……それも、見た目と言動が一致しないような怪しい人間を、パーティに入れていいのか?」
「っ、それは……」
安全性を考えれば、3人パーティよりも4人パーティがいい、それは分かる。そして、そのために大森林エリアに進むことができる人間を探しているのも分かる。
しかし、だからといって、おっさんのように怪しい人間を加入させることには疑問がある。自分が怪しい人間であることは、おっさん自身が一番よく分かっているのだ。美少女の見た目をしているのに、おっさんのような言動をしている人間なんて、怪しいに決まっている。
ダンジョンの中で剛と出会ったときは、状況が状況だから手を組んだ。ボスの討伐だってそうだ。だが、今は違う。他の人間を差し置いて、おっさんが選ばれる理由はない。
無論、おっさん自身は賢人たちと手を組みたいと思っている。ボス攻略で信用ができる人間だということは知っているし、実力もある。境遇だって似たようなものだ。
しかし、信用や信頼というのは、一方的なものでは成り立たないのだ。お互いがお互いを信用してこそ、信頼してこそ、初めて成り立つものだから。
おっさんの言葉に、賢人は酷く、申し訳ないような顔をする。どうやら、落ち着いて考えられたようだ。
「……悪い。そこまで考えてなかった。言われてみればそうだ。確かに、マコトは見た目の割に男みたいな言葉遣いだし、妙に大人びてる。端的に言って、怪しい」
「そうだろ?」
思ったよりもストレートすぎる言葉に、おっさんは若干傷ついたが、賢人の意思を尊重しようと平静を装った。
……が。
「だけど、命の恩人のために、毎日見舞いに来るようなやつだ。他の誰よりも信頼できる」
真っ直ぐに向けられる、迷いも曇りもない瞳に、おっさんの心は揺らいだ。
「……そうか」
信用や信頼は、一方的なものでは成り立たない。賢人がそう言ってくれるのなら、おっさんもまた、賢人を信頼することに決めた。
「俺からも頼む。黄金のリンゴを手に入れるために、協力してくれ」
「ああ。必ず、2人を助けよう」
おっさんが差し出した手を、賢人は強く握り返す。そうして、2人は足早に病院を後にした。
目的は地上8層、大森林エリアの中にある隠しエリア。そこにいるゴールデントレントを討伐し、万能回復アイテム『黄金のリンゴ』を手に入れること。そして、寝坊助な2人の目を覚ますことだ。




